配信しよう

「ねぇ、本当に僕が映らないとダメかな?」



 配信を撮ると決めてから僕は必死の抵抗をしていた。



 本来なら映るのはミィちゃんたちだけの予定だった。

 でも、ミィちゃんは僕と一緒に撮りたいと言い出したのだ。

 いや、正確には口には出してないが、ライブ配信するためのスマホを別のトカゲくんに渡し、僕の服を掴んで離さなかった。



「ミィ!!」

「わかった、わかったよ。僕も少しだけ映るよ。それでいい?」

「ミィ!」



 ミィちゃんが大きく頷く。

 それを見て僕は少しだけ安心していた。



「ありがとう……」



 それでも配信予定と決めていた時間が近づいてくると完全に緊張してしまい、心臓が破裂しそうになる。



「で、でも、今の育成記録ってどんなことをしたら良いのかな?」

「みぃ?」



 本来のダンジョン配信は魔物討伐や迷宮走破がメインである。

 でも、育成記録となるとまた別の配信内容になるだろう。



「うーん、ボールで遊ぶ?」

「みぃ!!」



 ミィちゃんが喜んでくれるので、僕はボールを引っ張り出してくる。



 僕が投げてそれをミィちゃんが空を飛んで追いかけて取ってくる。

 まるで犬のようだけど、それでもすごく喜んでくれているのがわかり、僕自身もなんだか嬉しくなる。


 それをしばらく続けていると緊張が解けてくる。


 するとミィちゃんが突然体を震わせて、口から火を吐きだす。



「わわっ、ミィちゃんって火も吹けるんだね。ダンジョンのトカゲってすごいよね。それに僕、トカゲが空を飛べるなんて知らなかったよ」

「みぃー♪」



 嬉しそうにミィちゃんが僕の上を飛び回りながら時折火を噴き出している。

 外で火を噴かないように注意する必要はあるが、今はダンジョンの中。

 むしろ好きにさせてあげた方がのびのび育ってくれるだろう。


 思えばミィちゃんが怪我をしてたときからまだ一週間ほどしか経っていない。

 あのときは手のひらサイズだったのにもう僕の体の半分ほどの大きさがある。



 一体このあとはどのくらいまで大きくなるんだろう?



 子供が成長する親がこんな気持ちなんだろうな。

 そんなことを思っているとミィちゃんが突然光り出していた。



「ミィちゃん!? ど、どうしたの!?」

「み、みぃぃぃぃ!!」



 困惑の声を上げるミィちゃんをぎゅっと抱きしめる

 するとミィちゃんの体が柔らかく丸みを帯びていき、そして――。



「うん、やっと八代と同じ姿になれたのだぁ」



 光が止むと、そこにいたのは赤く長い髪を持つ幼女の姿があった。

 頭には角とお尻に尻尾があるものの服は何も着ておらずに生まれたままの姿で――。



「って服を着て!?」

「服??」

「と、とりあえずこれを――」

「着ないとダメなのか?」

「だ、ダメだよ!?」

「むぅ……、仕方ないのだ」



 僕は上着を手渡す。

 それを頭から被る幼女改めミィちゃん。



「えっと、ミィちゃん……で良いんだよね?」

「もちろん。八代とマブダチのミィなのだ」



 腕を組み堂々と言い放つ。

 どこかしら威厳のようなものを感じる。

 でも、それ以上にかわいさが勝っている。



「僕、ダンジョンの魔物の生態って知らなかったけど、人化できるんだね……」

「私はできるようになるまで少し時間がかかったけど、他にもたくさんいるのだ!」

「そっか……。それなら色んな魔物達とお友達になれるかも知れないね」

「中には危険な魔物もいるのだ。八代のことは私が守るのだ!」

「こらっ、喧嘩はダメだよ。ちゃんと話し合いで解決しなきゃ」

「もちろん八代に手を出されたとしても殺し合いはなしあいで解決するのだ!」

「うんうん、それでいいよ」



 僕はミィちゃんの頭を撫でると彼女は嬉しそうに目を細めていた。



「それじゃあ、本当は嫌だけどそろそろ覚悟を決めてみんなのことを配信しないとね。みんなが危険のない優しい魔物だってことを伝えないと!」

「その必要はないのだ!」

「ど、どうして?」

「だってもうずっと配信してるのだ!」

「ふぇっ!?」



 よく見ると一階層の魔物であるトカゲくんの一人がずっとスマホを構えていた。

 あれはただ持って貰ってるだけだと思ったのに、いつの間にかライブ配信をしていたようだった。


 というか僕よりも配信に詳しくない!?



「勉強の成果なのだ!」

「ミィちゃんの指示だったの!?」

「感謝して欲しいのだ。嫌な時間が一瞬で終わったのだ」

「た、確かにそれはそうだよね…。かなり恥ずかしい姿を見せちゃった気がするけど、見習い探索者の僕の配信なんて誰も見ないだろうし。えっと、これで配信終わりましゅっ」



 僕はトカゲ君が持っているスマホを取ると盛大に噛みながらライブ中継を終了する。


 本当ならそのときに同接数を確認しておくべきだったのだが、まさか自分のライブ配信がそれほど多くの人に見られるはずがない、という思い込みと自分が映っている恥ずかしさからそのまま切ってしまったのだ。


 同接数百人。

 宣伝も一切ない初配信にこれほど多くの人数が集まるなんて異例のことであった。


 しかし、異例なことはそれだけではない。


 配信中のコメントはおろか、配信後の掲示板でも相当の盛り上がりを見せていた。

 さらにこの配信を見た人たちが動画を広めて回っていたのだ。

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