第10話 デビューへのカウントダウン 1
「でもまだガワができてないんだ。筆が遅いっていうか、かなり丁寧に描いてもらうことになったんだ。Live2Dも金をかけて作ることになってさ」
「ああ、それがいいかもな。予算も限りがあるし」
「それと、ライバーが増えるから来年から公式グッズショップも開設予定だそうだ。その辺は外部に委託したから」
「ん。了解」
確かにそろそろ必要だろうなぁ。
茉莉花の予約完全生産香水っていうのは、茉莉花の知り合いの香水師に作ってもらう的な内容だった。
量産できない分、やや高額商品となるが個人事業主の香水師にライバーイメージの香水を作ってもらえる上、予約生産……ほぼオーダーメイドだから転売の心配も少ない。
シリアルナンバーを振ってもらえれば、転売するリスナーをすぐに特定できるし。
「じゃあ、引き続き新人の募集と……新番組の企画、今度社員だけで企画会議するから」
「了解」
詰めが甘いところがあるし、社員同士で公式チャンネル用の新番組を二つくらい新設したい。
あとは事務所内のライバー同士でコラボを頻繁にやってもらい、箱の知名度を上げていく――くらいかな?
アマリは収録スタジオの方で金谷とボイス収録中だから、俺は事務室に戻って仕事を再開。
茉莉花のラジオ番組は終わっているから、新人応募フォームをチェック。
いつの間にか五人も応募者がきている。
SNSのチェックから始めると、五人中三人は炎上しそうな呟きが目立つので却下……と。
残りの二人は中身をブラックリストと参照。
ブラックリストは炎上経験のあるライバーの中身が掲載されている、うちの事務所独自のもの。
中小企業はこういう横の繋がりがあったりするんだよなぁ。
って、いうわけで一人脱落。
新人の女性VtuberにDMを送りまくって遊びまくり、暴露系ワイチューバーにその事実を指摘されて謝罪もなく消えたヤツであった。
こわやこわや。
こんなやつ入れたら正気を疑われるわ。
「残りは一人かぁ。この子はSNSで企画の提案とか積極的にやってるし悪くなさそうだな。裏垢とかないか調べておくか」
表の垢でなにもしていなくても、裏垢でなんかやってる可能性もなきにしもあらず。
そうしてあらかた調べた結果白。
裏垢も持ってない。
今時珍しいな。
「この子だけ面接してみてと」
「お兄ちゃん」
「お、アマリ。収録終わったのか?」
「うん。思ってたより難しかった」
「そっか。でも収録は無事に終わったんだろう?」
「うん」
「じゃあSEとか入れて最終チェックまで――どうする?」
「歌みた、やってみたい」
「ん。了解」
なにを歌いたいのか気になるのだが、アマリはこれからカラオケに行ってなにを歌うのかを検討してくるという。
練習にもなるし、いいと思うぞ。
五千円渡して、駅前のカラオケ店に送り出す。
歌みたはイラストを発注。
動画に編集できる人に歌詞を入れてもらったりしなければならないし、カラオケ曲を別で演奏収録してもらわなければならない。
著作権ってもんがあり、CDなどに入っているカラオケ曲をそのまま使えない場合が多いのだ。
曲は外注でギター、ベース、ピアノなどすべて個々で演奏収録、MIXしてもらわなければならなかったり。
今のところ歌みたを多く出しているのは夜凪だけだろうか。
茉莉花も出しているが、夜凪の量には敵わない。
夜凪も上手いのだが、うちの事務所の力が足りなくてなかなか再生回数が伸びないのが悩みだ。
そのうちコラボ歌みたとかも企画して、茉莉花と夜凪で集客を見込めないかやっていくしかないかな。
……あれ、個人ライバーを集めたコラボ番組がある。
こういうところから新人を探したりとかできないもんかな。
とりあえず観てみるか。
どいつもこいつも濃ゆいな……無理して狂人やってる感あるから、全員きついものがあるけれど。
この頃、もうすっかり頭の中から廊下で出会った二人組のことを忘れていた。
◆◇◆◇◆
それから一ヶ月後。
アマリのグッズはほぼ揃い、ボイスも完成。
歌みたのイラストも届き、動画制作と楽曲を依頼中。
歌の納品も終わっているので、あとは動画と楽曲、動画歌をすべてMIXしてもらい納品を待つばかり。
チャンネル開設の準備も完了し、スケジュールを半年先まで確保して、公式の新番組も収録を開始した。
今日収録するのは『
番組名は『スターズ・バトル!』。
主に持ち込みゲームでゲストと戦う。
アマリは別の新人、唄貝カインの番組名『カインの占い館』にゲストとして登場する。
俺はそっちが気になって仕方ないのだが、『スターズ・バトル!』は俺が担当することになったのでそちらにはいけない。
新人四人はデビュー日も正式決定していないので、とにかくしばらくは怒涛の収録。
うちの事務所はお金がないので、とにかく量と質で頑張るしかない。
特に公式番組は事務所の収入に直結するので新人くんたちには頑張ってもらわなければならない!
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