第57話 白組のッ! 勝利オオオオオオォォォォッ! 祈ってエエエエエエェェェェッ!
「スイカだ」
「いやいやメロンだろ」
「確かに。欧風と和風を合わせて……夕張メロンとか?」
……フルーツの話が近くから聞こえてくるけど、なにも昼食のデザートの話をしているわけじゃない。
俺でもなんとなく分かってしまう隠語だと思う。
「GOーGOー! ゴーファイレッド! てっぺん目指してえぇー……! ノンストップでアンストッパブルでボルケーノですわーッ!」
見事な人力タワーの頂上でボンボンを振る
さらにバク宙しながら華麗に着地し、機敏なチアの連携が続く。
想像を遙かに越えるレベルで驚くばかりだ。
青組や黄組の応援も凄かったし、体育祭の応援を甘くみていた。
「プリンセスメロン。彼女にはその称号が相応しい……」
「さすがフルーツマイスター
その傍らで聞こえてくる会話。
俺もまあ共感してしまう部分はないことも……男子だし、獅子王さんのチア姿で前科ありだし……いやいや!
それでもやっぱり素直に応援を見てほしい気持ちがある。
そしてなによりも。
「あの、みんな。あまりそういった話は」
どこで花竜皇さんのお兄さんが目を光らせ、聞き耳を立てているか分からないし。もし発見されたらどうなるかは……嫌というほど味わっている。
と、素直に言えたらどんなに楽だろう。
口下手な自分はそう簡単に変えられず、後に続く言葉が中々出てこない。
「なんだよ、兎野ー。恥ずかしがるなって。お前も一緒に美しき果実たちを
しかし、俺の思いは届かなかった。
根津星君に一方的に肘で脇腹をグリグリとされてしまう。
「お、おい……あれ。みんな。なんかあの人、こっちめっちゃ睨んでない? 絶対ヤベー人だって」
やっぱり仕事の合間を縫って花竜皇さんのお兄さんが見に来ていた。
声は聞こえてないはずだけど、兄専用搭載の不届き者センサーでガッチリ俺たちの方を捕捉して――あ。体育の
「そ、そうだな。さすがに公の場でフルーツ談義は紳士として恥ずべき行為だったな」
一瞬とはいえ、鬼の形相は効果抜群だった。
みんな青ざめた顔で震え上がっている。
「それにもうすぐ俺たち白組の応援だしな。気持ちを切り替えるか。ま、兎野も参加したかったら遠慮するなよ。フルーツ同好会は来る者拒まずだからよ」
「え? それは……その、機会があれば?」
何もできなかった代わりに、風変わりな同好会の招待を受けてしまった。
「GOーGOー! ゴーファイレッド! 午後も全力全開全身全霊! バーニングに優勝まっしぐらですわーッ!」
そんなこんなで花竜皇さん率いる赤組のチアリーディングも大盛り上がりで終わり――獅子王さん率いる白組の番がやってきた。
ザッ! ザッ! と男臭い極太フォントのような効果音を引き連れてやってきた。
「
さっきまでの華やかで賑やかな場が一瞬で静かになってしまった。
獅子王さんのことだからはっちゃっけたノリノリな感じでくると思っていた。
凄い硬派で本格的だ。
応援団の全員がキッチリとした学ランに身を包み、白いタスキを縛っている。
ゴゴゴゴゴゴゴッ! と背後にフォントの幻覚が。
「白組のッ! 勝利オオオオオオォォォォッ! 祈ってエエエエエエェェェェッ! フレエエエエェェェェッ! フレエエエエェェェェッ! 白ッ組ッ!」
聞いたことのない獅子王さんの低音ボイスにみんなが続く。
一つ一つの動きは大きく激しくながらきびきびとし、野太い声に合わせ、太鼓の音と団旗が揺れ動く。
「白組のッ! 勝利オオオオオオォォォォッ! 願ってエエエエエエェェェェッ! 勝利イイイイィィィッのッ! 舞イイイィィッ!」
獅子王さんが横を向き、地面に手が届くほどのえびぞりを見せる。
鬼気迫る表情で圧倒され、拍手も忘れて呆然と見てしまう。
これならサラシとか考える必要もなかったんじゃ? そもそも見せる場面が思い浮かばない。
だって応援団のみんなの眉毛が極太で、顔が彫りの深い劇画調に見えてきたし……。
「つーわけでー!? 白組しかー!? 勝たーん!」
一転して聞き慣れた獅子王さんの明るい声が響いた。
起き上がった獅子王さんが学ランのボタンを開け放つ。
中に着ていた『白組しか勝たん!』と書かれた白Tシャツが日の光を浴びた。
応援団のみんなも同じように思い思いの字が書かれた白Tシャツを見せつけていく。
さらに学ランに内側に忍ばせていたサイリウムを携え、はっちゃけたノリノリな音楽と共に熱く、激しい舞を見せ始める。
「はい! みんなで声を合わせてー! 白組しかー!?」
「勝たーん!」
白組どころか会場の全員を巻き込んでのコール&レスポンス。
それまで重苦しかった雰囲気が一転して、ライブ会場みたくなってしまった。
なんというかアニメのAパートとBパートで全く違う作画で、内容も別物で、同じアニメの話なの? 現場大丈夫? って困惑する放送事故……いや、決して批判したいわけじゃないです。
驚きのあまり変な分析をしてしまった。
なんかよく分からないけど、なんか凄い盛り上がってるから。
俺にはレベルが高すぎるノリで、完全に乗り遅れてしまったし。
「へいへい! ふっふっー! それそれ! うぇーい! おっしゃーい!」
クラスのみんなはノリノリで順応している。
獅子王さんと一緒に参加している
みんなを引っ張り、中心にいる獅子王さんはやっぱりキラキラしていて眩しい。
「おいおい! 声が小さいぞー! そんなんじゃー? 赤にも黄にも青にも負けちゃいまーす! はいそれではリベンジ皆さんご一緒に! せーの!」
「白組しか勝たーん!」
俺も遅ればせながら一緒になって手を叩く。
慣れないし、俺の声なんて微々たるものだとしても。
応援に参加する。
獅子王さんの協力もあって、また友だちと話せて、一緒に楽しめるようになって――いや、今は余計なことは考えない。
今は獅子王さんたちの応援に応えて、ついていくので精一杯だから。
ノリノリな雰囲気に当てられて、俺の体力&気力ゲージがみるみるレッドゾーンに……。
「一番星は白組が頂きスター! みんなで掴もうぜー! ホワイトスター!」
締めに両手のピースを重ねて星に見た立ててポーズを取る獅子王さん。
拍手喝采を受ける中、ふいに目が合った気がして――可愛らしい笑顔を向けられた気がした。
余計なことは考えないようにしてたけど。
一瞬で全回復してしまった。
気のせいずくめだとしても、気のせいじゃないと思いたいくらいに面倒な奴に戻り始めてるな……俺。
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