第84話 モチ、焼きますか?
料理ができるまでの間は、レオナさんと一緒に明日の予習をすることになった。
といっても、教科書や教材のタブレットはレオナさんのしかない。
俺の方が分からない部分が多いので、レオナさんに教わる形で進めてもらった。
しばらくして料理の美味しい匂いが漂ってくる。
「ありがとう、レオナさん。一人でやるより
「どーいたしまして。こー見えて私のINTのインテリジェンスは高いからね。中間考査テスト学年10位だからね。また10位」
ふふんとドヤ顔で語るレオナさん。
「お疲れ様デス。こっちも完成しましたよー」
「あ。配膳くらいは手伝っていいですか?」
「そうデスね。お願いしまショウか」
「ママ。私もてつだーう」
レオナさんと一緒に料理を並べていく。
フランスの家庭料理で、見たことがあるのもないのもどれも美味しそうだ。
そして、お椀に山盛りの赤飯。
この手の流れで本当に赤飯が出てくるとは思わなかった……。
俺の隣にレオナさんが座り、テーブルの向かい側にリオーネさんが座る。
さっきまではリラックスできてたけど、また緊張する。
レオナさんと一緒に食事をするなんて初めてじゃないのに、まるで初めてみたいに感じるし。
メイドの三毛さんが一緒に食事をしないで、家事をしている空間にも慣れない。
なにより交際初日に彼女のお母さんと食事することになるんだから。
いただきますと声を揃えるも俺は料理を前にし、箸が動かない。
何から食べるべきなのかと悩み、一番食べ慣れた赤飯に決めてしまった。
今はこの存在がありがたい……あ。美味しい。
ほのかな小豆の甘さが染みこんだご飯が美味しい。
「美味しいデスか?」
表情にまで出ていたのか、リオーネさんは嬉しそうに聞いてきた。
「は、はい! とっても美味しいです!」
「そうデスか。ありがとうございマス。
「ありがとうございます。本当に美味しいです」
これならおかずを全制覇しても三杯は余裕でいけそうだ。
「ふふふ。美味しそうに食べてくれてなによりデス。育ち盛りな男の子がいてくれるとたくさん作れて嬉しいデス」
ほくほく顔で料理を食べ進めるリオーネさん。
笑った顔がレオナさんに似ていて親子なんだなって思う。
一方で隣のレオナさんはなぜか神妙な面持ちだ。
糖質制限量少なめお赤飯が不満なのかな……?
「レオナもマシロさんの胃袋を掴めるように本格的に料理の勉強をしマスか?」
「するし。ママ、さっきから真白君にからみすぎじゃない? 真白君は私の彼氏だよ」
レオナさんが俺の左腕に手を回し、身体を寄せた。
「あらあら、まあまあ。レオナったら。さっそくヤキモチデスか? お熱いデス」
「モチ、焼きますか?」
「三毛さん、そのヤキモチじゃないから! いや、別にヤキモチじゃないし……!」
「申し訳ありません。私
三毛さんは悔しそうにまた食器洗いを始めた。
向上心が凄い……で合ってる?
よそ見をしている間に、レオナさんは空いた手でトマトソースがかかった鶏肉をフォークで刺し、
「ま、真白君。あ、あーん――わっ」
恥ずかしそうな顔を見て、即座にあーんを完遂する。
「うん。レオナさんのおかげで美味しいよ」
緊張しすぎてリオーネさんに気を遣うことばかり考え、レオナさんのことを気にかけてあげれなかった。
せっかくの恋人初日なんだからもう少し浮かれてもいいはずだ。
「う、うん。どーいたしまして」
ギュッと俺の左腕に回した手が強くなった。
「公式初あーんはデス美ストレージに保存しておきますわよー」
またどこからともなくデス美さんドローンモードが現れ、どこへともなく消えてい
った……。
後悔はない。
「そんな彼ピアピールしなくても取りませんよ? 私には
リオーネさんは俺たちの恋人初心者ぶりを楽しそうに眺めている。
経験値が違いすぎる。
「知ってるし。でも、パパより真白君のがかっこいいし」
「迅だって負けて……いえ、どちらかといえば可愛らしさの方デスかね。マシロさんと腕相撲をしたら複雑骨折して負けそうデスから」
「え。あの。俺はそんなことはしません」
迅って名前の人がレオナさんのお父さんなんだろう。
この場にいるはずの人。
レオナさんの父親に対してそんなパワープレイができるはずがない。
「知っていますよ。ただマシロさんが手加減しても大変なことになりそうデスから。本当に可愛い人なんデスよ」
「ま、真白君だって可愛いし。下手な嘘ついてあたふたしてごまかすの可愛いんだから」
なんだろ。
今度は好きな人のここが好きアピール合戦?
