こちら、アカツキ清掃です。
@idr_0512
プロローグ
「東雲よ、君を私がなぜ採用したか、理由を知りたいと言ったな」
「はい……」
かなり大きな日本刀を振っているというのに、彼女は汗一つかくことなく、後ろにいる東雲に声を掛ける。
東雲は目の前で起きていることが何か分からないまま、地面に尻餅をついていたが、声を絞り出し何とか返事をした。
「視えているからだ」
「へ?」
「視えているから。今はそれだけでいい。……今はな」
「え、あの」
「話は終いだ」
それだけ言うと、彼女は日本刀を先ほどよりも大きく動かし――目の前にいた真っ黒な奇形の何かを真っ二つに切り裂いた。
奇形の何かは、少々のうめき声を上げ、海辺の砂の様な灰に姿を変えた。それを彼女が確認すると、刀を鞘へ収めた。
「撤収」
彼女がそう呟くと、手で印らしきものを結び、何かを唱える。数秒経過して、今夜は無風だというのに灰は空へ向かい高く昇っていった。
それを見届けた彼女は東雲にそこで待っていろとだけいうと何処かへ消え、数分後車に乗りまた東雲の元へかえってきた。
「乗れ」
「はい」
東雲が助手席に座りシートベルトを締めるのを確認すると、彼女は静かに車を発進させた。
行先は今日から住むことになる寮だ。
それから沈黙がかなり続いたころ、東雲は口を開いた。
「あの……」
「何だ」
「さっきの、それだけでいいってどういうことですか」
「どうもこうもそのままだ。今はな」
「……ということは、そのうちそうじゃなくなるんですか」
「そうだな。今日の君はとても闘える状態ではなかった。しかしこれが鍛錬を積み、慣れてきたらどうだ。視えて、闘える。それだけで理由が増えるだろう?」
「確かにそうですけど、それならそういえばいいんじゃ」
東雲がそう言うと、彼女は黙り込んだ。黙ったのち、タイミングよく目的地の寮に到着した。
「……到着だ。私は車を置いてくるから、君は先に戻れ」
彼女が答える気がないことを察したのか、東雲はそれ以上の追及を避け、礼だけ伝えた。
「……ああ、はい。ありがとうございました」
「お疲れ」
「お疲れ様です」
言葉を交わし、寮へ入っていくのを見て駐車スペースへ向かう。車を停めて、彼女はため息をついた。
「……言えるわけない」
彼女の呟きは、他の誰にも聞かれることなく消えていった。
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