バスルームから始まる異界行

犬時保志

第1話 バスルームからバルスへ

 出張費を浮かせる為、僕は最低料金のビジネスホテルに泊まった。

「まだ5時か」

 ビジネスホテル宿泊は早朝に目覚める、いつもの癖だ。

 昨夜は疲れて即寝たので、朝風呂に入る事にした。

 バスタブに湯が満杯になった、裸でバスルームに入り湯に浸かった。

「臭っさ!!」

 蒸気に臭覚が促されたのか、今まで気付かずにいた異臭が鼻を突いた。

(今日は6月6日か…30歳の誕生日じゃまいか)

「ついに!ついに!ついに!ドーテイのまま30歳になった!魔法の練習始めるぞぉ!!」

 中学生の時聞いた都市伝説を、ずっと信じ続けた猟野だった。


 誕生祝いに昨日のセクシー受付穣を思いながらパオーンを握った「僕には恋人ミギーちゃんが居る」右手でパオーンをしごく猟野。

 もう少しで果てる瞬間、爆発と猛火に襲われ猟野羅恩かりやらお30歳の誕生日の朝、短い一生を閉じた。6月6日6時6分6秒の事だった。

 アーメン…じゃ無かったオーメン。








『儂はバルス神、失われる寸前の命を召喚せしものなり』

「……」

『無視は酷いぞ!反応せんかドーテイ魔道師よ!!…おぅ!バルス世界一の見事なパオーンじゃな』


 僕が無反応なのは、空中に浮かぶモニターから流れるニュースが気になったからだ。


【痛まし区の老朽ビジネスホテルで早朝火災が発生、宿泊客の猟野羅恩さん30歳が焼死しました。ホテル経営者の談では電気代高騰に旧設備ガス給湯設備に切り替え……】


 僕が宿泊したビジネスホテルの名前、それにたった一人の焼死者の名前が僕だった。

「僕は死んだのか…」

『死ぬ寸前に儂が召喚した!猟野羅恩かりやらおお主は死んで居らんぞ!儂はお主の見事なパオーンに惚れた!』


 僕はブルッと寒気に襲われた。

「バルス神だったか…気持ち悪い事言うな!僕は女が良い!!じじいにドーテイ奪われたくねぇ!!」

『勘違いするで無い!儂も相手は女神が良いぞ!惚れたと言う意味は、バルス世界の覇者になるパオーンだと言う意味じゃ』


「じいさん?説明になって無いぞ!」

『ではドーテイ魔道戦士!送るぞ!バルス世界の覇者となれ!!』

「ちょっと待った!!お約束のチート授けんかい!!」

 相手がこの神、言い方もぞんざいになる。

『ん?ドーテイ魔道戦士?それ以外に何がいる?』

「無限収納に鑑定は必須ひっすだろう」

『おぅ!そうじゃった!……これで無限収納に鑑定が使えるぞ!

 では大急ぎ、ソリス王女の危機を救え!!』


 気が回らないか説明する気が無いか、戸惑い状態の僕を、じじい神は地上に送り出した。

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