嬉しくもあり、恥ずかしい。
話題に出ているリオーネさんの夫で、レオナさんの父親。
いつか顔を合わせる日が来るんだろう。
その時までに今より成長した姿を見せられるよう頑張っていかないと。
◆
楽しい食事はあっという間に過ぎ去り、食後のお茶をいただく。
時間も時間だし、そろそろお
そう思いつつも、ついお茶をゆっくり飲んでしまう。
「それでレオナ」
「なにー、ママ?」
「マシロさんは恋人で、彼ピであってマスよね……?」
「ゴホッ!?」
俺はなんて
ビックリしてお茶を少し吹き出してしまった。
「真白君大丈夫!?」
「う、うん。大丈夫」
心配するレオナさんを手で制する。
あれ? リオーネさんって本当は気づいてなかった? いやでも、レオナさんが彼氏に彼ピって食事中アピールしていたし。
あーんだって恋人同士じゃないと……いや、する前にやってた人が俺たちだ。
「マシロさん、驚かせてごめんなさい。思わせぶりなこと言ってしまいましたが、もしかしたらとんだ勘違いをしているのデハー? ちゃんと交際していると確認しましたっケ? と心配になっちゃいまして」
あわあわした様子で話していたリオーネさんが、赤らむ頬に手を当てる。
「今時の高校生は進んでいるのでショウ? なので、ちゃんと
「さすがリオーネ様。私にはできない吹き出しをさせるとはさすがです。真白様、タオルです」
三毛さんがスマートにタオルを差し出してくれた。
「ありがとうございます。あ、それで……」
タオルで
「今日からレオナさんと真剣にお付き合いさせていただいてます」
まずはちゃんと言葉にしておかないと。
「うん。真白君と付き合うことになったんだ。彼氏彼女で恋人、だよ」
「そう……無理に言わせるような真似してごめんなさい。改めてレオナのこと、よろしくお願いしますね、マシロさん」
「はい」
リオーネさんの目を見て返事をする。
「レオナも獅子王の名に恥じないよう節度ある恋人らしい行動を心がけてくださいね?」
「分かってるよ。節度ある恋人らしい行動だよね。真白君、私が拭くよ」
「ありがとう」
自分で拭いてもいいかと思ったけど、レオナさんにタオルを渡す。
「ごめんねー、ママが急に変なこと聞いて。真白君の服濡れちゃった……よね?」
すぐにタオルを拭く手が止まり、ほうっと息を吐いて俺を見つめるレオナさん。
「真白君、お風呂、入っていかない?」
「え? このくらい平気だよ。家に帰って洗えばいいし。拭いてくれるだけで十分だよ」
「駄目だよ! 彼氏を汚したまま帰るなんて彼女の面汚しだし!」
「その言い方は酷い
「お風呂入って。その間にさっと服洗っちゃうから」
「時間が」
「お風呂、入っていて、お願い」
「はい」
彼女の強いお願いに俺は頷くしかなかった。
「これは……節度ある恋人らしい行動デスね」
リオーネさんからも許しが出てしまった。
◆
お風呂場はー……広かった。
声を出せば、反響でいい音色がなりそうなくらいに。
広いせいで居づらさを覚え、シャワーを軽く浴びるだけで出てしまった。
そもそも服が濡れたくらいだし。身体は汚れていないし。風呂場で長居すると余計なことを考えそうだったし。
洗濯機は既に動いており、わざわざ俺の服を洗ってくれている。
ただ乾燥も含めるとまだ時間はかかるかな。
着替えの服はレオナさんが用意してくれており、カゴに入っているみたいだ。
バスタオルで身体を拭いて、トランクスにスラックスと
「真白君大変――!」
「え?」
脱衣所の戸を開けたレオナさんは本当に慌てた様子だった。
「あ! ご、ごめん! 着替え中ってかもう出ちゃったの!? ん? ……彼氏なら別に見ても、合法?」
レオナさんは手で顔を隠すも、指の隙間かがっつり見て聞いてきた。
まあ上半身だけだし、プールとか海に……この先行くなら別に。
「合、法……?」
「だよね! 彼氏の上半身見るくらいは合法だよね! そもそも前に背中見たし! ちょっと濡れてても合法だよね!」
レオナさんは拳を握って豪語した。
この手のシチュエーションは逆が多いと思うけど。
いや、逆だと大惨事で俺が土下座から重石を乗せた正座くらいしないといけない。駄目に決まってる。
「はっ!? 真白君にみとれてる場合じゃなかった! マジで大変なんだって! パパが空から帰ってくる!」
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