第15話 『このお話の神回は?』って聞かれたら、……間違いなくこの回よねぇ。


 その日の夜、俺と蓮はリハーサルを終え、夕食を共にした後、何故か一緒に俺のコンビニへ向かっていた。


 「『店員さん』とか言われてたけど、ホントにコンビニやってたんだ! ウケるなっ、オイっ!」

 少し酒がまわった蓮は、上機嫌で俺の肩を組んできた。


 「俺はねぇ〜っ、……ヤル気になったお前を見れて嬉しいんだぉ! お前の『あの声』に惚れてんだよ、知ってたぁ〜?」


 千鳥足になりながらも、


 「一緒にヒーローやろうぜぇ〜♪」

 『武将チェンジ! ノブナガレッド!』


 蓮は歩道の真ん中で、変身ポーズを真似てドヤ顔だ。


 「オイっ、蓮っ! まだオフレコだろ、ヤメろって!」



 ※※※



 コンビニの前まで歩いて行くと、麻里がスマホをいじりながら入り口に立っていた。


 「麻里っ!」


 俺が声をかけるとこっちを向き

 すぐにぱぁっと明るい笑顔を見せて、


 「あーっ、『東十条ひがしじゅうじょう れんさんだぁ!」


 麻里が近寄ってくると、さっきまで肩を組んで千鳥足だった蓮は、


 「『やぁ。今晩は!』 『アナタの一番、東十条 蓮です! 来週、二人で生配信やるからヨロシクねっ♡』」


 急にいい声を出し、爽やかな笑顔で麻里に握手をしていた。

 

 「蓮っ、彼女は俺の親友だからっ!」

 俺がツッコむと、


 「あっ、そーなんだー、ゴメンねー、ファンの子かと思ったよー!」


 いつもの蓮に戻って改めて再び握手を求めた。


 「こんばんはー♪ 私、バネ太の『親友』の上中里麻里です!」


 麻里も笑顔で握手をして、

 「……『親友』なんだ」


 ボソっと何か麻里が言ってたけど、よく聞こえなかったな、ん、なんか怒ってる?


 

 ※※※



 店内に入ってしばらくの間、三人でイベントの事を喋っていたら沙樹と天がやってきた。


 「あれ〜っ、天ちゃん?」

 「あーっ、蓮さんっ! こんな所にどうしたんですかぁ?」

 

 二人は共演も多く、プライベートでも食事に行く程の仲みたいだ。


 「コラっ、天っ! 『こんな』ってなんだ? オイっ!」


  天はペロっと舌を出して、

 「てへっ♪ ゴメンね、『亮ちゃん♡』」


 蓮が驚いた顔で、

 「何だ? ……お前ら、付き合ってるのか?」


 「ふふっ『ナイショ』ですっ♡」

 天がクネクネしながら言うので、


 「違う違うっ! 事務所の後輩なだけだからっ!」


 慌てて否定したら、天がぷぅ〜っと頬を膨らませて俺を睨んだ。


 「まぁまぁ、……でも、蓮と一緒なんて久しぶりよね、バネ太! 蓮、……これからもバネ太の事、宜しくお願いします」


 沙樹は丁寧にお辞儀をした。


 そしたら蓮は顔をしかめ、大袈裟に両手を広げて「オーノー」のポーズをしながら沙樹に詰め寄った。

 

 「沙樹さぁ〜ん! 何でそんなに他人行儀なんですかぁ? ……最近現場で会えなかったから、……その……、寂しかった、です」


 えっ? 蓮、そうなの?

