クオリア~万華鏡の如き世界~

kuro

第0話

 幼少期、僕は保育所でわいわいとあそんでいる子供達を一人輪のそとから眺めているだけの子供だった。もちろん、遊びにさそってくる子供も中には居た。けど、僕はそれを丁重に辞した。そして、ずっと輪の外からずっと眺めていた。

 そんな僕の事を、何時しか他の子供達はこわがるようになった。うん、まあ今思えば当然の話なのだけれど。

 ある日、僕は自閉症じへいしょうと診断された。ずっと独りで人の輪の中に入らずぼんやりと眺めていたのが原因げんいんだろう。そんな僕を、両親はとても心配しんぱいしてくれた。

 とても心配していたので、僕はある日両親に言った。

「僕、自閉症?っていう病気びょうきじゃないよ?」

 どうやら、僕は他の人達みんなと見えている世界けしきが違うらしい。とは言っても、別に一人だけファンタジーな世界が見えている訳ではない。ただ、世界の見え方が他の人達とは少しだけことなっているだけだ。

 見ていて感じた事だけど、僕には他の人達とは世界の見え方がすこしだけ違う。何というか、他の人達が世界をどう見ているのか。その色彩しきさいが見えてしまうのだ。

 例えば、ある人は世界がこんな風に見えている。またある人はこんな風に世界を見ていると。そんな風に世界セカイが見えている。

 まるで、様々な色彩が折り重なって万華鏡まんげきょうのようだった。

 綺麗きれいだと思った。だから、何時だってながめていたいと思っていた。

 だけど、どうやらそんな僕の事を他の皆はけ入れてくれないらしい。僕の話を聞いた両親は、まるで化け物を見るような目で恐怖きょうふに満ちた視線を向けてきた。

 この時、僕は初めて自覚じかくした。

 ああ、僕は一人ぼっちなんだな……

 そんな僕は、この時初めて一つだけ目標もくひょうを人生にさだめた。

 少しだけ大きくなったら、僕はこの人達のもとを離れよう。独り立ちをしよう。

 そう、心にめた瞬間だった。

 ・・・ ・・・ ・・・

 そして、現在。季節ははる、僕は高校二年生になった。

 大阪湾に浮かぶ人工島じんこうとう、アメノトリフネ。その学業区画にある第三星海だいさんほしうみ高等学校が僕の所属する学校だ。桜咲く新学期、とは言っても人工島にあるこの学校に桜なんて生えていないけど。ともかく僕は今日から高校二年生だ。

 高校生になって、僕は一人暮ひとりぐらしを始めた。このアメノトリフネは日本国に存在してはいるものの、その実態は日本から切り離された独自のほうに守られた行政特区で厳密には僕が所属しているのは日本ではなくアメノトリフネとなる。

 そして、このアメノトリフネ。人工島であると同時に噂では途方もなく巨大な船でもあると噂にある。流石にそれはとんでもない噂だとは思うけど……

 まあ、閑話休題。

 僕は今日から始まる新学期に少しだけ胸をふくらませる。

「おう、ユキ。今日から俺とおなじクラスだな!よろしく!」

「ああ、よろしくだけど。いい加減僕の名前をユキとぶのは止めて欲しい。僕の名前は神田かんだユウキだ」

「まあそう言うなよ、ユキ。中々かわいいと思うぞ?」

「可愛いからいやなんだよ……まったく」

 思わず苦笑くしょうする。こいつの名前は海老原えびはらしゅう。僕は下の名前で秀と呼んでいる。

 だが、本当僕の名前をユキと呼んでくるのはめて欲しい。良い奴ではあるんだが本当にこういう性格は何とかして欲しい。全く、やれやれだ。

「まあまあ、そう言わずに。ほれ、あそこに居る女の子をてみろよ。随分と可愛くていいんじゃないか?」

「あ?何を言って……っ⁉」

 言って、僕はそちらの方を見る。其処には一人の女子生徒があるいていた。

 ただ、それだけだった。なのに、僕はその女子生徒から目をらせなかった。一目惚れだとか、そんなちゃちな理由ではだんじてない。

 もう一度言うが、僕は他人の世界の見え方が見える特異体質とくいたいしつだ。他人がどう世界を見ているのか、それが見える。

 その結果、僕はこの女子生徒の見えている世界けしきを見る。

 何だ、これは……?

 決して理解出来なかったから疑問ぎもんを浮かべたのではない。理解したからこそ、疑問を浮かべたのだ。

、か……」

「え?何だって……?」

「いや、なんでもない。こう」

「え?あ、ああ……」

 少しだけ、一波乱ひとはらんありそうだと僕はおもった。そんな、始業式だった。

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