第5話 次男と三男

 柊さんについて行って、やっとリビングルームに来ることが出来た。

 先に柊さんがドアを開けて入っていくと、「しゅうにーちゃん!」と小さい子の声が聞こえる。


「ああ、紫苑しおん。もう来てたんだね、早いな」


 柊さんはしゃがんで三歳くらいのかわいい男の子と視線を合わせると、そう言ってふわふわの薄茶の髪をなでていた。

 優しくほほ笑んでいて、そんな表情も出来るんだなーって不思議な気分になっちゃったよ。


「早いって、兄さんが遅いだけだろ? 何ゆっくりしてたんだよ?」


 次いで、あきれた声がする。

 見ると、こげ茶の髪と目を持つ私と同い年くらいの男の子が大きなソファーに座ったまま柊さんを見ている。


 その目が私に向けられた。


「で、あんたは?」


 睨むように言われてちょっとビクッとなっちゃう。

 でも、彼と一緒に中にいた登代さんが私に気づいて近くに来てくれた。


「遅かったですね? もしかして迷いましたか?」


 言い当てられて、「はい、すみません」と首をすくめながらあやまる。


「いえ、あなたは来たばかりですからね。私が迎えに行けばよかったのです」


 きつそうな表情はそのままだけど、「ごめんなさいね」とあやまられる。

 やっぱり登代さんは優しい人なんだなって安心した。


「いいから早く用事済ませてくんねぇ? ゲーム途中だったんだよ」


 中にいたぶっきらぼうな男の子が文句を言う。

 もしかしなくても、この人が私と同い年の次男だよね?


 三兄弟の中で一番近しくなるであろう相手の態度に私はサイアク!ってなげいた。

 柊さん以上に仲良くなれそうにない。


 こんな人たちが護衛対象なんて……と気落ちしながらリビングルームに入ると、紫苑と呼ばれた男の子にジッと見られていることに気づいた。

 ニコッと笑顔を向けるとサッと柊さんのかげに隠れちゃったけど。


 うーん……かわいいけど、なついてはくれないのかなぁ?

 上の二人とは仲良く出来そうにないから、せめて紫苑くんだけでもって思うんだけれど。


「さあ、こちらが今日から一か月みなさんの護衛につくことになった弧月望乃さんです」


 三人がソファーに座ると、登代さんが私を紹介してくれる。

 もうこのときには不安も大きかったけれど、依頼は受けちゃったんだから頑張らないとね。

 そう思い直して元気にあいさつをした。


「弧月望乃です。一か月よろしくお願いします!」


 ペコリとお辞儀をすると、今度は三人の紹介を登代さんがしてくれる。

 長男の柊さん、次男で私と同じ年のきょうくん、そして末っ子の紫苑くん。


 紹介されながらも柊さんは興味なさそうだし、杏くんはにらんでくるし、紫苑くんは大きな目でジーッと見ているし。

 三者三様の反応にどうすればいいのかなと思っていると、杏くんが「はっ!」と不機嫌そうに声を上げた。


「女に守られるとか、ぜってーやだ。しかも全然強そうじゃねぇじゃねぇか」


 その言葉にムッとする。


「特別な訓練を受けてるから、ちゃんと強いです!」


 それにヴァンパイアだしね!


 ……とは言えないけれど、少なくともこの杏くんよりは絶対に強いもん!


「どうだか」


 でも全く信じようとしないどころか馬鹿にした態度の杏くん。

 やっぱり杏くんとは仲良く出来そうにない!って改めて思った。


「……まあ、頑張ってみたら?」


 柊さんはどうでもよさそうに適当なことしか言わないし。


 紫苑くんはそんな柊さんのズボンにしがみついて隠れてる。

 そのままジーッと私を見るだけでどう対応すればいいのか分からない。


 もう、先が思いやられるよ。


 みんなに見られているからしなかったけれど、重いため息を吐きたい気分だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る