第4話 『対決!? Sランク探索者の月夜の光』
相談
家に帰ってきた僕はルシルに変わったことがないかの確認をしていた。
「なにか変わったことはあったかな?」
「そうですね。どうやらゴブリンたちの住居が完成したようでして、主様にぜひ一度来ていただきたいと言っていましたね」
「ずいぶん完成が早かったけど、みんな無茶してないよね?」
「なんとお優しいお言葉。このルシル、主様のそのお言葉をしかと皆に言い聞かせるようにさせていただきます」
仰々しく頭を下げてくるルシル。
「あと、これはルシルにお土産だよ」
正直服などで予算オーバーしてしまい、ルシルに買えたのは百円で買えるコップだけだった。
さすがにこれは悪いと思って、いずれもっと良いものを買ってあげようとは思っていたのだが、ルシルは歓喜に震えていた。
「こ、こ、こちらを私めに下賜していただけると?」
「そ、そんな大げさなものじゃないよ。ルシルは色々と手を貸してくれてるからもっと良いものをあげたかったのだけど、今の僕じゃこれが精一杯だったんだよ」
「いえ、こちらのコップは家宝として一生大切に保管させて頂きます」
「いやいや、別に割れても良いものだから普段使いしてくれるとうれしいな」
「うぐっ……、し、しかし、初めての主様から頂いた、一生に一つのもの……。しかし、主様の命もまた絶対……」
悩みすぎてルシルの表情がころころと変わっていた。
「わ、わかったよ。それは保管して置いてくれて良いよ。明日もう一つ別のを買ってくるから」
「そ、そんな……、一つならずに二つも下賜いただけるなんて。このルシル、感動の涙が止まりません」
「ぼ、僕にどうしろと……」
「そういえばこちらはご報告する価値もない情報なのですが、ダンジョンに少々小うるさい
「前にミィちゃんも言ってたけど、虫が出やすい環境なのかな? 必要なら僕がどうにかするけど?」
――蚊取り線香とか虫除けスプレーとか買ってきたら良いかな?
そんなことを考えているとルシルが必死に首を横に振る。
「いえ、主様のお手を煩わせるようなことではありません。我々の方で駆逐しておきます」
「そっか。よろしくね。もし困ったら僕に言ってくれたら良いからね」
「かしこまりました。このルシル、必ずや
これでトカゲ君やゴブリンたちがいきなり変な虫に襲われることもないかな?
◇◇◇
夜になると僕はお風呂に入り、三人お揃いの着ぐるみパジャマを着ていた。
そして、ベッドに横になりながらディーコードでユキさんに今日のお礼を送っていた。
柚月八代:『今日はありがとうございました。ミィちゃんたちの分までランチをご馳走になってしまい申し訳ありません。次は僕がご馳走させてください』
これでいいかな?
僕はそのままスマホを置いて寝ようとする。
すると、次の瞬間にスマホが震えていた。
「うみゅ? 八代、もう朝なのか?」
「まだまだ夜だからゆっくり寝ててくれていいよ」
僕のベッドでなぜか寝ているミィちゃんをもう一度寝かせるとスマホの画面を見ていた。
さっきメッセージを送ったところなのにもうユキさんから返事が来ていた。
――早くない!? ユキさん、ずっとスマホを見てるの!?
