第47話 君へのエール
「へいへーい!
チアリーダーの衣装に着替えた
タンクトップに、ミニスカート。
「盛り上がってる、かな……?」
盛り上がってないと言えば嘘になるけど。
サラシに学ランの応援団スタイルよりもさらに肌色面積が増えた分、目のやり場に困るのも間違いない。
獅子王さんは二着目に場慣れしたこともあってか、気恥ずかしさがない。
それどころか元気いっぱいに動き始める。
「U! S! A! N! O! U! S! A! N! O! ファイトー……オー!」
獅子王さんの声援が店内に響き渡り、
獅子王さんがボンボンを軽快に動かしながら、俺に向けて熱い応援をしてくれる。
嬉しさや驚き。
色んな感情があるけど、さっきよりもまだ素直に受け止められてはいる。
……そうは言っても、ミニスカートがヒラヒラと誘惑するように舞うのでドキッとしてしまう。獅子王さんの笑顔を中心になってしまうのは許してください。
俺って自分で思っているよりも……いや、まださっきのサラシの残影が残っているのかも。
でも本当に。
キラキラと輝いて眩しい笑顔だ。
俺一人にはもったいない応援とさえ思ってしまう。
「頑張れ! 頑張れ! 頑張れ! 兎野君! 体育祭全力応援してるぞー!」
全力。
獅子王さんは全力で応援してくれている。
そこまでもしなくてもいいくらいに獅子王さんは激しく動く。
頬は紅潮し、いつ汗が流れ始めてもおかしくない。
チアとは応援、声援、歓声――誰かが誰かに向けてエールを送る。そういう意味のはずだ。
頑張らないと。
ちゃんと前に進んでいけるように。
もったいない応援だなんて思わないために。
「負けるな負けるな負けるな! ネバーギブアップ! ヴィクトリィィィイ兎野君!」
獅子王さんが最後に大きく跳びはね、放り投げたボンボンをキャッチし、息を切らしながらポーズを決めた。
せめて手を叩いて労いの気持ちを伝える。
「ふぃー。いい汗かいたぜー。どうだったかな、兎野君。いい感じに動けてた? 元気でた?」
「とってもキレッキレだったよ。ありがとう、獅子王さん。疲れも吹っ飛んだし、元気でたよ」
言葉として伝えても、感情やら表情はいつもの感じのまま。
獅子王さんみたいに強調できたらいいなとは思っても、どんな感じにすればいいか分からない。経験値が足りなさすぎる。
「おおー! それはよきかなー! ありがとー! うーん。でもなあー」
喜んでくれたのも一瞬で、獅子王さんは不満げだった。
俺もダンスを踊って感謝を伝えるべき?
そういうノリこそ俺に必要な要素なんだろうか。
「それだけ? もっと言うことない? 兎野君やーい?」
変な勘違いをしただけだった……というか、獅子王さんがボンボンで俺の顔をワサワサと撫でて攻め立てる。
そもそも言葉さえ足りなかったらしい。
他に何かあったかな?
早く答えないと俺の視界がボンボンに埋め尽くされてしまう。
「えっと。チアリーダーの衣装も似合ってる……よ?」
「疑問形?」
ワサワサの速度が増してしまった。
「似合ってる。学ラン姿もよく似合ってたけど、チアリーダーの方が獅子王さんのキラキラ感が前面に押し出せるというか」
うまく言語化できないまま思ったことを口に出したけど、ボンボンの動きが止まってくれた。
「なるほどなるほど。兎野君は洋物派かー」
意味深に笑う獅子王さん。
変な勘違いをされているような気が。
「今から路線変更はなしだし。チアコスは来年以降として。確かに動きやすいよねー」
獅子王さんが突然スカートを捲ろうとしたので急いで視線を上にあげた。
「獅子王さん!? 急にどうしたの!?」
「うん? あ。ごめんごめん。驚かせちゃったよね。アンスコだからさ。見せてもだいじょーぶなやつだよ」
「そうなんだ。そうなんだね」
うわごとのように同じ言葉を繰り返し、天井を見上げて心を落ちつける。
見せても大丈夫な物。
しかし、普段と違う姿の獅子王さんから繰り出されると、圧倒的な破壊力があるのは身に染みて分かった。
あと1秒遅かったらKOされていた。
過剰反応していると思うけど、こればっかりは仕方がない。
リアルで直視するには強烈すぎる。
獅子王さんの眉が下がり、弱々しい笑みを浮かべた。
「あー……確かにそうだね。今のは軽率だったね。驚かせちゃってごめんね。見せても大丈夫だからといって、見せつけるのも違うよね」
「ごめん。おおげさだよね。獅子王さんは悪くないよ。わざわざチアリーダーの衣装に着替えて応援までしてくれたんだから。俺個人の問題というか」
「分かってるよ。兎野君、顔真っ赤だし」
けれど、すぐにいたずらっぽく笑う。
「……本当だね」
手で顔に触れると、確かに熱い。
そんな熱も目の前の笑顔に比べたら微熱にも満たない。
「兎野君にはまだ刺激が強すぎるっての分かったし。刺激耐性レベルはちょっとずつあげていけばいいよ」
