【完結】不良とギャルと清楚と僕で、終末世界を聖水探索《サバイバル》!

環月紅人

プロローグ 修学旅行

Chapter.1 イカれたメンバーを紹介するぜ

 修学旅行日の朝。バスに乗り込む前の時間。


「おーい! 東西南北ブラザーズ!」


 クラスの担任教師が、僕たち四人の班を面白がるように声高にそう呼びよせた。


「あ、あの……」

「不快なんですけどォ」

「その呼び方マジでやめろや」

「あはは……でも、仕方ないよね」


 熟語で言えば三者三様、当て嵌めて見ると四者四様の反応で、不快感と気まずさを半分ずつ、問題児側と優等生側の相容れない二極に分かれて示す。


 高校一年、初めての修学旅行。

 東西南北ブラザーズだなんて、僕たち四人に共通する特徴があってそう呼ばれているのだとしても、特別仲が良いわけじゃない。むしろ、のちのち説明するつもりの西担当、北担当の二人(問題児)は、僕を小間使いのようにしたがる。


 ものすごく仲が悪いってわけじゃ、決してないんだけどね……。

 班長である僕にはとても手綱の握れない二人。

 そうであることに違いはない。


 ともすればなぜ同じ班で行動し、しょうもないブラザー扱いを担任教師から受けているのかという話になるのだけど、この二人以外にも問題児の多い一年B組クラスではくじ引きで班を決めることにしたんだよね。


 結果、僕たち四人は集まった。


 そして、誰かが「東西南北じゃね?」と僕らを指差して表したせいで、以降、この呼び名は定着の兆しを見せ始めている。


 おかげでブラザーズの西担当、クラス一の問題児は、イライラゲージがMAX表示だ。


「オラ優斗、早く進んで奥に座れや」

「う、うん。ごめんごめん」


 足蹴にされて慌ただしくバスに乗り込み、一番奥の座席へ肩身を狭くして座る。


 彼の名前は西條大河。

 僕たち唯一の共通点は、お察しの通り苗字にあった。


 ――そんな僕と西條くんの関係性は、実は中学時代にまで遡ることが出来る。まったく自慢にはならないけど、僕は昔から人懐っこいところがあり、友達の多い人間であった。西條くんはいまも昔もイケメンで当時からモテモテ。いまほど荒んでもいなかったから、簡単に仲良くなれたんだっけ。


 そこからいまのようなパワーバランスへと転じたのは、高校受験を控えた時期。当時の西條くんが一ヶ月くらい付き合っていた女の子を振ったことが原因となる。


 元々その女の子は傍目に見ていた僕でも胃もたれするようなラブコールを四六時中アピールしてきていたり、事あるごとにベッタリと彼に付き纏っていたり。言ってしまえば厄介で、面倒くさいところのある女の子だったんだよね。


 彼はそれでも我慢していたほうだと近くで見てきた僕としては思うし、付き合うことだって根負けの状態。それに、振った理由だって、やっぱり受験に集中したいから(お前がいると集中出来ないから)という真っ当なものでもあった。


 だけど彼女は鬼のように豹変し、いままでの全てを反転させたかのようにダークサイドへと堕ちたところで、在らぬことを学校中に吹聴したのだ。

 それはもう、彼の進路に悪影響を与えてしまうのではないかと誰もが不穏に思うくらい。


 恋が憎しみに変わる瞬間って、本当にあるんだとショックを受けた。


 結果的に彼は進学したのだけど、見違えたように変わることになる。金髪に。眉毛全剃りに。

 そんな綺麗にグレるとも思っていなくて、同じ高校を志望していた僕は、事件後以来久々に西條くんに話しかけてみたんだよね。


「い、一緒の高校らしいね。これからも仲良くしよう」

「………………………………………………………………………………………………ぁ?」


 ――そうしていまのような関係性に至る。彼が不良になった理由には元カレのような女の子(本来根暗で大人しい子だった)を根本的に遠ざけたいという意思があり、それはいまでも変わらずのようだ。

