巣鴨プリズン①~蒼島の場合~

 ◆


 少なくとも昨今は、"乙級指定旧巣鴨プリズンダンジョン"へ挑戦する探索者は皆無だ。


 如何せん未帰還率が凄まじい。


 しかし池袋本部は巣鴨プリズンダンジョンへの挑戦は控える様にアナウンスしているものの、禁止まではしていない。


 というのもこのダンジョンにはある特異な性質があり、その性質が故に必要悪として存在を許されているからであった。


 ・

 ・

 ・


【探せん】ダンジョン探索者協会本部 part4701


 55:名無しの戌級探索者さん


 都内のダンジョンでお勧めあったら教えてよ



 56:名無しの戌級探索者さん


 等級指定しないと



 57:名無しの戌級探索者さん


 乙級までならどこでもいいよ



 58:名無しの戌級探索者さん


 上級探索者様かよ



 59:名無しの戌級探索者さん


 丁級とかなら池袋東口のドッカメなんだけどな。機械系のモンスターしかでないから、電撃とか弱点を突けば入れ食いよ



 60:名無しの戌級探索者さん


 雑魚が雑魚狩りしてどうすんの



 61:名無しの戌級探索者さん


 乙級ならどこでも稼げるでしょ。ああ、でも巣鴨プリズンは駄目だぞ。この前も元乙級が入っていって帰ってこないって話らしいし



 62:名無しの戌級探索者さん


 元乙級って? 



 63:名無しの戌級探索者さん


 殺しをやって資格はく奪されたんだってさ。武装職員が追い詰めたのはいいものの、巣鴨プリズンに逃げ込まれたんだと



 64:名無しの戌級探索者さん


 ああ、オペレーター殺しの奴か。でも全然逃げれてないじゃんそれ。ご愁傷様。まあでも巣鴨プリズンに入ろうと思えたんだったら、そういうカンジだったってわけだよね。池袋のダニがまた一匹減ったぜ



 65:名無しの戌級探索者さん


 >>64

 どういう意味? 


 66:名無しの戌級探索者さん


 >>65

 犯罪者ホイホイってこと。あのダンジョンがあるお陰で探索者の犯罪率が抑えられているっていうのがあるんだよね。甲級じゃないのは国の許可がおりなかったからって聞いてる



 67:名無しの戌級探索者さん


 犯罪者ホイホイって、じゃあ何もやらかしてない奴が巣鴨プリズンに行ったらどうなるの? 



 68:名無しの戌級探索者さん


 行く気にならんのよ



 69:名無しの戌級探索者さん


 え? 



 70:名無しの戌級探索者さん


 ダンジョン生物論って聞いた事あるだろ? 生きてるんだったらPSI能力を使えると思わん? アレって結局意思を波だとか粒だとかに伝える技術だからさ。つまり……



 ◆


 頭の中をグチャグチャに搔きまわしてくる "アレ" に対して、蒼島 翼は懸命に抗っていた。


 精神干渉系PSI能力の達人である彼だからこそ、ここまで抵抗が出来ていた。


 彼の年齢でここまでのワザを持つ者はそうは居ない。


 しかしその抵抗も長くはないだろう。


 いずれ "アレ" に精神と肉体を乗っ取られてしまうに違いない。


 それを悟った時、蒼島は巣鴨プリズンへと向かった。


 巣鴨プリズンの特異な性質は蒼島も良く知っていたが、今の自分に資格がないとは思わなかった。


 ──奪わなくても良い命を奪ってしまった


 蒼島も蒼島で、かなり遵法精神が薄いというか、グレーゾーンを攻めまくるタチの男であるのだが、それなりに交友関係を築く事ができていた相手をてずから殺害してしまった事にはショックを感じざるを得ない。


 ある夜呼び出されて、ホイホイと向かったら性的に襲われて、ちょろい一般人女を一発喰ってやろうとおもったらこのザマである。


 交錯する視線と視線の不可視のラインから、オペレーター娘を通じて "アレ" が蒼島に感染した。


 落とし前をつける必要がある……蒼島はそう考えていた。


 やられたままでは居られない。蒼島という青年は非常にプライドが高いのだ。


 だが、恐らくは派遣されてくるだろう高野坊主を待っている間に、己を蝕む精神寄生体は不可逆的な増大を見せるだろう。上手く引きはがせたとしても、残った自分はもはや十全な自分ではない。そんな確信が蒼島にはあった。


 ──となれば


 蒼島が考えたのは "毒には毒を" である。


 巣鴨プリズンは精神の牢獄、そして "更生" の場。


 内なる悪が異形と成り果て、それに打ち勝たねば脱出が叶わない。






---------------------------


最近短篇も良く書いてます。今日も8000字くらいのやつを書きました。「愛、螺旋」ってやつです。よかったらそっちも宜しくおねがいしまーす。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る