第3話 入学式 中編①

————見ろよアイツら。Dランカーだぜ

————サイキッカーの落ちこぼれが

————今からでも普通科に転入してくれねぇかな


 クスクスと嘲笑い、罵る声が僕の耳に流れ着く。


「なんだよそれ‥‥今日入学した俺たちになんの違いあんだよ!!」


 2人の男子生徒のうち1人が女子生徒だけでなく周りの連中にも聞こえるように怒声を轟かせた。


「今日違いが生まれたわけじゃないの。私と貴方が母親のお腹の中にいた頃から格の差は開いていたの。おわかり?」


 この後の王道展開は僕でも予想がついた。恐らく男子生徒は女子生徒に超能力を行使する。そのあとは————いや想像してる暇があったら余計ないざこざに巻き込まれる前に退散しよう。


 こうして僕は事件に関与しないため人知れずこの場を離れた。しかしこの後予想していたものとは外れ、おもわぬ展開に運ばれていた。


 それは今後僕の運命を大きく左右していくほどに。


「だったら見せてみろよ!その格の差ってヤツをよぉ!!」


 研ぎ澄まされた緊張が走る。それは紛れもなくこの後大惨事が起きることを予感させた。


「ハァ〜これだからDランカーは。新入生のしおり読んでないの?他者に向けて超能力を行使する際は担任あるいは教職員の許可がなくてはならない。こんなとこで超能力ぶっ放したら入学そうそう退学よ?」


「あっ—————」


 騒動によって熱された頭が冷めたのか、ふと我に返ったように男子生徒は唖然あぜんとした表情を浮かべた。


「ま、Dランカーのチンケな超能力なんて大した騒ぎにもならないでしょうけど」


「この女‥‥言わせておけば!!」


 どっと笑いが周囲に起こると、耐えに耐えていた堪忍袋の尾が切れた。男子生徒は体を起こすと同時に女子生徒目掛けて拳を突き出した。


「はーいそこまでなのです」


「え、は!?」


 予期された鈍い音は響くことなく拳は1人の少女の前で急停止した。男子生徒は思いもよらぬ出来事に拳を引くと再び腰を抜かし地面に尻をついた。


「女の子の肌は命より大事なものです。それを傷つけるなんてあり得ませんの。しかも男の子が女の子を殴るなんてもっての外なのです」


「は、はい」


  美しい顔立ちに輝く黄瞳、鈴の音のような凛とした声色、その全てが彼女を美少女として完成させている。小さく華奢な体は先ほどまで人混みに隠されていたため視界に入らなかったが、その姿は息を呑むほど美しかった。


「貴方も貴方なのです。超能力のスペックに差があっても人としての格は決まりません。本当に優れたサイキッカーは非力な者の気持ちも考えられる人間であるとメルのお父様も言っていたのです」


「す、すいません!私が間違っていました」


 深々と謝罪を述べると女子生徒は恥ずかしさからかこの場を走り去ると、メルと自称する彼女は腰の引けた男子生徒に近寄った。


「自分のことを責める必要はないのですの。それは貴方のお父上やお母上が与えてくれた小さな才能。決して気に病むことは—————あれ、どうかしたのですか?」


「え、いや。だって‥‥」


「あ!気がつかなくてすみませんなの。そもそもここにいるってことはメルのサインが欲しかったんですよね。はいどーぞ!大切にしてくださいなの」


 呆然ぼうぜんとした男子生徒達にサイン色紙を渡すと彼女は周りの生徒を引き連れながら後を去る。


「流石メル様。低俗な男達に有無を言わさない見事な立ち回りでした」

 

「ん?何のことですの?あ、そんなことよりサーシャ。さっきこちらを見ていたDランカーの男子生徒見たです?」


「Dランカーの男子生徒?あの場に2人以外のDランカーがいましたか?」


「気がつかなかったのならいいの。単なる興味本位です」


 赤色のラインを制服に縫われた女子生徒が2人。周囲の注目を集めながら入学式会場であるアリーナへと向かう。


 Aランカー メルロ・ミネルヴァ


 透き通った白髪をなびかせながら学生生活に胸を躍らせた。

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