第83話 バレバレデスよ?

 夕日が沈んだ頃、ようやく俺たちのくっつき&大好き合戦の終戦を迎えた。


 レオナさんが顔を洗い終えるのを待ってから一緒に部屋を出る。

 二人並んで廊下を歩く。


 さすがに家の中で手をつなぐのは気恥ずかしい。

 さんざんくっついていたのにこれである。


 そもそも普通の家はすぐにリビングとかにつくはずだけど……。


「レオナさん、いつも夕ご飯ってどこで食べてるの?」


 つい不安になってしまい聞いてしまった。

 彼氏となった以上、ますます恥ずかしい姿は見せられない。


 テーブルマナーなんて知らないし、大丈夫かな。

 レオナさんはおかしかったのか、笑って答える。


「真白君緊張しすぎー。別に普通だよ。真白君の家と同じ感じだよ」

「そうなんだ?」

「うん。まーあ。パパの入れ知恵だけどさ。来客用のレセプションルームもあるけど、普段は家族団らんルームの方だし。ほら、着いた」


 レオナさんに部屋に続いて入る。

 リビングにダイニングキッチン。


 俺の家より本当にちょっと広いかな? くらいの間取りだ。

 豪華な調度品や絵画はない。

 普通の家具で揃えられている。


 猫ハウスも設置されており、三匹の猫のもち太郎さん、プリ子さん、ごまもえさんが鋭い眼光を俺に飛ばす……だけですましてくれた。


 レオナさんの言うとおり正しく家族団らんルーム。普通だ。


「ママー。今日の夕ご飯、真白君も一緒でいい?」


 レオナさんがキッチンで仕込みをしていたエプロン姿のリオーネさんに声をかけた。


「もちろんデスよ。その予定で三毛みけさんと一緒に仕込みを……あらあら? あらあら、まあまあ。これはどうしまショウ……」


 リオーネさんがなぜか慌てた様子でやって来る。


 料理に使う具材でも買い忘れてしまったんだろうか。

 買い出しくらいなら手伝えるかな?


「あらあら、まあまあ……」


 リオーネさんは俺とレオナさんを交互に見ては、「あらあら、まあまあ」を何回も繰り返す。


「おめでとうデス」


 そして意味深に微笑んだ。


「リオーネ様。今日の夕ご飯は赤飯も追加しますか?」


 白いシニヨンキャップを後ろ髪につけた古きよきメイド姿の女性……確か三毛さんという名前だったはず。


 そんな三毛さんがキッチンから猫たちより鋭い目つきで意味深な発言を。


「そうデスね! 三毛さんナイスアイディアデース! さっそく準備に取りかかりまショウ!」

「は!? ママも三毛さんも何言ってんの!?」

「ふふ。レオナ、バレバレデスよ?」

「な、なにが!?」


 レオナさんはキッチンに戻るリオーネさんを慌てて追いかける。


「兎野様。実はデス美専用ドローンには多種多様な最新鋭のセンサーが搭載されているのですわ。その一つに匂いセンサーなるものがありまして」


 どこからともなくデス美さんが現れ、取り残された俺の耳元で話しかけてくる。


「兎野様の服や手からレオナお嬢様が使用されているシャンプーやリンスにコロンなど。高濃度。そう高濃度な付着反応が検出されているのですわ。この意味。お分かりですわよね? 兎野様改め真白様?」


 ドローンのアイカメラがキュイキュイと高音をあげる。

 恐ろしいくらい圧をかけてくる。


 ゴクリと生唾を飲み込み、冷や汗が流れる。


 恋人になったの、バレバレ、らしい。


 確かにずっとくっついていたけど、そんなにレオナさんの香りが移ってたのかな。

 あ。もしかして猫たちが俺に飛びかからないのは、レオナさんの香りが移っているから?


 思わず手をいで確認しようとして、やめる。

 危ない、これは自白の証明だ……!


 しかしデス美さんはともかく、リオーネさんにはなんでバレてしまったんだろう。


 娘の機微きびの変化にさといい母親ならでは感覚ってやつなのかな。

 俺も色々身に覚えがあるから分かると言えば……分かる。


「マシロさん」

「は、はい!」


 リオーネさんに名前を呼ばれ、慌てて姿勢を正す。


「レオナのことよろしくお願いしますね」

「大切にします!」


 あ。条件反射的に答えてしまった。

 レオナさんが顔を赤くして黙ってしまった。


 二人で自白をしてしまったも当然だ。

 ごめん、レオナさん。


「あらあら、まあまあ。二人とも照れちゃって。ホントーに。初々ういういしくて可愛い子たちデスね」


 リオーネさんはいたずらが成功したみたいに楽しそうだ。


「やっぱりマシロさんには家族団らんルームがあっていますね。好きな食べ物はある程度聞いていマスが、嫌いな物はありマスか?」

「いえ、特には。だいたい食べられると思います」

「そうデスか。ますます作りがいがありマスね。席に座ってゆっくりしていていいデスよ」

「あ、ありがとうございます」


 リオーネさんにそう言われては頷くしかない。

 ひとまずダイニングテーブルの椅子に近づき、様子をうかがおう。


 彼女の母親に対する最適解なんて分かるわけがない。


「それでレーオーナー? 今日はお菓子何カロリー食べたんデスか?」


 リオーネさんがすっとレオナさんの背後に立ち、


「さ、さあー? ど、どのくらいだったかなー? ひっ!?」


 一転して陰のある表情を浮かべ、レオナさんのお腹をつまむ。

 俺のあーんメモリーによると、そこそこのお菓子カロリーを摂取した気が……。


「お菓子カロリー分きっちりランニングマシーンで汗を流しまショウね。マシロさんの隣に立った時に恥ずかしい姿は見せたくないでショウ?」

「お、おす……」


 応援団長モード気味に答えるレオナさん。

 本当にランニングマシーンでリオーネさんに鞭で叩かれながら、馬車馬のようにヒーヒー言わされながら走らされてる雰囲気だ。


 俺もちゃんと運動しよう。

 そういうわけであっさり恋人バレしてしまった……。

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