第14話 体力テスト
そんなこんなで早くも三週目に突入。
契約発表のパーティーまで二週間切ったんだし、警戒は強めないとね。
とはいえ、学園生活は私も普通に過ごさなきゃならない。
杏くんから極力目を離さないようにしてはいるけれど、授業もちゃんと受けなきゃね。
今日は午前の授業を使って体力テスト。
今までは力をかなりおさえていたけれど、今は護衛として来ているんだもん。
わざとドジ
とはいえ本気を出したら本当に人間離れしていることがバレちゃうから……。
うん、半分くらいの力を意識すれば大丈夫かな?
「よーい、スタート!」
五十メートル走の計測で先生が腕を振り下げると、私は心の中で『半分の力』とくり返して走り出す。
うん、大丈夫。半分くらいには出来てるはず。
ゴールすると、計測していたクラスメートが驚いた表情のまま固まってる。
気になった周りの子たちも集まってきたよ。
その中の一人が「え? うそ⁉」と目をまん丸にしながら数値を口にする。
「六秒⁉ 中学生だよね⁉」
ふんふん、みんな八から九秒台だし、私が本気を出したら二秒台になっちゃうから良いところかな?
予定していたくらいの速さで走れたことに満足したけれど、みんなはすごくさわいでる。
「六秒台なんて、世界記録一歩手前みたいなもんじゃないか⁉」
「私護衛してるって言ったでしょう? それなりに訓練してるんだから、これくらい普通だよ」
「……護衛って、ホントだったんだ」
驚くクラスメートたちの中からポツリとそんな声が聞こえてきて、これで少しは信じてもらえたかな、と笑顔になる。
でもみんなと一緒に杏くんも驚きの表情をしているのはどうしてなのかな?
杏くんは私がヴァンパイアだって知ってるよね?
なのにどうしてそんなに驚くんだろう?
その後も立ち幅跳びやボール投げをしたけれど、全てにおいてみんなに驚かれた。
終わるころには、みんなの目も変わっていて私はちょっとした人気者状態。
「すげぇ! どんな訓練したらこんな数値出せるんだ⁉」
「可愛い上に運動神経も良いなんて、望乃ちゃんカッコイイ!」
「えへへ……ありがとう」
男子には純粋に
ほめられすぎてちょっと照れるけど、やっぱり嬉しいな。
「っ! お前、ちょっと来い!」
「え? 杏くん?」
みんなに囲まれている私を杏くんが突然腕を引いて連れ出した。
なんだか焦っているような、怒っているような感じ。
どうしたんだろう?
校庭のすみにある
「……本当に、ヴァンパイアなんだな」
「そうだって言ったじゃない。信じてくれたんじゃなかったの?」
少なくともヴァンパイアだってことは信じてくれたと思ってたのに。
「いや、そりゃあ兄さんが血をなめられてケガが治ったって言ってたから信じたけどさ……でもまだ
「ああ、それで今の身体能力を見て本当だって思ったの?」
そういうことか、と納得する。
人間、実際に見たり体験したりしないと実感できないことってあるよね。
「そうだよ。……本当に、人間じゃねぇんだなって思った」
「……」
その言い方に少し表情がこわばる。
ヴァンパイアだって話したときも普通だったから大丈夫だと思ってたけれど、もしかしたら実感した今怖くなっちゃったのかもしれない。
人間じゃない、化け物だって。
父方のいとこにも言われたことがある。
化け物がハンターになれるわけないだろって。
あのときはすぐにおばあちゃんがゲンコツを食らわせてしかってくれたから、その後からは言われなくなったけど。
でも、そう思う人もいるんだなって思った。
まさに今、杏くんにそう思われているのかもしれない。
人間離れした化け物だって。
仲良くなれたと思っていたから、怖がられたらやだな。
そう思ってしょんぼりしていると、杏くんは怒ったような声で話し始める。
「で? その人間離れした身体能力を見せつけて、ヴァンパイアだってかくす気あんの?」
「え?」
「人間の、しかも中学生があんな記録出せるわけねぇだろ⁉」
怖がられたかもと思っていたのに、なぜか怒られてしまって戸惑う。
「え? でもほら、護衛として訓練してるってことで……」
そう言えるように力をおさえたし、と話すと今度はあきれられた。
「おさえてあれかよ……。でもいくら訓練してたってことにしてもあれはやりすぎ、もっとおさえろ」
「そう、かな?」
おさえるのが半分じゃ足りないと言われて不満に思っていると、そんな私の様子に気づいたらしい杏くんは目をつり上げて怒る。
「もっと! お、さ、え、ろ、よ?」
わざわざ一音ごとに区切るあたりその怒りが伝わってくるようだ。
「わ、分かったよう」
仕方なく了解の返事をすると、「よし!」とうなずいて怒りを治めてくれた。
満足げな杏くんを見て、私は逆に不思議に思う。
「ねえ、杏くん」
「ん? なんだ?」
「私の人間離れした身体能力を見て、怖いとか思わなかったの?」
ちっとも怖いと思っていなさそうだったからつい聞いちゃった。
「なに? 怖がられてぇの?」
ムッとした顔で聞き返されて、私はすぐに頭を勢いよく横にふる。
「怖がられたくないよ! でも、不思議に思ったの。前からなついてくれている紫苑くんはともかく、杏くんと柊さんは私のこと警戒してたでしょう?」
その警戒は婚約者候補かもしれないと思っていたからだろうけれど、そんな警戒している相手のことをすぐに信じてくれたのはなんでだろうって思った。
「まあ、俺はまず兄さんのこと信じてるからな。兄さんが信じてることなら、俺も信じるよ」
迷いなく出てきた柊さんへの信頼の言葉に、驚いたし良いなぁって思っちゃった。
私には兄弟がいないから、ちょっとうらやましい。
「それにさ、あの夜泣きそうになった紫苑を抱っこしてなだめてただろ?」
「え? あ、うん」
あの夜ってことは私がヴァンパイアだって打ち明けた時のことだよね。
「あの時のお前見てたら、本当に紫苑を大事に思ってくれてんだなってのは分かったから」
そこまで話してから、杏くんは少し私から視線をそらしてほほをかいた。
「だからその……怖がったりなんかしねぇし、今は護衛として信頼してるから……あと二週間よろしくな、望乃」
「うん。って、私の名前……」
杏くんが私を名前で呼んでくれるのは初めてだ。
「べ、別に同じ年なんだから呼び捨てでもいいだろ?」
ちょっと照れたみたいにあわてる杏くんに、問題はそこじゃないんだけれど……と思う。
でも、思っただけで口にはしない。
だって、ちゃんと名前で呼んでくれたってことは認めてくれたってことだろうし。
呼び捨てしたってことは、それだけ信頼してくれたってことにも思えるし。
だから私は笑顔でこたえた。
「うん! よろしくね、杏くん」
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