 いまでこそ眉毛は戻り、より洗練として垢抜けた印象のある青年に成長した彼は、同性の僕から見ても魅力的に思えるイケメンになった。

 皮肉にも女子人気は増している。


 修学旅行に気合を入れたのか根元までしっかりとブリーチした金髪に、耳にはピアスではなくイヤリング。高校指定の制服を着ることはなく、私服を貫く問題児。教師に咎められないわけがないのに、当の担任教師は東西南北ブラザーズと煽ってくるような人だから一向に更生してくれる気配がない。

 でもそれは担任が悪いと思います。

 西條くんは元の西條くんに戻って欲しいけど。


 ……そのため、私服の彼はものすごく浮いているようだった。白地にペンキをぶちまけたような黒模様のパーカーと、ダボっとしたシルエットのカーゴパンツ。袖を捲り、ひょろい僕とは違ってがっちりとした体格・身長をしている彼は、孤高といった言葉が似合う。


 僕だって平凡を自称するわけじゃないが、他人から見れば特徴はない。

 それに比べれば西條くんは、オンリーワンを地で行く人だ。

 先生からは悪目立ちだけど、クラスメイトからは人気者だった。


「南田ジャマ。退いてくれる? ねえねえ大河ぁ、これどーお?」


 と、僕と西條くんの間の席に、飛び込むように座ってくるのが北担当の北斗玲奈。

 僕はさらに隅の方へ追いやられる……。

 狭い狭い、お尻がでかい。


 ちょっと太ももが踏まれているのだけどそのことを自分から指摘したら「キモっ」と冷たい目で蔑まれることが目に見えている。彼女が自分から気付いてくれるまで我慢するしかないのだが、それはそれで「なんで言わないの? キモっ」となるので八方塞がりの社会的ジ・エンドな状況だ。悪質すぎて涙が出そう。


 修学旅行の送迎バスの、四シートもある奥座席なのに、大股の西條くんと自己中心的な北斗さんのせいで僕は早くも息苦しさを感じているよ。


「このまま一時間……」


 震えた小声で独り呟く。ガックシ、と首を落として意気消沈した。


 彼女のことを紹介する。


 北斗さんはその言動の通り、西條くんのことが大好きで、一方的に慕っている上に、他の女子とは行動力が違うグイグイ来る系の肉食女子だ。そして僕には不思議なことに、先程西條くんの経緯を話したけど、どこか彼は北斗さんにだけ気を許しているような節がある。


 恋人かどうかは知らないけれど、噂も時々耳にする。このまま彼が事件前の好青年に戻ってくれるならそれでも嬉しいけど、相手が北斗さんじゃそれも難しそうだ。


 流行に乗りまくるけど同時にすごく飽きやすく、いまを楽しむパリピギャル。明らかに髪は染めてるだろうに担任に対して地毛と言い張るし、スカートはすごく短いし、傲岸不遜で唯我独尊といったスタンスの最強女子だ。


 ネイルはするわ授業中でもスマホを見るわとこちらはどうしようもない問題児。

 はっきり言って、東西南北だからって僕やこのあとに紹介するつもりの『あの人』のことを同列に扱わないでほしいとは強く思ってしまう。


「ゆ、優斗くん。大丈夫?」


 と、噂をすれば、クラスの白百合、東雲美幸。

 校内きっての優等生!


