化け物達の決着

 4人が深層のボス部屋に辿り着いてから1週間が経過した。

 その間鬼と化した村正はボスと戦い続けていた。


 ボスには明らかな疲弊が見られ始め、次第に村正が優位になっていく。


 ボスの4本腕が唸る。牙呂ですら回避困難なほどの速度で。


 だが村正は凶悪な笑みを浮かべたまま両手を乱雑に振り下ろす。その衝撃で4本腕が地面に叩きつけられてひしゃげる。相手が苦悶の声を上げた。


 それから彼は顔面に蹴りを放ち、壁まで吹っ飛ばす。更に蹴りを放つ恰好で追い打ちをかける、が4本腕で脚を掴まれ停止していた。

 第三の目から赤い光線が放たれ村正の頭が吹き飛ぶ。だが瞬時に蘇生されると刀を振り回して4本の腕を切断、自由になったところで身体を捻りもう片方の脚で蹴りつけた。


「村正の勝ちだな」


 じっと見ていた牙呂が告げる。

 それは配信を観ている視聴者からもわかりやすかった。


 村正は怯んだ敵の尻尾を掴み、壁を蹴って跳ぶと尻尾を振り被って思い切り地面に叩きつける。もう1回、更にもう1回と叩きつけていく。相手は抵抗することができず悲鳴を上げるだけだ。


「一方的になってきたわね」


 村正は幾度も地面に叩きつけた後、尻尾を持ったまま身体を回転させてぐるんぐるんと敵を振り回す。物凄い勢いだったからか回している最中に尻尾が千切れて敵が吹っ飛んでいった。

 村正は千切れた尻尾を眺めると、興味なさげに放り捨てる。


 そしてまた敵へと突っ込んでいった。


「そろそろ終わる」

「ああ。準備してくれ、奏」


 彼らの見ている通り、戦況は村正の有利に傾いている。村正は情け容赦なく襲いかかり、敵の身体を捥ぎ取り切りつけ削っていく。


 そして、遂に。


 村正は左手をずぶりと敵の喉元に突き立てる。必死の抵抗でついた傷は瞬時に治っていく。

 彼はそのまま手を上へ突き抜けさせると、がっしりと頭を掴み、捻じ切った。


 ボスは再生能力を持っていたが、頭を捥ぎ取られては再生しないようだ。


 村正は絶命するボスから噴き上がる血液を浴びながら嗤っていた。


 血の雨を浴びて嗤う姿は、正に鬼。


 だが化け物同士の決着がついた瞬間に奏が動き出していた。


 村正に向けて剣を一振りして、手に持っている妖刀を切断したのだ。

 勝利の余韻に浸るこの瞬間だけが、村正の隙を突くチャンスなのである。


 妖刀が斬られたことで、村正の姿が戻っていく。刀身が纏っていたオーラは消え去った。


 ぐらり、と村正の身体がよろめき縺れながらボスから離れていく。


 そして彼は4人のいる方を見た。血塗れだが、いつもと同じ顔だ。


「あぁ、来てたのか」


 そう言って力なく笑う彼は、正真正銘の村正。


 敵が倒れ戦いが終わったことで、奏は抑えていた感情をぶつける。駆け出し、村正に飛びついた。そのまま倒れるかと思ったが、反対側からも飛びついた人物がいって、一瞬拮抗するもやはり仰向けに倒れていく。その人物とは、ずっと村正を治していた桃音であった。


「マサ! マサぁ!!」

「村正君……っ!」


 2人に抱き着かれるという状況だが、流石に非難の声はなかった。


 奏も桃音も、顔をぐしゃぐしゃにして号泣していたからだ。


 そんな2人の様子に苦笑した後、村正は意識を失った。桃音もだ。極限状態の中戦い続けたのだから当然だろう。緊張の糸が切れたことで気を失ったのだ。


「ロアちゃんは行かなくていいの?」

「はい、今は。……同じ土俵には、立てなさそうですから」


 凪咲の茶化すような言葉に、ロアは首を振った。

 彼女も安堵はしていたのだが、あの2人のように号泣することはないと理解していた。


 それに、ただ2人の邪魔はしたくないと思ったのだった。


「はぁーっ。やっと、深層が終わったなぁ。これでクリアしたのか知らないが、なんにせよ全員無事で良かった」

「うん」

「泣いてんじゃねぇか」

「うっさい! ……ほっとしたんだからしょうがないでしょ」


 やっと終わった。緊張の糸が切れたのはなにも2人だけではない。凪咲も全員が無事でいられたことに安堵して涙が溢れていた。


“よかった;;”

“あの状況から全員生きてられるとかホント凄ぇよ”

“奏ちゃんよかったね”

“桃音ちゃんがあんなに泣くとこ初めて見た”

“心配かけさせやがって;;”

“深層突破おめでとう!”


 これにて深層ボス部屋突破となるのだが、その喜びや達成感よりも全員が無事でいることの方が大きかったようだ。

 祝う声より安堵する声の方が多い。


「収拾つかねぇな。しばらくは目を覚さないだろうし、また落ち着いたら配信するわ」


 そう言う牙呂も心から安堵しているようだったが、一旦配信を締め括る。


 その間ずっと、奏の泣き声が響いているのだった。

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