メッセージを見ると確かにユキさんからのものだった。
ユキ:『こちらこそありがとう。楽しかったわ』
たった一行だけ……。と思ったら続けてメッセージが来る。
ユキ:『そんな堅苦しい感じにならなくても気軽に連絡を送ってね』
気を遣ってくれているのだろう。
でも、探索者の知り合いがいない僕としては安心して聞ける人がいるというのはとても頼もしい。
天瀬の「私を忘れないでください」という声が聞こえてきそうだが、職員と実際にダンジョンに入ってる人とではまた感覚も違うはずだった。
――そういえば、今日探索者の人に勧誘されたなぁ。
僕としては全然知らない人だったのだが、ユキなら知ってるかもしれない。と聞いてみることにした。
柚月八代:『今日、『月夜の光』って人たちに探索者のパーティに入ってくれないかって言われたんですけど、ユキさんってこの人たちを知ってますか?』
ユキ:『それなら私が組みたい』
一瞬だけ上がった文字はすぐに消えていた。
ユキ:『ごめんなさい、打ち間違えたわ』
柚月八代:『打ち間違い、僕もよくします』
ユキ:『だよね』
ユキ:『えっと、『月夜の光』のことだったわね』
ユキ:『探索者の中だとトップクラスの実力を持ってるパーティね』
柚月八代:『Sランク探索者って言ってましたね』
ユキ:『そうよ。日本でたった9人しかいないSランク探索者の3人ね』
ユキ:『メンバー全員がSランクというのも『月夜の光』だけなのよ。それほどの実力者パーティよ』
柚月八代:『すごい人たちなんですね。でもそれだと尚更僕が誘われてる理由がわからないですよ!?』
ユキ:『まぁ、実力はすごい人たちでドラゴンすら倒せるって言われてるんだけどね。どうも地味なのよ』
柚月八代:『ふぇっ? 地味??』
ユキ:『本来人気が出て当然のSランク探索者たちの配信がまともに見られないほどには地味なんだよ』
柚月八代:『それなら僕も地味ですよ?』
ユキ:『何言ってるのよ、人気配信者』
ユキ:『今の急上昇ランキングを総なめしておいて、人気がないなんて言ったら彼らが怒るわよ』
柚月八代:『あれはミィちゃんやティナのおかげですし』
ユキ:『私が知ってることはこれくらいね』
ユキ:『お役に立てたかしら?』
柚月八代:『とっても助かりました。ありがとうございます』
ユキ:『ふふっ、それじゃあおやすみなさい』
柚月八代:『はいっ! おやすみなさいです』
僕はスマホを閉じると今教えてもらった情報をまとめる。
どうやら彼らはライブ配信の人気が欲しいようだった。
それで僕に声をかけてきたということは、ミィちゃんやティナに出演してほしいということだろう。
――なんだ、やっぱり僕自身に加入してほしいってことじゃないんだ。
そのことがわかり安心した僕はミィちゃんの隣で眠りにつくのだった。
◇◇◇
ドゴォォォォォォン!!
「な、何が起きたの!?」
朝、突然の爆発音で僕は思わず飛び起きていた。
「うみゅ、うるさいのだ……」
「ミィちゃん、なんかダンジョンの方が爆発したんだよ。一緒に来てくれないかな?」
「わかったのだぁ……」
まだまだ眠そうなミィちゃんを背負うと僕はパジャマのまま、外へと出る。
すると、畑の方からティナが声をかけてくる。
「お兄ちゃん、何があったの?」
「僕もわからないんだよ。今から見に行くところだよ」
「それならティナも一緒に行くの」
ティナは畑から出ると服についた砂を払った後、僕の腰のポケットの中に入ってくる。
そしてダンジョンの中を見ると先ほどの爆発の理由がわかった。
中ではかなり激しい戦闘が行われていたのだが、トカゲ君やルシルと戦っているのは昨日僕を勧誘してきたSランクパーティ、『月夜の光』だった。
「この苦難を乗り越えて、僕は必ず八代姫を救うんだ!!」
――ちょっと待って!? 僕、勝手に姫にされてるんだけど!?
一瞬引いてしまったのだが、ユキさんから強いと聞いていたのは本当のようで、トカゲ君となかなかいい勝負をしているようだった。
「じゃない!? みんな、戦うのはやめてよ!? どうしてこんなことになってるの?」
「あっ、八代姫。ご無事でしたか」
「主様、昨日お話しした通り
「ひ、人はゴミじゃないからね! あとそっち! 僕は姫じゃないよ!」
ガックリと項垂れるルシルを無視して、僕の視線は『月夜の光』へと向く。
「昨日お話ししてたお土産をお持ちしたのですが、危険な悪魔の気配を感知しましたので討伐しようとしてました」
「うん、確かにルシルは悪魔だけど、危険じゃないからいきなり襲ったらダメですよ!」
「それが八代姫のご命令ならば――」
なんだろう、このルシルがもう一人増えた感じ……。
「えっと、僕の気持ちが変わるような品……だったよね? 一体何を持ってきたの?」
「はい、こちらにございます。これで我々の力をお分かりいただけるかと」
『月夜の光』のリーダーである如月さんが見せてきたのは成竜の爪だった。
それを見た僕は全てが繋がった。
もしかして、この人たちはこの
ルシルもゴミを排除するって言ってたし。
ちょっとお互いが勘違いして、戦いになっちゃっただけなのだろう。
「なんだ、それなら早く言ってくださいよ。ついてきてください。案内しますよ」
「おぉ、やっとわかってくれたか」
僕の後ろを『月夜の光』がついてきて、ダンジョンの奥へと進んでいく――。
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