回想:4人の出会い①

 小学校に入学して、すぐにクラスメイト同士の自己紹介をすることになった。


戦御いくさみ村正。しょうらいのゆめは、かじしになることです」


 先生に言われた通り、名前と将来の夢を言っていく。クラスで2番目に、皆の前に立って自己紹介したのは村正だ。にっこりと笑って愛想良く、しかし目立つようなこともなく済ませていた。


「……如月きさらぎ奏。しょうらいのゆめはまさのおよめさ……けんし」


 村正の隣の席に座る奏が言った。先生の笑顔が固まりそうになったが、言いかけた言葉にツッコむことはなかった。


「オレは鈴木健太だ! オレはせかいでいちばんはえーおとこになるぜ! かけっこならまけねぇ!」


 奏の更に隣の列の1つ後ろ。

 やんちゃそうなツンツン頭の少年だ。見るからに活発そうな印象を受ける。


「アタシは奈々星ななほし凪咲。ゆめは、せかいでいっちばんのまほうつかいになること!」


 健太の隣、短いツインテールの少女が言った。指パッチンと同時に軽く火を出現させて、魔法使いの威厳を示す。小学校入学時点で魔法が使える者などほとんどいないため、教室のあちこちから歓声が上がっていた。


「き、教室では危ないから魔法は使わないでねー」


 先生は最低限の注意だけしておく。幼い頃から魔法を使える子供が事故で大怪我を負ってしまうなど、様々な出来事を知っているからだった。

 理科室で魔法を暴発させてしまい教室が吹き飛んだ、なんてモノもある。


 特に子供の時のできる感覚は万能感にも近い。うっかりとんでもないことになってしまうことも多いのだ。


 そうして自己紹介が終わると、先生は全30名の生徒を見回す。


「今日から同じクラスとして、皆仲良く過ごしましょう」


 締め括って、進めていく。

 初めて担任を持つクラスなので緊張も大きく、また少々不安要素もあったが皆いい子そうだと一安心していた。


 この中に化け物が4人いることは、まだ知らない。


 ◇◆◇◆


 入学からしばらく経つと、仲のいい子とグループになったり、休み時間になにをするかであったり、行動が決まってくる。


 そして、頭角を現す子も出てくる。


「けんた! 2年生がけんたとしょうぶしたいって!」

「おう!」


 男子では鈴木健太。自己紹介の通りかけっこの時圧倒的な速さを見せつけたことで一躍ヒーローになった。50メートル走の記録、1秒95。身体能力が上がっている時代にあっても、小学生で2秒を切る例はほとんどない。それも小学1年生で超えたのだから、脅威の速さと言えるだろう。

 明るく分け隔てない性格で、クラスの中心人物の1人になった。


「なぎさちゃん、まほうおしえて!」

「うん、いいよ」


 女子では奈々星凪咲。自己紹介の時にも見せていた魔法が目を惹き、自分達も使えるようにと彼女の周りには自然と人が集まっていた。


「……まさ。きょうはうちくる?」

「んー……。いいよ、つくってるぶきもないし」


 そしてそういったグループとは別で、大体いつも一緒にいる戦御村正と如月奏。

 村正はそうでもなかったが、奏に関しては身体能力の高さ故に頭角を現していた。体育で無双しつつ50メートル走で健太に次ぐ3秒45を記録している。やる気があるのかないのかわからない様子だが、それでもクラス内では圧倒的な運動能力を示していた。


 どれだけ凄くても彼らと周囲は小学生。運動ができれば人が集まるのだ。


 ただし、奏においては村正とばかり一緒にいるので特定のグループを形成しないでいた。

 そうなると村正にも注目が向くのだが、他より優れているのは確かだが奏ほどではなかったため大して目立つことなく過ごしていた。


 もちろん、図工で粘土細工を作るまでの間だが。


「ちょっと! きょうしつでモノなげたらあぶないでしょ!」


 掃除の時間。小学生ともなれば、つまらないからと遊び出すことも多い時間だ。特に活発な男子が丸めた雑巾をボールにキャッチボールが催していた。

 当然、真面目に掃除している生徒からすればいい迷惑だ。


「わりーわりー。きをつけるからよー」


 ただ軽く流してしまいちゃんと受け取られないこともある。


「きをつけるんじゃなくて、やめてちゃんとそうじしてよ!」

「いいじゃんか、せんせーもいないしよー」

「よくないしサボらないで!」

「うっせーなぁ」

「まじめにやらないほうがわるいの!」


 言い合いが始まると、男子は健太、女子は凪咲が出てくることが多いのだが、今回はその2人が言い合いをしていた。なので止めようとする子がおらず。

 言い合いは白熱して止まらず、他の子が口を挟むこともできない状況の中凪咲が火の玉をいくつも出して健太を脅す。


「いいかげんにしないとぶっとばすからね!」


 教室から小さく悲鳴が上がるが、凪咲としては実際に撃つ気はなかった。魔法を使えば絶対に負けるわけがないという自信があるからこその脅し。


「やってみろよ、そんなのがあたるならな!」


 しかし相手も自分の速さに自信を持っている。そんな脅しは通用しないとばかりに言い返した。


「なによ! ないてあやまったってゆるしてあげないんだから!」

「へっ! ゆるしてもらわなくていいっての!」


 互いに言い合って構える。喧嘩じゃなく戦闘の前触れ。緊張感に教室が静まり返った直後、凪咲が魔法を撃った。健太はそれらを回避するために後ろの壁に向かって跳び壁を蹴って身を翻し天井を足場にする。

 凪咲は避けられた魔法が壁に当たらないよう消しながら新たな火の玉を出現させて放った。しかし健太は天井から黒板上の壁まで跳んで回避。更にそこから凪咲に向かって跳んだ。

 凪咲が岩の壁を出現させて道を阻むと、健太は空いている隙間から回り込んで教室の後ろに寄せられた机の下を潜って移動する。机を盾にもできる状況で移動する彼に対し、凪咲は火をより小さくした弾を出現させて机の下を潜らせ妨害した。


 小学1年生とは思えないほどの攻防に、クラスメイトは興奮と不安や恐怖が様々だった。

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