一悶着

 話し好きの元同僚に捕まって随分と時間を取られてしまい、早くマリーの元へ行かねばと急ぎ戻ると、予想通りというか何というか、ご婦人方に絡まれていた。


(ありゃりゃ、遅かったか)

 

 自分一人で参加すれば、私自身に絡んでくるし、パートナーを連れて行けばそちらに向かうというのは分かっていたことだ。


 そこで大きく違うのは、私に来るの場合には友好的にであるのに対し、パートナーに向けては敵対的に来るであろうということか。




「本日はエド様のご要望で同行いたしておりますので、理由が知りたければエド様にお伺いください」


 ……どうやら私はマリーを甘く見ていたようだ。ご婦人方の顔を見るに、平民相手に嫌味三昧で泣かせてやろうとでも思っているようだが、彼女はその発言に対し平然と切り返している。


 それこそ自分が守らねばならぬ気張っておったのに、いやはや、あれだけのご婦人に囲まれながら、堂々と対峙している姿を見せられては、私の出番など無さそうではないか。

 

「言わせておけば!」

(ただ、少しやり過ぎたようだな。そろそろ止めに入るか)


 ご婦人の1人が持っていた扇子を振り上げるところを見て、心得があるマリーもスッと身構えてはいるが、反撃すれば平民が貴族に手を上げたと煩く言う輩が出てくるし、放っておいてマリーが叩かれれば私が黙っているわけにはいかない。止めるしかないだろう。


「何が言わせておけばなのかな?」


 ということで、穏便に済ませるように間に割って入ることにした。




「マリー、何かあったのか?」

「初めてお会いする方達なので、ご挨拶をしておりましただけですわ」

「その割には随分と騒がしいようであったが?」

「お恥ずかしい。少々話が盛り上がってしまっただけです」


 マリーがご婦人方にそうですよねと同意を促すと、ご婦人方は「そ、そうですわね」なんて言っているが、どう見ても顔が引きつっている。貴族のご婦人たる者、もう少し表情は見えないように努力してもらいたいものだね。


「おやおやご婦人方、お話が盛り上がっているようだね」

「これは陛下、もうご挨拶はよろしいので」

「やっと終わったから身体を動かそうと思ってね……おおそうか、皆はマリーとは初対面か。挨拶でもしていたのかな」

「はい陛下。皆様とは初対面ですので、ご挨拶しておりました」

「そうかそうか」


 不穏な空気を知ってか知らずか、参加者からの挨拶を一通り終えたブライアンが近づいてきた。


 突然の国王の乱入に、ご婦人方は畏まっている。彼がマリーと親しく会話していることもあって尋常ではない畏まり方だ。感情の起伏が表に出やすいのは難点だが、この一瞬で陛下とマリーの関係性がただの顔見知り程度ではないことに気付いたのはさすがと言うべきかもしれない。


「彼女は私の同級生でね。学生時代、生徒会活動を一緒にやった仲なんだ。私の側近達で年の近い者は、学園で一緒になったこともあるから、知っている者も多いと思うよ」


 陛下は陛下で、ご婦人方の様子から状況を感じ取ったらしく、そういうわけだから、オマエら変なマネしない方がいいよと釘を刺すために、マリーが自分の知己であることを明確に言葉にした。


「平民の出ではあるけど、学園時代の成績も優秀でね。昨年までは隣国リゼルの王宮で女官を務めていたから、下手な貴族よりもマナーには精通しているんだよ。それと、彼女はエドワードのお気に入りだからね。これからみんなも仲良くしてあげるんだよ……いいね」


 ニコニコしながら話しかけていたが、最後のところだけ王族の威厳オーラ全開で、半ば脅しのように言うものだから、ご婦人達は首振り人形のように頭だけカクカク頷いている。




「と、まああれくらい言っておけば、ご婦人ネットワークでアンタッチャブルな存在だと知れるのも時間の問題だろう」


 陛下と私にあそこまで言われては、この場に居続けられる胆力があるはずもなく、礼もそこそこにそそくさと退散するご婦人方。それを尻目にブライアンが笑って言い放った。


「それはよろしいのですが、陛下……マリーがリゼルの王宮で働いていたことを知っているのは……」

「そうだね、今日呼んだのはその話をしたいのもあるんだよ。……場所を変えようか」


 陛下が真剣な表情で言うので、余程大事な事なのだろうと首肯すると、侍従に人払いをするよう告げ、マリーと3人で無人のバルコニーへと足を運んだ。


 やっぱり……一枚どころの噛み方ではなさそうだな。

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