学園不適合者のサイキッカー〜男子生徒Aでいたいのに病み系美少女な君がいるから叶わないようです〜
櫻乃カナタ
第1話 運命の歯車は静かに回る
〔0〕
———やめて———
「おいおいどこ行くんだよ阿久津ぅ〜?」
ジリジリと端の窓辺に追い詰められると僕は逃げ場を失った。絶好な獲物を前にして涎を垂らしたハイエナのように目の前の男達は不敵な笑みを浮かべている。
「お願い、だから。これ以上近づかないで‥‥」
「いつもお前にはイラついてたんだ。いつも特別扱いされるお前がなぁ」
僕の必死の言葉になど耳を貸さず、彼らはズカズカと距離を詰める。
「どーしてなんだ阿久津。どーしてお前がいつも永愛ちゃんに特別扱いされる!?ロクに能力も使えないお前がよぉぉぉ!?」
——ダメだ!ダメだダメだダメだダメだ!!——
「俺たちが告白したところで無駄なのは分かってる!決まってこう言うからな!まーくんを守らなきゃってなぁ!!」
目の前に置かれた机を蹴り飛ばすと荒々しい音を立てて教室に響き渡った。
「俺たちはどうすればいい?」
——お願いだから——
「どうすれば彼女に振り向いてもらえる!?」
——来ないでくれ——
「考えに考えたさ!!んで、考えた結果‥‥」
——抑えてくれ!!——
「お前が死ねばいいんじゃねぇかってなぁぁ!!」
「ごめんなさい」
振り上げられた拳の光景を最後に僕は瞼を閉じた。そして次の瞬間、教室には真っ赤な血の海が広がっていた。
制服を真紅に染め上げ、笑みを浮かべていた彼女を残して。
〔1〕
事件ファイルNo.215
2854年2月9日午後17時半頃、男子生徒数十名による嫌がらせが要因となり事件が勃発。重傷者を多く出したものの全員命に別条はない。
また被害者及び加害者である男子生徒Aは重い精神疾患を患い、在学していた学校を自主退学することになった。
後に学校側は保護者を集めて説明会を開くも被害者側及び加害者側に和解が見られたため平和的に解決。
「学校側の緩和されていた生徒への管理体制を厳重にすることで事件は収まった‥‥ツッコミどころ満載ですねこれ」
桃色の髪を後ろに束ねた女性が資料を読み終えると整った小さな鼻を鳴らした。
「毎度これで事件が解決してくれるのなら貴方たち警察はお役御免ですね。被害者も加害者も互いにウィンウィンになって終わる事件なんて未来永劫起きません」
その場で資料を灰に化すと目の前で居座る7人の老人達に向け鋭い眼光を飛ばした。
「これは私が作成した報告書ではない。防衛省の水原大臣が直々に執筆した我々警察への要請書だ。君は黙って従っていればいい月野君」
「7回」
予感もなく突如として放たれたどこか意味深な数字。3秒にも満たない刹那の時間が経過すると先ほどまで眉一つ微動だにしなかった老人の目が大きく見開いた。
「お分かりですよね?貴方たち政府の犬が今までこの男子生徒Aの事件を握り潰し隠蔽してきた事件の数です。私が知らないとでも?」
男子生徒A。名前こそ伏せられているがおおよそ素性の調べはついている。この男は一回目の事件で男子生徒2人を放課後の屋上でリンチ。二回目の事件では夕方の公園で男子生徒6人の頭蓋骨を骨折させ、今回の一件も含め三回目の事件からは10人を超える学生達を半死状態にしている。そしてこれだけの事件が多発しているというのに事件は一瞬で鎮静化し、マスメディアにその全容を明かさずに終わる。
普通に考えたって尋常じゃない。見えない力がこの事件の裏で働いてる。そんな憶測と探究心が私を真実へと導いた。
「7回も隠蔽するほどこの男子生徒を守らなければならない理由でもあるのですか?例えばそうですね、”七曜家の血筋”だったりとか?」
禁句、禁忌、禁止。その全てに当てはまる単語を吐いたその瞬間、あぐらをかいて座っていた老人達は一斉に立ち上がり私に殺気を向けた。
「月野お前‥‥何が言いたい?」
男達全員が腰に備え付けられた刀を、あるいは胸に入れられた銃を握る。
「そんなに動揺なさって。私の言ってることが真実だと認めているようなものですよ?」
「いいから答えろ。二言はない」
先ほどまで私と会話を続けているこの老人も温厚な口調で話ながら私の足元まで領域を伸ばしている。返答次第ではいつ私の体に穴を開けてもおかしくない。
「私を消すことに決めたのなら結構、どうぞご自由になさってください。ですがよく考えて行動を起こしてくださいね?」
履かれたローファーをコツンと床に叩くと水面に広がる波紋の如く、七色の領域が他の男達が展開した領域を上書きする。
「老人ホームで看護されながらゆっくり老衰していく人生の終わり方か。業火に焼かれて骨になり犬畜生の
額から冷や汗を浮かべると老人達は深く息を呑み込んだ。忘れていたわけではない。ただここまでの実力差があるとは理解していなかったそれだけ。
超能力レベルMAX”超能力者”月野ミハル。日本に3人しか存在しない国家指定戦力。
肩書きに
「‥‥聴こう。何が言いたい」
椅子に腰を下ろし背もたれに寄りかかると溜まっていた緊張が深いため息となって放たれた。
「これはあくまで私の推測なのですが。彼はまだ自分の膨大すぎる超能力に気づいていない。扱えていないのだと思っています」
一度言葉を止めるも老人達は私の話を遮る様子は見られない。先ほどの
「そしてそれは彼女も然り。このまま放置すれば彼らは大きすぎる才に人生を振り回され、いずれは貴方達の
「ミハルお前はどこまで‥‥いやいい。続けなさい」
「彼らを超能力者と呼ぶにはまだ危うい。歩き方すらおろか四足歩行しているうちに転んでしまうような未熟な子たちです。そんな子たちには適切な指導者が必要でしょう?」
「では、つまり」
「はい。”阿久津真尋”及び”日ノ森永愛”は私が預かります。未来の超能力者を育成する国立鳳凰大学附属北ノ森高校の生徒として」
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