第5話 新人準備中 2


 配信者会社というのは悪い言い方をすれば、ライバー人気に寄生しているようなものだ。

 人気ライバーがいればそこからどんどん人を寄せられる。

 会社が大きくなればライバーのサポートもより充実してできるようになるから、会社も頑張ってライバーをサポートする。

 それが配信会社というやつだ。

 持ちつ持たれつ、だな。

 商売だから仕方ない。

 

「企画か……」

「初配信は特に物珍しさで見に来てくれる人も多い。最初が肝心ってやつだな。そのあとの配信でいかに人を留め、さらに増やせるか――ライバーの腕の見せ所だな。最近だと耐久配信で長い時間多くの人に見てもらい、ワイチューブのお勧めに表示してもらいやすくする……なんて技もある。負担が大きいから、あんまり積極的にお勧めはできないけど」

「ほ、他だとなにがあるの?」

「歌ってみただな。歌は初配信よりも再生回数が回りやすい。あとはホラーゲーム。自分では怖くてプレイできないっていう層が見にきやすい。あとはFPSのオンライン対戦アクションゲームやマイ・クラみたいな建設ゲーム。作業用BGMとして流し聴きしている層によく好まれる。単発の一時間から二時間程度で終わるゲームもいい。他は生歌配信。いわゆる歌枠ってやつだ。これに関してはうちのスタジオでバンドマンを呼んでやるしかない。自分で演奏できるのならいざ知らず、ちょっと冗談でなくお金がかかるから、収益化したあと安定した金額が出せるようになったあとでないと無理だろうな」

「い、色々あるんだね」

 

 まだまだ勉強不足だぁ、としょんぼりするアマリ。

 だが、すぐに自分にできることを模索し始める。

 

「歌は好きだけど、得意じゃない。私、ゲームは好き。多分得意……。あの、FPS系って、なに? お兄ちゃん」

「FPSは『一人称視点のシューティングゲーム』のこと。『三人称視点のシューティング』のことはTPSという。今に人気なのはFPSだな」

 

 と言っても、FPSは俺も詳しいわけじゃない。

 俺が担当している茉莉花がゲームをあまりしないタイプのライバーだからだ。

 茉莉花はどちらかというとリスナーからお便りを募って、リスナーの体験談をもとにトークを広げていくタイプ。

 ゲーム系というと、うちの事務所だと“そふらの”と“鍵置ルラ”がやってる。

 二人に質問するのもありかもな、と言うと「私、携帯ゲーム機のゲームばっかりやってるんだよね」と難しそうな顔をする。

 なるほど、ナンテンドースピッチとかか。

 その中でどんなゲームしてるんだ、と聞くとスプラティーンやマルオカート、テトリスなどの作業ゲー。

 スピッチを繋いで配信もできるし、スピッチ中心のライバーはうちの事務所にいないからいいかもしれない。

 

「じゃあ、アマリはスピッチ中心のゲーム配信で他のうちの所属ライバーと差別化を図ろう。スピッチが得意なライバーはいないし、大手の箱のライバーとコラボできたらそちらのリスナーから興味を持ってもらいやすいし……可能なら誘ってみよう。あ、無理しなくていいからな?」

「うん」

 

 スピッチにパソコンでもできるゲームがあるし、データの共有とかできたらいいな。

 あとはスマホとパソコンでやる系のゲームもできたらやってもらいたいな。

 アマリは女性だけど、ガチ恋勢はあまり増やしたくない。兄的に。

 女性リスナーを増やすのをイメージして……そうだな、スピッチなら乙女ゲームなんかもいいかもしれない。

 男性ライバーの乙女ゲームは一定の女性リスナー二人機がある。

 とうらぶ、とかも勧めておこう。

 長めのストーリーゲームもシリーズ化すればアーカイブがよく見られるし。

 

「ストーリーだと、どんなゲームがやりたいとかあるか?」

「牧場がやりたい! 作業ゲー好き」

「牧場かぁ。あ、あそ森は?」

「あそ森も好き。やりたい。あと、あと、今度発売する新しいポカモン。米ヒメとか」

「お、いいな。じゃあ、その辺をシリーズ化していこう。シリーズ化するならちょっとスケジュール考えた方がいいかな……」

 

 他の仕事も入れていくと思うし、配信ゲームはその辺を中心でスケジュールを組もう。

 あ、そうだ。

 

「歌みたやるならなんの曲を歌うか決めておいてくれよ。イラストと音源の注文しておくから。あと、これ聞いておきたかったんだけど新人にはうちの看板の茉莉花技やってる公式番組に出演して、そこから新規を増やそうと思うんだけど……出れそうか? 茉莉花って女性なんだけどさ」

「うん、出る。お兄ちゃんが担当しているライバーさんだよね」

「ああ。ありがとう。じゃあ、それも予定に組み込むな」

「うん」

 

 よかった。

 断られたらちょっとへこむ。

 さて、それじゃあ……。

 

「じゃあ、いつ頃事務所に行ける?」

「いつでも大丈夫」

「明日行ける?」

「うん」

 

 では、契約をしに明日事務所に行こう、という話でまとまった。

 食事をしながら、アマリは今までにないくらいたくさん質問してくる。

 ライバーの仕事で気をつけることや、他に準備しておくべきこと。

 少なくともツブヤキッターのアカウントは作っておく必要がある。

 他にどんなことができるか、と考え込むアマリ。

 きっとアマリはこれから一気に成長していく。

 それが嬉しい反面、少しだけ寂しさもある。

 いやいや、兄として、社会人として喜ぶべきところだろう。



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