14.1キロの追憶

醍醐潤

 ――ガタン、ゴトン。


 住宅街に響き渡る大きな音がしたかと思うと、二両という短い車両が、カーブの先から姿を現した。


 列車の到着を知らせる接近メロディの代わりに、踏切の警報機が「カンカン」と鳴り響く。レストグリーンとホワイトに塗り分けられた電車は、スピードを落とし、ゆっくりと、こじんまりとした駅のホームに滑り込んだ。


 僕は、駅の木製のベンチより立ち上がった。ドアが開けられた。一両目の一番前のドアより、電車に乗った。


 車内は、平日の昼間とあってか、全く混雑していなかった。お年寄りの方たちがちらほらと座席に腰をかけている。冷房がよく利いていて、とても涼しい。


 赤ワインのシートと、学校の黒板のような色をした床。運転室の後ろにある座席が空いていたので、そこに腰を下ろした。その刹那、ドアチャイムが鳴って、ドアが閉まると、坂本比叡山口さかもとひえいざんぐち行きの電車は、定刻通り、駅を発車した。


 重厚感のあるモーター音。踏切の警報音が流れていく。僕の目は、大きな窓が映し出す前面風景を無意識のうちに見ていた。


(あの頃もこうやって、前の景色にかぶりついていたな)


 ふと、幼少期の頃の自分を思い出していた。


 緑色の電車は急カーブを曲がる。車輪の軋む音がした。

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