決闘!?
「ふぇ? け、決闘、ですか?」
「あぁ、そうだ」
「私がやればいいのか?」
ミィちゃんが僕の前に立ち塞がる。
「お兄ちゃんを虐めるならティナが許さないの」
ポケットからティナも顔を出す。
「ちょっと待て、何を言い出すんだ!?」
「言っただろ? 男には引けない戦いがあると」
「そうね、確かにあるのかもね」
姫野さんがまっすぐ進んできて、僕の隣に立つと剣を抜いて如月さんたちの方を向く。
「私はもちろんやしろんに付くわよ。だって家作ってもらうんだし」
「じゃあ俺もそっち……って、引っぱるなよ!?」
伊藤さんまでも僕の方へ来ようとしていたのを如月が必死に止めていた。
「えっと、本当にするのですか?」
「も、もちろんだ。ただ一対一で三回勝負する、とかはどうだ?」
「うーん、どうしよう?」
「面白そうなのだ!」
「お、お兄ちゃんに任せるの」
「でも、それだと僕についてくれるって行ってる二人に悪い気もするし……」
僕が悩んでいると如月さんが伊藤さんと姫野さんを捕まえてコソコソ話し出す。
「お前たち、冷静に考えろ。これは八代姫とのコラボ配信だぞ!?」
「はっ!?」
「でも、やしろんと戦いたくなんてないわよ?」
「だからこその景品だろ? 八代姫は直接戦いには参加しない。相手が魔物たちならみんな僕たちを応援してくれる。つまり僕たちの人気もうなぎ登りというわけだ」
「そう上手くいくかしら? 一対一でドラゴンの相手なんてできないわよ?」
「そこはもう負けるものとして計算するしかないな。他で取り戻せば良い」
「他ってドラゴンが何体いたと思ってるんだ!? ドラゴンを並べられただけで俺たちに勝ち目なんてないぞ?」
「そこは決闘だからルールを設けることができるだろ? 一種族一体まで、とか」
「お前、天才か!? それならドラゴンと悪魔とゴブリンか」
「そういうことだ」
ひそひそ話を終えて、今度こそ三人纏まって言ってくる。
「どうだろう? せっかくだからコラボ配信とかにしてお祭りのように戦う、とかはどうだろう?」
「コラボ……」
――人気配信者の人ってたまに有名な人とコラボしてるよね? この人たちもSランクパーティで有名な人たちだし。
「えっと、僕は構いませんけど、ミィちゃんもティナもいいの?」
「いいのだ!」
「もちろんなの」
即答をしてくる。
楽しめると思っているのだろう。
「えっと、あなたたちも良かったのですか?」
「俺は構わないぞ」
「えっと、これ受けてもおうちの件は――」
「もちろんそれはまた詳しいお話をしましょう」
「ありがとー! それなら思いっきり楽しみましょう」
こうして『決闘』という名目で僕たちのコラボ配信が決まったのだった。
それから一日掛けて僕たちは配信のルールを決めていた。
まずは、相手を殺すのはNG。
これは大前提だった。そのことには『月夜の光』の面々もホッとしている様子だった。
次に魔物たちは一種族一体まで。
これは配信の絵的にも同じ魔物が並ぶのはどうか、という提案の下に決められた。
それ以外なら誰が出ても良いようだ。
最後に景品は僕らしい。
僕が勝った人に一日付き合う権利らしい。
なぜか『月夜の光』側もミィちゃん側もそれを望んだという理由がある。
必死に抵抗をしたのだが、ここは変わることがなかった。
「では、配信は今晩、ということでいいでしょうか?」
「もちろん! 僕たちが絶対に勝つ」
「私が負けるはずないのだ!」
「あっ、これって一応探索者協会へも話をしておかないといけないですか?」
「ダンジョンでのことだから別にいい気もするけどな」
「まぁ、すぐ近くにおられますから話すだけ話しますね」
それから僕たちはそのままの足で天瀬さんの家へと向かう。
◇◇◇
「あの……、柚月さん。そちらの方々って私の目がおかしくなってなかったらSランク探索者の『月夜の光』さんじゃないですか?」
