第8話 貴重な薬草のバイキングコース

 試しに一株、小生は貴重な薬草を口に入れてみた。

 その味は、少しピリッとした辛さがあるが、薬草の風味と旨味が口中に広がり、ちょっとしたエグミもアクセントとして味全体を引き締めている。


 なんというか、身体が内側から洗われているかのような美味しさだ。


「っと……この株はここまでだな」


 人間が食事のマナーを重んじるように、小生のような一角獣も最低限のマナーを持って薬草を食べるものだ。

 それは、根元はきちんと残しておくことである。そうしておけば、植物は生命力が強いので再び生えてきて、ここを通りかかったときに、貴重な薬草にありつくことができる。


 小生は2株目、3株目と次々に食べると、何やら霊力が変化した気がした。

 そのまま首を伸ばして、5株目、7株目と食べていき、10株目を食べ終えると、泉の水面に映った自分自身を眺めてみた。


「……毛艶が良くなっているし、それ以上に角がクリアになったな」


 更に10株ほどを平らげると、小生は泉のほとりで横になって少し眠ることにした。

 いっぺんに全てを食べてしまうと、身体に馴染まないまま外へと出てしまうことも多いが、これくらいの量に絞っておけば、きちんと消化できる。



 2時間ほど食休みしてみたが、泉の周辺に精霊や竜族などが現れることはなかった。

 小生は起き上がると、再び20株ほどを食べていき、泉の水面で自分の姿を眺めてみると、角は宝石のような緑色の光を放っていた。


 普段は赤く光らせることが多い小生の角だが、赤くなるのは基本的に感情が高ぶった時であり、普段は緑色の光を放っていることの方が多いのである。

「2つの属性を使い分けられるのは……便利かもしれないな」


 ちなみに当たり前の話だが、薬草などを食べてより恩恵を受けているのは、大地属性を守護する角の方である。大地系の魔法には、植物を操ったり、衣服となっている繊維を修繕したり、変化させたりする力がある。



「どれどれ、少し試してみるか……」

 小生はそう呟くと、食べて根元だけになった薬草に向けて角を向けてみた。


 すると、角の働きかけに応じて、薬草は自分の千切れた部分に液体のようなモノを集めて修復しようという動きを見せていた。


 小生は母親のような植物魔法の達人ではないから、植物を食べてから魔法をかけて成長を促進させ、再び食べるという芸当はできないが、丁寧に魔法をかけていけば、このまま弱って枯れてしまうリスクを減らすことならできそうだ。



 今まで食べた40の株すべてに成長促進魔法をかけると、小生は再び20株を食べてから一休みすることにした。

「…………」

「…………」


 そして、起き上がったときには夕暮れ時になっており、小生の角は若葉のような緑色の光を放っている。

「試してみるか……」


 そう言いながら、先ほど食べた20株に成長促進魔法をかけてみると、千切れた部分から液体のようなモノが流れ出し、更にわずかだが中から新たな茎が伸びていた。


「……十分に薬草は食べたし、しばらくは魔法の練習をしないとな」


 こういう薬草をいくら食べたとしても、きちんと練習しなければ魔法は上達しないのである。小生は残った薬草を横目で見ると、そのまま泉を去ることにした。



 さて、次は山奥にある生まれ故郷を目指し、そこで情報収集でもしよう。

 そう思いながら獣道を進みはじめた。明日は天気の様子が心配になる感じだが、今日は大丈夫そうなので、腹が減るまで歩いていき、空腹を感じたところで手近な草を食む。


 そんな気持ちで3時間ほど獣道を進んでいくと、ほのかにだが血の臭いを感じた。

「……このにおい……エルフの女性のモノか」


 何があったのだろうと思いながら、その方角に向かってみると、においで察した通り若いエルフの少女が、困り顔のまま川辺に腰掛けている。

「……足をひねったか?」


 呟いた直後に、オオカミの気配を感じた。このまま見捨てると……確実に狩りが始まってしまう。

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