後日談:世界情勢②
とある国の、探索者管理協会会議室にて。
「まさか日本に先を越されるとはな」
「全くだ。同等のダンジョンを攻略するなら我が国だと思っていたのだが」
「ふん。多少先を越された程度で慌てる必要はない。こちらも探索者を送り込めばいいだけのこと」
「手筈は整えてある」
「既に我が国上位20名の探索者に要請を出している。彼らの半数でも集まれば問題なく」
協会のお偉いさんである彼らは日本に先を越された事実を認めつつ、自国の戦力であれば問題なく追いつけると自負していた。
彼らがこれまで動かなかったのは、最高難易度の深層、そしてボスがどれほどの強さなのかわからず、行かせて死なせてしまうならと実行に移さなかった。
最高難易度が攻略できない状況であれば、深層をどれだけ攻略できるかが国の情勢を左右する。
その点で言えば、彼の国は世界有数……いや世界1位だからだ。
つまり、危険を冒してまで最高難易度ダンジョンへ挑んでもらう必要がなかった。
その慢心を突かれて日本に出し抜かれた彼らは、探索者管理協会が公式で自国探索者のランキング制度を実施しているため、紛れもない上位の強者に要請していた。
彼らがほくそ笑みながら話し合っている中、部屋の扉が勢いよく開かれた。
「協議中失礼します!」
「なんだ、慌ただしい。ノックぐらいしたまえ」
「申し訳ありません! しかし、急ぎお耳に入れたい情報が……!」
「わかったわかった。話を聞こうじゃないか」
「君は確か、探索者への要請を担当していたね。結果の報告かな?」
「はい! 探索者ランキング上位20名へ協力を要請したところ――」
入ってきた者の報告を、余裕の表情で迎える彼ら。
「要請に応じた探索者は……0名でしたッ!!」
「「「…………は?」」」
彼の報告を聞いて、お偉いさん方はきょとんとする。
「ふ、ふむ。君、もう一度頼む。よく聞こえなかったものでね」
「はい。0名です!!」
「すまない、もう一度」
「0です!!」
「もう一度――」
「0です!!!」
「もういい!!」
何度聞いても結果は変わらなかった。
「ど、どういうことだ……?」
「なぜ誰も要請に応じない!」
「まさか、怖気づいたのではあるまいな!?」
自国の探索者が一切応じなかったことに動揺してざわつく中、報告に来た者が恐る恐る口を開く。
「えぇっと……大まかな理由としましては、気に食わない探索者に先を越されたくないが、相手もそう思って挑戦すると言い出しかねないからと……」
「不仲か!」
「彼は!? 1位の彼なら応じてくれるだろうと思っていたのだが!?」
「そうだ! 最高難易度ダンジョンを攻略した暁には、彼が描くヒーローになれるというのに!!」
彼の国の探索者ランキング1位。そして、世界探索者ランキング1位。
個人でのダンジョンソロ攻略数は3位の奏の367個を優に超える、548個。2位が現在405個のため、100以上の差をつけての1位。
紛れもなく世界最強の探索者とされている者である。
「彼はその……半年先までスケジュールが押さえられているからと……」
「……」
世界最強の名を持つ彼は、強さも重要だが人気商売にも力を入れている。故に超多忙なのであった。
「……そうか。なら、とりあえず彼にはスケジュールを押さえておくように言っておいてくれ。要請は、上位30……いや40にまで範囲を広げよう。日本は6名だったが、人数を増やせば多少の実力不足を補えるだろう。上位20名にも再度要請してくれ」
「は、はい!」
報告に来た彼は踵を返して立ち去る。
お偉いさん方は皆、頭を抱えている状態だった。
「……まさか、我らアメリカが出遅れるとはな……」
哀愁漂う一言に応える声はなかった。
◇◆◇◆◇◆
また別の国の探索者管理協会。
「日本が最初に攻略したか」
「配信で観るに、富士山のダンジョンは比較的簡単だったと言えるだろう」
「だが最初に挑み、攻略してみせたのは見事と言う他ない」
「全くだ。感嘆すべき実力。我らも続く他あるまい」
日本の彼らを認めつつも、自国の探索者が決して劣らないと信頼している様子だった。
「それについてですが、彼らから申し出がありました」
「ほう?」
「彼らか。こちらからコンタクトを取る予定だったはずだが……」
「それが、彼らから先に」
「なるほど。彼らも日本の探索者に注目しているようだったし、あてられたか」
明確な名称を出さずとも通じるほどの、彼ら。
この国では探索者で彼らと言えば、他にないパーティがあった。
「で、彼らはなんと?」
言い出した者が、笑みを浮かべて彼らから届いたメッセージを代弁する。
「『遠く日本にいる探索者パーティが富士山のダンジョンを攻略した。ならば、我々も世界最強のパーティとして遅れを取るわけにはいかない』と」
代読された言葉を聞いて、彼らは一同に笑みを浮かべた。
「やはりか」
「彼らならそう言ってくれるだろうと思っていた」
「私から見ても、日本のパーティはどこか……彼らに似ていたからな」
「触発されないわけがない、か」
アメリカにいる探索者ランキング1位の者が、単独での世界最強の探索者だとしたら。
彼らの国にいるのは、世界最強のパーティ。
6人全員が深層をソロ攻略できるだけの実力を持ち、パーティを組んでの戦闘を得意とする者達。
「日本の彼らが世界最強のパーティとして名が挙がっているからな。彼らとしても黙ってはいられないだろう」
「はい。そして、彼らから挑戦するにあたっての条件が提示されています」
「条件とな? 珍しいこともあるモノだ」
「攻略に必要なアイテムの援助などでき得る限りでの支援はするつもりだが、それ以外になにかあるのか?」
「はい。彼らからの条件は、『我々が攻略を成し得た暁には、日本の彼らとの交流戦の場を設けて欲しい。また、互いに互いが攻略したダンジョンへ挑戦するように打診して欲しい』とのことです」
「なるほど、それほど日本のパーティを認めたということか」
「日本側の返答次第にはなってしまうが、こちらからの申し出はさせてもらうと返答しておいてくれ」
「承知しました」
彼らが出した条件を、大した協議もなしに受け入れる。反対の声はなかった。
パーティでの挑戦において、彼ら以上の実力者がいないという信頼がある。更に協会との関係もあるため、無理難題でなければ受け入れるだけの関係性があった。
「彼らに伝えておいてくれ。今回も期待している、と」
「ええ、もちろん。彼らにはそのように返答しておきます」
こうして彼ら――ロシアの探索者管理協会の方針は決まった。
世界各国で探索者管理協会、それ以外にも様々な集団が動き出す。
世界は確実に、変革の時を迎えていた。
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