「刺激耐性レベルをあげる必要あるかな?」
「あるある! 兎野君が別クラスのチアリーダーに誘惑されないようにしないといけいないし!」
「チアリーダーのコスが好きってわけじゃないよ?」
「えー? ほんとに? ほんとかなー?」
獅子王さんが上目遣いで疑いを向けてくる。
「確証はないけど、本当です」
顔が赤くなってるらしいし、自分でもあやふやな部分があるので説得力はない。
獅子王さんだから余計に意識してしまったのは間違いない。
じっと碧い瞳に見つめられる中、自己分析をして耐える。
「……よし! 信じてあげましょう!」
「ありがとうございます」
「しかし、これだけの破壊力があると応援合戦はますます気合を入れないといけなくなったね! チアリーダー恐るべし!」
どんな風に信じてくれたのか聞くのが怖いな。
「ふぃー、兎野君の刺激耐性レベルも敵情も知れたし、有意義な時間だったよ。余は満足じゃ。鷹城さんもコス貸してくれてありがとうございました!」
「どういたしまして。そうだ。二人で記念に撮っておくかい?」
「いいですね! お願いできますか? 兎野君も一緒に撮ろーよ!」
獅子王さんに話を振られ、頷く。
「うまく写れる自信がないけど。それでいいなら」
前にここで撮った時は不意打ちだったけど、今回は準備時間がある。
あるからこそ、慣れてない分余計に緊張するわけで。
「いいに決まってるじゃん! お隣にごあんなーい!」
と言いながら、獅子王さんがすっと左隣に並んだ。
「こういうのは場のノリと勢いでいけるから! ってことで、鷹城さんお願いします!」
「任せたまえ。最高の一枚を二人にプレゼントしよう」
鷹城さんが俺と獅子王さんのスマホを受け取り、撮影準備に入る。
「ウェーイ! ほら! 兎野君も合わせて合わせて!」
「うえい……?」
左手を前に出して、獅子王さんのアレンジされたピースサインを真似る。
「距離が遠いぞー! 心の壁が感じられるぞー!」
「そうだね。これでは写真映りがよくない。ピントがぼやけて印象が悪くなってしまうよ」
二人から駄目出しを受けつつ、左手を獅子王さんの右手に近づける。
こういう場合は笑顔が正解のはず。
笑顔が作れてるかは怪しい。
二人からポーズとか立ち位置の指定はあれど、表情については言われない。
気を遣われてというのもあるだろうけど、気にしない二人でもあるのを知っている。
無理のない範囲の笑顔を意識し、撮影を終える。
「おおー……!」
「これは……」
そして、鷹城さんが撮ってくれた写真を見て声を漏らした。
ポーズは揃っていて、ピースもいい感じに合わさっている。
ただやっぱり表情だけは違う。
獅子王さんの笑顔が太陽なら、俺は日食の如きというべきか。陰と陽。ある意味対比があって面白い一枚になっていると解釈したい気分になる。
「変人天才探偵JKと武闘派インテリヤンキー風助手のイロモノバディドラマの番宣写真みたいじゃね?」
「えっと?」
「だからさ! 実は探偵JKは考えなしの狂言回しで、助手君が驚異的な勘違いから真実を暴き出す本格ミステリードラマ的な! タイトルは……そう! ミステリーに踊り狂え!」
顎に手を当てドヤ顔で言い放つ獅子王さん。
「どうかな! 兎野君!?」
当然のように俺に感想を求められてくる。
「なかなか
「少なくとも私にはあるし!」
獅子王さんは俺の曖昧な返答にめげる様子もなかった。
「鷹城さんはどうですか!?」
「え? レオナちゃん? 私も?」
まさか聞かれると思ってなかったのか、鷹城さんが驚いている。
いつも澄まし顔な鷹城さんがたじろぐのは珍しいな。
それだけ獅子王さんの圧が凄いんだ。
「そうだね。配信ランキング……ギリ圏外回避したらいいかな?」
鷹城さんは目をそらし、ボソッと答えた。
俺以上にシビアな感想だった。
獅子王さんは数秒笑顔で固まってから、
「……少なくとも私にはありますし!」
とにかく勢いでごまかした。
「めげないレオナちゃんは嫌いじゃないよ。もしかしたら配信ランキングトップ10入りもあるかもしれないね。さて。撮影も済ませたし」
なぜか鷹城さんが出入り口のドアに手をかける。
「……一時間くらい外出してれば問題ない?」
問題あります! と獅子王さんと声を揃えて断った。
えー? の代わりに笛で不満を漏らす鷹城さん。
鷹城さんも自分が作成したコスチュームを獅子王さんが着てくれているので、テンションが上がっているのが分かる。
やっぱり自分の手で作った物で、誰かが笑顔になって楽しそうになるのは嬉しいんだ。
とはいえ、羽目を外しすぎるのも困ります。
そうして獅子王さんの……コスプレ? お
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