第19話 でこぼこファミリー
「兎野君、脅かせてほんとごめんね。話脱線しちゃったし。もう一回写真見せてもらっていい?」
「うん。いいよ」
スマホを獅子王さんに渡す。
「こ、これがルナティック☆キララ先生のご尊顔! ……に、シックスパック!? イケメンすぎるんですけどー!」
星形サングラスをおでこにかけて、鋭い目つきで決め顔をしている長身の女性が母さんだ。
……しかし、自分の母がこういう風に言われた時、どう言う反応をすればいいんだろう?
笑えばいい?
「白雪ちゃんもちっさくてきゃわわ! いくつ?」
「11歳。小六だね」
「はえー……小六で既に完成された美少女っぷり。お姫様じゃん」
白雪は母さんと正反対の風貌だ。
小柄でふわっと可憐で、深窓の令嬢的で、真面目でおしとやかな性格で、勉強も大得意で秀才で、ハッキリと物事に対して言える芯の強さもあって――長所を挙げればきりがない。
……まあ、シスコンと言われても仕方ないけど、可愛い妹です。
「なるほどなるほど。じゃあ、こっちがパパ――」
ニコニコしていた獅子王さんが真顔になり、
「お、弟様?」
もの凄い困惑した顔で聞いてきた。
「父です。童顔だからよく俺が父親に間違われてたりするんだよね」
もう何度も聞かれてきたことなので、これだけはスムーズに言える。
父さんは身長160センチくらいで俺よりかなり小さめだ。
ほんわかした雰囲気で惑わされるけど、さすがに40歳を過ぎた頃から間違われなく……あ、この写真撮ってくれた人にも間違われたっけ。
「確かに兎野君はママ似で、白雪ちゃんはパパ似だね。……でも、ほんとに。とっても仲良しな家族って感じ。楽しそーなのがちょー伝わってくるし」
獅子王さんがスマホの画面にそっと触れる。
獅子王さんの家庭環境はしっかりと把握してないけど、今まで聞いた限り家族の仲は悪くないように思えた。
特にお母さんは獅子王さんのことを大事に思い、気にかけているのがよく分かる。
ただ家族揃っていられる時間が普通の家庭より少なく、すれ違いが多いんだろう。
見せる写真、間違えたかな……。
「ありがとね、兎野君。目の保養になりました」
獅子王さんはそんな思いを感じさせずにスマホを返してくれた。
俺の考えすぎで、余計な詮索だったかもしれない。
「どういたしまして、でいいのかな? 誰かにこうやって家族の写真見せることなかったから、どう返事していいのか分からなくて」
とはいえ、他に見せられる家族写真と言えば、どれだっただろう?
スマホの写真をスクロールしていく。
「私の自慢の家族ですって胸張ればいいだけだし。でもさー兎野君。イラストに、スタンプまで描けて凄いよね。練習のたまものってやつ?」
「獅子王さんも練習すればできると思うよ。俺が使ってるジェリスタは初心者でも簡単に描けるサポートツールが多いから扱いやすいし」
「そーなんだ。イラストと言えば、ずっと聞きたかったんだけどさ。兎野君ってギルメンのイラストけっこー書いてロジコにアップしてるよね」
「ん? そうだね」
「でも、私っていうか、レオのイラストって書かれたことない気がするんだけど。なんで?」
「それは……え?」
スマホをスクロールする手を止め、獅子王さんの方を見た。
「あ。別に責めてるわけじゃないよ? ほんとに、純粋に気になっただけだし。聞いておいてあれなんだけど、答えにくかったら答えないでいいし」
突然の疑問に、混乱が強まった。
理由は非常にシンプルで、答え自体は決まっているんだけれど。恥ずかしい。
「いや、答えにくいというか。その、ノリで結婚したとはいえ。結婚相手のイラストを描くのは……なんか、重いかなって」
「重いって兎野君、純情か!」
獅子王さんが思わず吹き出してしまった。
「まーでも。私も兎野君のこと言えないんだけどさ。結婚相手にイラスト強要するってのも、なんかウザくない? って思っちゃったし」
自分の言葉に思うことがあったのか、獅子王さんが照れくさそうに笑った。
「やっぱり私たちって似たもの同士じゃね?」
「似てるね」
なぜか変に飾らないで答えた方がいい気がした。
「でしょー? でも、違ういいところもいっぱいあるし。命短し恋せようら若き純情乙女と青春リビドー血気盛んなグラサン男子って時点で、もはや遙か銀河の対極線上にいる。出会えばビッグバン確定だね」
今の俺がそんなタイプとは思えないし、獅子王さんも……いや、これまでの話を振り返れば。
「俺はともかく、獅子王さんはそうだね。うら若き純情乙女で間違ってないよ」
獅子王さんが一瞬だけ真顔になったけど、すぐにまた笑顔に戻った。
「なにーいきなり! さっさく青春リビドー爆発かよ! グラマゲ兎野君のマゲグラ!」
バンバンと背中を叩かれるけど、痛みは全然しなかった。
そこまでおかしなこと言った……かもしれない。
「もー急にカウンターしてくるからガチでビビったし。あ、そだ。お返しにー」
俺と獅子王さんが鼻眼鏡をつけた写真だった。
多分、昨日
「あ、ごめん! 間違えてデコったやつ送っちゃったー。まずはこっちこっちー」
加工前の写真も送られてきた。
しかし、補正されてもブレが残り、俺の顔の映りは悪い。それでも獅子王さんはしっかり映えてるのはさすがというべきか。
「どうかな? この臨場感は我ながら中々の映えっぷりだと思うんだけど。カオスの中に光が指してる的な」
「うん。楽しんでる感じが伝わってくる。俺も友達とバイト先でこんなやりとりしたのは初めてだったし、楽しかったから」
「そっか。でも、これからもっと撮りまくるし。次はもっとうまく撮るから期待していーよ」
「期待してます。獅子王カメラマン」
こうして目的や意味もなく、ただ友達と写真を撮れるだけで俺には十分すぎる。本当にいつ以来か思い返しても思い出せないくらいだし。
『今週の土日、どっちか空いてる?』
……あれ? IWSNで獅子王さんから謎の質問が。
今は隣にいるんだから、直接話せばいいと思うけど。
『土曜はバイトだけど、日曜なら空いてるよ』
とりあえずここは流れに乗っておこう。そういうノリも必要なのだろう。
『りょ。じゃあお昼の12時ジャスト、ゲコ丸像前集合ね。髪、切りにいこーぜ☆』
「え?」
さすがにこれは本人に聞きたくなってしまった。
「あ、やっば! 兎野君! 昼休み終わっちゃう! 撤収作業開始! ほら、てっしゅーてっしゅー!」
獅子王さんは俺の疑問に答えず後片付けを始めてしまう。
だから、俺は。
プリンセスウサ子のオーケースタンプを押した。
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