 一つ前の座席に座ってお友達と楽しそうにお話しをしていた彼女は、どんどんと壁際に追い込まれれるような僕を案じて覗き込んでくれた。

 彼女の前髪にやや隠れる、小さな眉が八の字をとって、ささやかに震える大きな瞳が僕の表情をじっと見通す。すっと通った鼻筋に、小ぶりで柔らかそうな唇。彼女とこうやって目が合うだけで、簡単に頬が熱くなるのを感じる。


「ありがとう、東雲さん。僕は大丈夫」


 彼女は、本当に優しい人だ。彼女に心配してもらえて、嬉しくない人などきっといない。彼女を不安にさせたくなくて、僕は笑顔でお返事をすると彼女もつられて嬉しそうにした。

 あまり男でこういう表現をするのは気持ち悪く思われるかもしれないが、本当に胸がきゅんきゅんする。これが恋ならお付き合いしたいし、愛せる自信が僕にはあります。

 僕は、彼女のことが好きだ!


「そ、そう? 良かったぁ……」


 ――ああ、可愛い。東雲さん。

 とっても可憐で優しくて、僕が人知れず片想いをする、手の届かない高嶺のお花。


 誰からも好かれる女の子。彼女に対して、みんなは口々にこう言う。「(班が)あいつらと一緒で可哀想だね」って。実は僕も同情される側の人間なんだぜと割り込みたくなるけど、まあ、でも、たしかに分かる。東雲さんは、もっと素敵な班にいるべきだ。


 僕は一緒になれてすごく嬉しいですけどね!


 誕生日はたしか四月十二日。血液型はA。図書委員で、昨日の日直を担当している。

 先程までの問題児二人とは打って変わって、本当に品行方正な女の子で、北斗さんみたいにスカートを短くすることもなければ、高校指定のブレザーを着崩したりすることもない。


 とっても似合っていると思う。北斗さんは生脚だけど、東雲さんはタイツを履いている。奥ゆかしさだってバッチリで……ここらへんも問題児とは違う、清楚とギャルの違いというものがハッキリくっきり出ているのではないだろうか。


 ツヤのある黒髪、ストレートボブ。赤いヘアピンを左につけて、耳掛けで、目尻にほくろがあって、彼女の横顔はとっても綺麗。ぼうっと見つめてしまいたくなるけど、それが許されないのが『他人』という関係性だ。


 ……とはいえ、いままでも僕と彼女は度々日直やら委員の仕事で被ることがあり(理由はクラスで少ない優等生のため)なかなか悪くない関係値を築けている。とは思っている。


 だから、修学旅行で距離をもっと縮めたいところなんだけど、実際のところ、問題児は非常にネックな存在だ。

 西條くんこそ僕は中学からの面識がある分、まだ話しかけることが出来るわけだけど、彼女はそんなこともないわけで。


 今回の修学旅行で、一番不安な気持ちでいるのはおそらく彼女なのかもしれない。何かあったら、僕がフォローに入れるように気を引き締めたい限りである。


「何かあったら、すぐに言ってね。私、力になりたいから」


 胸がじんわりと暖かくなる。本当に好きだ、東雲さん……。

 僕が大きく頷くと、ホッとしたような表情の彼女が座席のほうへ直っていった。僕は気持ちを切り替えるよう、力強く息を吐き出すと、自分のリュックを大切そうに抱え込む。


「よしっ」


 気合を入れていこうじゃないか!

 僕の高校生活、初めての修学旅行! ウィズ、問題児二人と片想い中の女の子を添えて。

 告白できるかなあ。できてしまうのかなあ。でも出来ない気もする……。それは分からない。


 西條くんも北斗さんもいるし、自分がヘタレなのも感じているし。ドキドキと、そわそわと、緊張と、不安。色んな感情をない混ぜにして、バスはついに動き出す――。


 とりあえず、今日はみんなと仲良くなるのを目標にしようと思った。



 最後に。

 申し遅れました、僕は南田優斗といいます。東西南北ブラザーズ、南の担当、イケメンです(※普通)。


 お母さんから京都に行くなら八つ橋を買ってきなさいと渡されたお土産代を握りしめて、僕は修学旅行を満喫しようと思います。

 木刀とご当地ストラップは絶対にやめろと言われました。


 行ってきます。


 ……………。

 いまどきの高校生は別にそういうの、絶対買わないと思います。

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