第10話 書いてるウチに感情移入しちゃってヒロインを食っちゃうって、……あるあるよね?


 「だから、……協力して下さいねっ♪ セ・ン・パ・イ♡」


 天は俺にウインクをして嬉しそうにクピっとオレンジジュースを飲んだ。


 「ぐぬぬ……」

 麻里は苦虫を噛み潰したような顔で、新しいビールに手を伸ばした。


 「……ところで天、大人の女の声出せるの?」


 ニヤニヤしながら沙樹が言うと、


 天は大きく息を吸って……、吐いて、しばらく目を瞑って……、


 「……『ねぇキミ、さっきから私の事ずっと見てるけど、……どうしたのかな?』」


 『コンビニ店員とOLさん』の最初のセリフを言った。


 「ど、……どうかな?」


 恐る恐るみんなを見回す天。


 「う〜ん、……ちょっと違うわね」

 「なんかー、……飲み屋のねーさんみたい」

 「……そうだな」


 みんなにダメ出しされて涙目の天。


 「ちょっと貸してっ♪」

 そう言って沙樹はサッとタブレットを取り上げて、


 「うっ、うんっっ♪」

 一つ咳払いをして……、


 「……『ねぇキミ、さっきから私の事ずっと見てるけど、……ドウシタノカナ?』」


 ドヤ顔で俺達を見回した。


 「「おーっ!!」」


 俺と麻里が声を揃えて、


 「「エッロっっ!」」


 肩を落とす天は、


 「無理ぃ〜っ!」



 ※※※

 


 「うっ、うっっ……、私だって、好きでこの声やってる訳じゃないんだから……」


 俺は泣き出した天の肩を優しく抱いて、


 「天、ゆっくりやって行こうぜ! 肩の力抜いてさ、自然な感じの風花をイメージするんだ」


 風花は無口でイケメンの年下コンビニ店員を、色仕掛けでおちょくってるんだけど、ポンコツ過ぎていつも返り討ちにあっている。


 「無理に『大人の色気』じゃなくていいと思うんだ、ポンコツで空回りしてる感じを強調していけば、う〜ん、天の声で言うと……」


 しばらく考え込み、


 「あっ、アレだっ! 『精霊さんと聖母さま』の時みたいな感じでどうかな?」


 天は鼻をチーンとかんで涙を拭き、しばらく目を閉じて……、


 「やってみますっ!」


 ……また亮太先輩に助けられちゃった♡



 ※※※



 ー滝野川 天 小学五年生ー



 「やーい、やーい!」

 「アニメ声ぇ〜っ!」


 「なによ〜っ、もーっ!」


 あははは あははは!

 「『ナニヨ〜ッ、モーッ!』だってさ!」


 ギャハハ ハハハハっ!


 ※


 「え〜ん、え〜んっ、おかーさん、どーしてわたし、こんな声なの?」


 泣きじゃくる私を、ママは優しく抱きしめて、

 「そのウチね、アナタのその声がみんなを幸せにするのよ! そらっ! 胸を張りなさいっ! ……アナタにしか出せない素敵な『声』なんだからっ!」


 ※


 それから数年が経ち、私は声優を目指して高校に行きながら養成所に通った。


 そして、その時に王子社長の目に留まり、私は大塚事務所に入れたの!

 

 それからはトントン拍子で、幼女やマスコットキャラの役を掴んで、……そして何故か歌手デビュー!


 訳も分からず、ただがむしゃらに頑張って来たけど……、


 右も左もわからない新人の私が目立ち過ぎたのか、現場では、

 『実力もないのに……』『どうせエライ人に媚び売ってんでしょ?』


 陰口を言われ、……私はだんだん孤立していったの。


 気持ちが滅入って来て、仕事に行くのが辛くなってきたある日のアフレコの時、私は中々OKが出なくて……、


 周りの空気も悪くなっちゃって、もうどうしたらいいのか分からなくなって、涙が出そうになったその時に、


 「すいませ〜ん、俺、ちょっと腹減っちゃって……、休憩しませんかぁ?」


 アハハハハっ!


 一気に場の空気を変えた亮太先輩が、

 「ウチの天、頭パニクってるから、外の空気吸わせて来ますっ!」


 そう言って私を外に連れ出してくれたの!



 「ほらっ、落ち着けっ、天っ!」

 私はミネラルウォーターを渡されて、頭をクシャっとされて、


 「まだお前、新人なんだから失敗して当たり前なんだよ! 『上手くやろう、やろう』として、自分らしさ無くしてないか? お前の声はみんなを幸せにするんだ! 天にしか出せない素敵な『声』なんだからさっ! …………ほらっ、深呼吸して、楽しむんだ!」


 そう言って優しく肩を叩いて笑ってくれた先輩を見てたら、気持ちが楽になって、その後は楽しくお仕事出来たの!


 あの時、陰口を言ってた人達にも、

 「天ちゃん、良かったわよ!」

 「私、アナタの事誤解してたわ!」


 「今まで嫌な態度取ってごめんなさい!」


 私は嬉しくて、涙が溢れて止まらなくなったの!


 『ここには、私の『声』を必要としてくれている人達がいる!』


 勇気をくれた亮太先輩、ありがとうございました!



 ※※※



 しばらく目を閉じて、そして大きく息を吸って、吐いて……、



 「『ねぇキミぃ、……さっきから私のコトずっと見てるケド、……どうしたのカナ?』」


 

 「「「おぉ〜っっ!!」」」


 「いいじゃない、天っ! ロリっぽさも残していて……うんうん、何か風花が言いそうな感じよっ!」


 沙樹がわしゃわしゃと天の頭を撫で回した。


 「天さんっ、イケると思いますっ! もっとイタズラっぽくてもいい位ですっ!」


 麻里も天の両手を握って、ブンブンさせて喜んだ。

 

 「みんなぁ、ありがと♪ この感覚、忘れないウチにもう一回お願いしますっ!」


 天は少し涙目になりながらも、さっきの声を忘れない様に何度も何度もセリフを呟いていた。

 

 「じゃあ、俺も入るから二人で掛け合いするかっ!」


 俺も『新しい声』をちょっとだけアレンジした声を試してみる事にした。


 「オッケー、オッケーっ! やってみましょー! 麻里ちゃん、準備出来たら言ってね♪」


 沙樹もノリノリでヘッドホンをつけた。


 「準備オッケーです!」

 麻里が親指を立ててウインクすると沙樹が、

 

 「それじゃ、いくわよっ! 『第一話最初のシーン』よーい……」



 第11話につづくー



 ※※


 天ちゃんお当番回、どうでしたか?


 「頑張り屋さんだねー!」

 「可愛いー♡ 早く『声』聞きたーい」


 ぐぬぬ……、

 今、人気投票やったら、わた……麻里は完敗だよー!


 「麻里ーっ、ヒロインはお前だーっ!」

 「天ちゃんの方がヒロインっぽいぞー!」

 「さっ、沙樹さんエロっ♡」


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 ♪読んで頂きありがとうございました♪

 

 

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