第25話 初めての壁 2


「よし、ちょっと注意喚起してるライバーの配信を探してみるよ。それを参考に、一度注意喚起してみよう」

「注意喚起……」

「うん、簡単ではないけれど、注意喚起しないと現状に不満がないと思われる。調子に乗らせると悪化するから、『注意はしている』というポーズは絶対に必要だ。待っててくれ、切り抜きでも探してみるから」

 

 自分のデスクに戻り、アマリと茉莉花の配信を一度止めて切り抜きや注意喚起雑談などを探してみる。

 やはり去年辞めてしまった大手箱のライバーが残した注意喚起の切り抜きが一番上に出てくるな。

 ざっと見る限り、真摯にリスナーへ語りかけている。

 厳しい言葉を極力避けて、噛み砕いて話す姿は好青年そのものだ。

 しかも、その一回だけでなくおそらく一人のライバーが注意喚起する回数にしては多すぎる七回。

 これほど注意しても、他人下げマンどもは聞く耳を持たなかったのか。

 いや、自分のことだと思わなかったのだろう。

 彼の話を聞いても「そんなひどい人もいるのね」くらいの認識で自分は該当者ではないと思って行為を続けたのだ。

 大手の箱なだけあり、誹謗中傷に対する対処は公式ホームページに掲載され広く認知されるようになっている。

 だがそれすら当事者たちは「私には関係ない」と思っていたのだ。

 マジキチィ。

 うちの事務所も知名度が上がればこういうキチに目をつけられる。

 今から対策を講じておいて、所属ライバーをしっかり守れるようにしておかないとダメだろうな。

 法律とか勉強しておこう。

 お、このライバーさんの注意喚起いいな。

 こういう行為はダメ。

 こういう行為をしている人にリスナー同士で注意をするのも危険だからやめて。

 他のライバーのところに自分の名前を出したり、他のライバーを下げるような言い方をするのは『俺のファンじゃない』『俺のファンを自称する“なにか”だ』とハッキリ言い切っている。

 マジそれな。

 うん、この人を参考にしよう。

 

「お待たせ。このあたりの切り抜きを参考にして、台本を作ってみよう」

「あ……ありがとうございます……あの、ごめんなさい」

「え? なにが?」

「妹さんと、茉莉花さんの配信……見てたの、邪魔してしまって……」

 

 アー。

 そっか、配信見てたの、見られてたのかぁ。

 

「大丈夫大丈夫。アーカイブ観るし。それより明星の方が緊急性高いし、うちの事務所のライバーなんだから」

「……ありがとうございます……」

 

 本当に嬉しそうに涙を滲まれさせる明星。

 よっぽど悩んでたんだなぁ。

 

「あんまり溜め込まずに、気軽に相談してくれよ。今回も相談してくれてありがとうな」

「そ、そんな……」

「じゃあ、注意喚起の配信する時の台本一緒に考えよう。他に困ってることは?」

 

 明星の配信見ながら検討した方がいいか、とノーパソ持ってくる。

 悩んでいる内容の書き込みがあるのは、雑談が多いらしい。

 コメント一覧を見ながら明星が「この書き込みが」と教えてくれる。

 あー、確かに結構キツイ言い方かも。

 明星も気怠げに強めの言葉を使っているから、自分もキツイ言葉を使っていいと思ってるんだろう。

 

「もう少し柔らかい話し方を意識してみるのもいいかもな。明星も結構、正論で殴るタイプだから相手も正論でマウントをとりたくなるんだと思う」

「マ、マウントとか、取ってるつもりない……」

「うん。でもそう受け取れるんだ。自分のアーカイブ見ててそう思わん?」

「うっ」

 

 思うんだな。

 いや、まあ、明星のそういうところを好むリスナーも多いんだろうけれど。

 基本的に明星のリスナーは歌目的だろう。

 だから明星自身にはあまり興味がない層と、逆に歌を通して明星に心酔に近い重い層がいる。

 問題になっている発言をしているのは重い層だ。

 その重い層も二種類いる。

 相手を貶めて明星を褒めてるつもりになってる派閥と、『俺はお前のことわかってる』と馴れ馴れしく明星の写し鏡になって言葉が似ている派閥。

 ……つまり明星が嫌がっているリスナーは、この重いと見せかけて明星をまったく尊重していないやつらだ。

 これらを排除するには、先ほど見つけた注意喚起のやり方を真似つつ、正論で殴ろうとしてくる派閥には正論をとてもやんわり噛み砕いて伝える必要がある。

 つまり一回で二種類に対応しなければならない。

 ただ、おそらく正論で殴ろうとキツイ言い方をしてくるやつらはまだ“正論”を振りかざす分、理性がある。

 正論は正論でもやわらかな言い方で“説得”すればおとなしく聞き入れる。

 放置すれば指示厨に進化するだろうが、今ならまだ進化前だ、止められる。

 問題はこっちの他人下げマンだわ。

 他人下げマン、基本的に悪いことを言ってる意識がないから注意しても自分のことではないと思ってしまう生態なのだ。

 この辺を丁寧に潰さなければならない。

 参考に持ってきた切り抜きを見ながら、言葉を書き出していく。

 

「あとは?」

「いや、えーと」

「じゃあ、思い出したらいつでも言ってくれ。台本はこんなかんじで、明星の言葉で伝えられるように収録スタジオで練習しようか。今誰も使ってないし」

「あ……はい。ありがとう、ございます」


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