呼び鈴を鳴らすといつもよりラフな格好をした天瀬さんが出てきて、僕たちの姿を見た瞬間に固まっていた。
「やっぱりわかるんですね」
「い、い、一体、柚月さん。彼らに何をしたのですか!?」
「お、落ち着いてください。僕はまだ何もしていませんよ……」
「良かった。……まだ?」
「今晩にコラボ配信をすることになりまして――」
「あっ、なんだ。コラボ配信ですか。それなら――」
「はい、それで決闘を――」
「アウト!! それはアウトです!!」
天瀬さんが僕の目の前にバッテンを作って言ってくる。
「えっと、これは僕の提案じゃなくて、『月夜の光』の皆さんからの提案なんですよ」
「わかってますか? いいえ、絶対にわかってないですね。あなたたちはなんですか!? 自殺志願者なのですか!? 絶対に辞めてください」
「いや、ちゃんとその辺りもしっかり取り決めてある。相手が即死する攻撃はしないとか、な」
「それじゃあミィちゃんさんは参加しないのですね!?」
天瀬さんの目に希望の光が灯る。
「私は参加するのだ! 楽しみなのだ!」
「どうやって即死を防ぐんですか!? 通常攻撃が全体攻撃で即死攻撃のミィちゃんさんですよ!?」
簡単に希望が打ち砕かれた天瀬さんはさらにグイグイと僕の方へ詰め寄ってくる。
するとその言葉に対して姫乃さんがきっぱりという。
「それはリーダーが気合いで防ぎます」
「僕が相手にするのか!? いや、順番はクジで決めるからまだわからないじゃないか」
「ま、まぁ、リーダーさんは尊い犠牲になったと言うことで、他はさすがにゴブリンさんたちですよね?」
「えっと、あとはティナとルシルかな?」
「……どこの決闘にラスボスを三体連れてくる人がいるのですか!?」
天瀬さんにジト目を向けられる。
「大丈夫だよ。何かあってもティナが治してくれるし……」
「はぁ……、一応確認しておきますけど、『月夜の光』さんも同意してるんですよね?」
「もちろんだ」
「右に同じ」
「家建ててもらうしね」
三人ともすぐに頷いていた。
「わかりました。それなら私にとやかくいう権限はありません。ただ、あなたたちを失うことだけは避けたいので私も審判として参加しても良いですか? 危険な行動は即アウトにしますから」
「まぁ、中立を保つならそれしかないかな?」
「ちなみにどうして決闘をするようなことになったのですか?」
「えっと……、僕を奪い合って?」
「訳がわからないですよ」
「僕もわからないですから」
「ちなみにコラボっていつするのですか?」
「今晩です」
天瀬さんが笑顔のまま固まる。
「あの、聞き違いかもしれませんのでもう一回教えてください。コラボっていつするのですか?」
「今晩です!」
「は、早すぎますよ!? 所長たちへの連絡とかできないじゃないですか。そもそも今日は日曜日だし」
「でも、また来てもらうのも悪いですし……」
「あー、わかりました! わかりましたよ! あとで所長にはきっちり休日手当と危険手当をいただきます!」
天瀬さんの中でようやく決着がつき、同意の言葉が得られる。
「ところで柚月君はいつまでその可愛らしいパジャマを着てるのですか?」
「あっ……」
朝のトラブルでろくに着替えもせずに出てきたせいで今の自分の格好がミィちゃんたちとお揃いのパジャマであることにまるで気づいていなかった。
「えっと、それじゃあ僕はひとまず着替えて……」
「嫌なのだ! 八代と一緒がいいのだ!」
「でもこれは寝巻きだから、ね」
「もう一つお揃いのがあったの」
「それなのだ! すぐにそれに着替えるのだ!」
「ちょ、ちょっと待って! そっちも僕は……」
何かいう前に僕はミィちゃんに引きずられて行くのだった。
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