“双子剣士”と同一武器

 他のところに行くかと思っていると、牙呂に手招きされた。まだ双子と話しているようだが。


「どうした?」

「2人がお前と話したいって言うからよ」

「後でも良かったんですけど」

「話せる時に話せって」


 どうやら牙呂がお節介を焼いたようだ。とはいえ、俺と2人の接点はあまりない。


「で、なにか用?」


 俺の方から尋ねる。近くで見てもそっくりだ。学生を卒業しているので、間違いなく男女差が出る年齢なのだが、ぱっと見は感じられない。


「えっと、僕達の武器なんですけど」

「これ造ったの村正さんですよね」


 2人が同時に得物を掲げる。……なるほど、そういうことか。


「ああ、そうだな。確か、全く同じ剣を2本造ってくれって依頼だったか」


 俺はこれまでに造ってきた武器のことを全て覚えている。

 2人が持っている武器は、確かに俺が依頼を受けて鍛造した剣だ。協会経由で依頼されて引き受けた。協会経由で来る依頼は基本的に唯一無二の武器を造ることが多いので、印象に残っているというのもある。


「やっぱりそうでしたか」

「どっちを使っても全く感覚が変わらない完璧な剣だったので」

「2人で誰が造ったんだろうって」

「牙呂さんの夫婦剣を造ってる村正さんが一番可能性高いかなって」


 いい勘をしている。


「見事当たったわけだ」

「はい。それで、虎徹さんと村正さんさえ良ければなんですけど」

「私達の武器を造って欲しいんです」


 それで俺と話したかったのか。しかも虎徹ちゃんにも確認を取るとはしっかりしている。


「わかった。……虎徹ちゃーん。2人の武器俺が造ってもいい?」

「はいっ! いいですよ」


 声をかけたら2つ返事で了承してくれた。


「ということで、オッケーみたいだからいいよ」

「あ、ありがとうございます」

「こんな軽い感じでいいんですね……」


 2人は言い出したにも関わらず戸惑っていた。


「この状況でお前に依頼するってことは、虎徹ちゃんよりお前の武器の方がいいって言ってるようなもんだからな。ほら、鍛冶師としてのプライドとかよ」

「あぁ、なるほどな。まぁそういう人もいるだろうけど。俺と虎徹ちゃんに関してはないな。武器では俺が、防具では虎徹ちゃんが上なんだから」


 明確な上下があり、得意分野が交わらないからこそ気にならない。互いに腕を認め合っているというのもあるが、専門分野では敵わないと、言うなれば領分を理解しているということか。


「はっきりしてんなぁ」

「そらプライドはあるけど、俺も虎徹ちゃんも互いに譲れないプライドを持ってる装備の種類が違うからな。俺も、お前達が虎徹ちゃんに防具頼みたいって言ったら断らないし」

「……意外だわ。お前がそこまで言うかよ。いや、今日の試験で見る限り、あの装甲鎧は凄ぇってのがわかったわけだから。分野は違えどお前が同等だと認めてるわけだ」

「そういうことなら、僕達の剣またお願いします」

「同じように同じ剣で」

「了解。今の俺に依頼するとなると……2本で300億くらいになるけど」

「「大丈夫です」」


 原価に洗練した代金を足すと、富士山のダンジョンで得た最新素材を使わないにしても相当な値段になってしまう。調整すれば値段を下げることもできるが、折角ならある程度の全力で造ってあげたい。


「あと事前に言っておくけど、富士山のダンジョンで得た素材はなし。ただオリハルコンは使うから、まぁそこそこの質にはなるかな」

「「……そこそこ?」」

「先に行きすぎて武器の性能が高くなりすぎちまうからな。挑戦前にオーバースペックの装備手にしちまうと、武器頼りになりかねない。それに、こいつが造った最新の武器ってなったら2人の実力疑うヤツも出てくるだろうからな。成長してんのに武器のおかげだって言われるのは嫌だろ」

「そこまで考えてくださってるんですね」

「なんて言うか、ありがとうございます」


 少しだけ先輩面してしまっているが、彼らは現状最前線に挑める探索者の中ではほぼ最年少。現役高校生探索者もいたはずだが、今一歩というところなので。成長過程の有望株なのである。性能の高すぎる武器を持たせて成長を阻害したくはなかった。

 優しいか厳しいかは、微妙なところだが。


「そういえば、村正さん」

「同じ剣を2本依頼すると」

「受けてくれる人があまりいないんですけど」

「どうしてかわかりますか?」


 ふとそんなことを聞かれた。


「あぁ、それは鍛冶師としてのプライドかな。鍛冶師って、俺が言うのもなんだけど偏屈だったり頑固だったりするから」


 なぜそこで頷くんだい、牙呂君。


「基本的に鍛冶とかってさ、二度と同じモノが造れないんだよ。鍛冶師の調子とか、素材の癖とか、質とか。あと同じ動作をしても全く同じ結果になるとは限らないから、そういう微妙なズレがあって全く同じモノが造れないってのが1つ目の理由。2つ目は単純に、唯一無二の武器を造りたいと思ってる鍛冶師の方が多いからかな」

「「えっと、ならどうして村正さんは造れるんです?」」


 俺が答えると、2人は揃って首を傾げた。


「俺はそういう微妙なズレを調整して同じモノに仕上げる技量があるから。唯一無二の武器造るだけなら趣味でもできるし、唯一無二じゃなくたって他の鍛冶師に造れないなら俺の無二になる」

「お前、やっぱプライド高いよな」

「じゃあお前は、剣技で勝ってたら速さで負けていいのか?」

「そんなもん――なるほどな。答えは決まり切ってるわけだ」


 牙呂はにやりと笑う。譲れないモノは誰にでもある。特に、上り詰めた連中は。


「凄いですね、やっぱり」

「皆さん尊敬します」


 2人はそんな風に言っていたが、


「お前らだって同じようなもんだろ」

「2人が一緒なら最強って思ってるんじゃない?」


 牙呂と俺の言葉に顔を見合わせて、口元を綻ばせてこちらを向き直った。


「「もちろんです」」


 やはり上り詰めた探索者だ。自信満々に応えてみせる。


 まだ発展途上な部分もあるが、富士山のダンジョン攻略で化けるかもしれないな。


 それから2人に武器についてヒアリングして要望とか俺が得意とする特殊能力についての提案とかをして話し合った。

 あと面倒をかけるが、協会を経由して依頼をしてもらうようにお願いした。残念ながら牙呂達も例外なくそうしてもらっている。個人依頼は受けられない面倒な立場なのである。まぁそこは虎徹ちゃんもか。


 それから貸し切りの店で飲み会と言うか食事会と言うか、親睦会をした。

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