空騎士の弟子の弟子

斑世

第1話 憧れの騎士のように(1/4)

 子供の頃に読んだ絵本。

 『そら騎士きしジルバの大冒険』。

 その主人公、『空騎士ジルバ』に憧れているんだ。


 鷲獅子グリフォンを駆る『空騎士ジルバ』!


 黒騎士シュワルツ・リッターの異名をもつ『空騎士ジルバ』!

 なんてかっこいいんだ!


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 よぉよぉ、みなさんおそろいで。

 これから俺様の不出来な弟子が自己紹介するぜ!


 生っちょろくて青臭いが、たった一人の大事な弟子なんだ。


 聞いてやってくれ。



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 やぁ。

 僕はクライス。


 なぜか知らないけど、僕の家には『空騎士ジルバの大冒険』に関連した本が大量に置いてあったんだ。

 小説、絵本、娯楽絵巻、それからちょっとだけエッチな大人向けのやつ。


 ……あとこれは秘密だけど、発禁になっためちゃくちゃエッチなやつも、じいさんの部屋には置いてあった。


 僕は空騎士ジルバの本を読んで、ジルバに憧れて育った。


 人によっては老騎士時代の『漆黒の騎士スロージェ・メッディー、ジルバ』が好きって言う人もいるけど。

 でも僕はやっぱり、若騎士の頃のジルバが好きだな!

 真っ直ぐで、仲間と人民を想っていて、どこか危なっかしくて。

 でも、絶対に負けないし、心が折れることはなかった。


 そんな、若い頃の『黒騎士シュワルツ・リッター、ジルバ』が大好きなんだ!


 大人たちは言う。

 『空騎士ジルバの大冒険』を読んではならない。

 熱い物語だ。

 冒険に心が駆り立てられてしまう。

 もっと地に足をつけた生活をしろ。ってさ。


 パン屋のリンデ姉さんも言ってたな。


 “冒険者なんて呼び名が立派なだけで、やってることはただの恐喝とドブさらいよ。”って。


 うーん、そういえば姉さんってけっこう辛辣だな。


 金物屋のジョシュも言ってたな。


 “残される者のことも考えないで、冒険だお宝だって飛び出して。こっちはいつまで待てばいいんだよ。”って。


 なんていうか、家族とか恋人とかとは、しっかりと合意形成をしてから冒険すべきなんだよな。


 あとは、フレイマンのじいさんも……あのクソ師匠も、よく言ってたっけな。


 “『策略とは弱者が弄するもの。』ゆえに、俺様のような強者には策など不要!”

 “『戦いは力押し』なんだよ!”

 “『飛行要塞』があれば勝てた。惜しかった。いや、ほぼ勝ってた。”


 あれ?

 あのクソ師匠、ほんっっっとーーーうに、中身がある言葉をなにひとつ言ってなかったな。



 とにかく、そんな大人たちのことはいいんだ。


 12歳の小成人式も終わったし、15歳の本成人式も終わった。

 これで晴れて冒険者登録ができる!


 でも。

 「冒険に行きたい」って、「冒険者になりたい」って相談したかった、フレイマンのじいさんは。

 もういない。


 悔しいけど、じいさんはそこそこの物を遺してくれた。


 僕は、クソ師匠の名前に恥じないような冒険者になるよ。


 つまりは、何やったっていいってことだ。

 クソ師匠の名前なんて、恥以外の何物でもないんだから。


 そんなことよりも、もしできるなら……。

 憧れの空騎士のような、立派な冒険者になりたいな。


 弱きを助け、強きも助ける。


 願うならば、そんな生き方がしたい。


 ジルバならどうするか。


 その問いかけを、常に心にもっていたい。



 ・

 ・

 ・


 そして、モノローグはここまでだ。


 今は、過去に浸っている時間はない。



 襲われる馬車!


 明らかに高貴な、しかも秘密を秘めた深窓のご令嬢!


 心もとない護衛の給仕メイド


 彼女たちを襲う盗賊のような風体の一味!


 そして!

 あろうことか、本来はご令嬢たちを守るはずであった護衛騎士たちが、盗賊団の側についている!!!


 そして、そんな不運にして不穏な現場に居合わせてしまった少年、クライス!


 「どうする、どうするクライス!?」

 「いや、決まってるか。」

 「“ジルバならどうするか。”」

 「助けるしかないよなぁ!!」


 -----


 『空騎士ジルバの大冒険』の原典を読んではならない。

 真なる言葉が隠されている。


 「古代の真なる言葉」には力がある。

 『空騎士ジルバの大冒険』の原典は力ある“異世界の言葉”で書かれており、そこに書かれた「古代の真なる言葉」を発音してはいけない。

 “異世界の創造の言葉”を発音してはならない。



 クライスが読んだのは、何版本だっただろうか。

 もしかしたら貴重な初版本だったかもしれない。

 あるいは、それとも……。

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