 ……だからコンビニついて来たんだな、お前。


 沙樹はちょっと困った顔をして、

 「今や蓮は、声優界のトップだからねぇ、あの、……忙しそうだから、……声を掛けづらいのよ」


 すかさず蓮は沙樹の手を取り、

 「そんな事言わないで下さいよぉ! 沙樹さんの為だったら、頑張って時間、作りますからっ!」


 酒の力を借りてグイグイくる蓮に、戸惑う沙樹の姿が新鮮で、麻里はニヤニヤしながらパソコンを開いていた。


 「麻里ちゃん! 何ニヤニヤしてるのっ!」


 沙樹は蓮から逃げる様に、イートインスペースで座る麻里の指定席の隣に座った。


 「沙樹さんっ、俺っ! 来週のイベントの後空いてますけど、……食事でもどうですか?」


 蓮もすかさず座り込み、間に麻里を挟んで食い下がる。


 微妙な空気が漂いそうな中、麻里が、


 「ちょ、ちょっとコレ見て! アイツの事褒めまくってる書き込みばっかりだよっ!」


 「うわぁぁっ、気持ち悪い位ベタ褒め……何かおかしくないですか?」


 俺と天も駆け寄り、みんなで画面を覗き込んだ。


 「「……」」


 「……絶対アイツが書き込んだよな?」 

 蓮が目を細めた。

 「間違いない、わね」 

 沙樹も同じく目を細める。


 「こんな事したら『特定屋』にすぐに見つけられるぞ! ……やっぱりバカだな、翔也……」


 蓮が頭を抱えた。


 「こういう情報は、目に入れないのが一番なんだけどなぁ、俺も経験したから気持ちはわかるけど……」


 俺がため息をつくと、


 「あぁぁっっ! 否定派のコメントが増えてきたぁ! 肯定派と否定派で争って……、荒れまくってるよぉ〜っっ!!」


 「……ん、?」


 「……怖いっ、もぅ、……見て、……られないょ」


 麻里が椅子から崩れ落ち、しゃがみ込んでガタガタ震え出した。


 「麻里っ! どうしたっ? 顔っ、真っ青だぞっ! ……大丈夫か?」


 俺は震える麻里を後ろから抱きしめた。


 「はぁ、はぁっ、怖いっ、……怖いよぅ」


 「みんな、……もう、やめようよ……」

 ボロボロと泣き出してしまった。


 「大丈夫っ、大丈夫だからっ! 俺がついてるからっ! 麻里っ!」


 優しく頭を撫でて包み込む様にして、出来るだけ優しく抱きしめて麻里を落ち着かせた。



 ※※※



 「バネ太、私達先に帰るね! 麻里ちゃんの事、……頼んだわよ」


 沙樹は気を利かせて、天と蓮を連れて帰っていった。



 ※※※



 「私、ね、……前にネットで凄く叩かれた事があったの」


 麻里はボソボソと喋り出した。


 「心無い言葉が並んで、怖くて、……胸に刺さって、……常に誰かに監視されてる気がして……、外に出るのも怖くなって、ご飯も食べられなくなって……」


 ボロボロ涙を流しながら麻里は続けた。


 「ずっと、……ずっと部屋から出られなかったけど、……そんな中で、『頑張れっ!』って沢山の応援の手紙やメールが出版社に送られて来てるのを知って、その、……勇気をもらって……、最近になってようやく外に出られる様になったの」


 俺の顔を涙を拭う事なく見つめて、


 「心機一転、頑張ろうって思って引越して来たら、ここのコンビニでバネ太に出会ったんだよ! ……そしたらバネ太、『あの声』出なくなってて、声優やめるって……」


 そして俺の肩を強くつかんで、


 「全部、私のせいだからっ! 私、絶対バネ太の『あの声』取り戻さないとって……」


 「……麻里っ? 何言ってんだ? 俺の『あの声』が出なくなったのはお前のせいじゃないだろっ!」


 今度は強く抱きしめて麻里の頬に顔を寄せた。


 「私のせいなのっ! 私がアナタを指名したからなのっ! …………私のっ、私の『清澄くん』がアニメ化されたからなのっ! それで、…………それで『あの声』出なくなったんだよね?」



 「麻里、お前……、お前が、……あの『清澄くん』の作者の『桜蘭舞』さんだったのかっ!」



 第16話に続きます。



 


 🌸🌸🌸🌸作者からのお願い🌸🌸🌸🌸



 麻里ちゃんって、……桜蘭舞だったの?


 ウソでしょー? わからなかったー

 


 ここでコメント欄を賑やかしてくれない事には、私がただの『イタイヤツ』になってしまいます。←それもまたご褒美♡


 どうか、どうか皆様ひと言『神回!』と、一言だけでもいいので、♡をポチッと押してコメントを書き込んで下さいませ!


 

 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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