旭真祭⑦~旭ドウムへ~
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自動運転に身を任せる事暫し、歳三はやはり眠りこけている。歳三に指ちゅぱに一同は一瞬目くばせしあったものの、それに言及しないだけの情けもまた存在した。
起こす、という選択肢はなかった。せいぜい気持ちよく眠って貰おうと皆が考えていた。薬を盛っただろう、という非の打ちどころのない理由で激昂されでもしたらたまらないからだ。大体陽キャのせいなので、怒られるとしたら陽キャなのだが、寝起きに機嫌が悪いというのはよくきく話ではあるし、ひょんなことで全員ミンチになっているというのは御免であった。
もっとも歳三を起こした所で彼が激昂する事などはまずないが。逆に落ち込むかもしれない。
歳三という男は卑下を父とし、自己嫌悪を母として生まれてきたような男であるから、息子やら娘やらでもおかしくない年齢の若者から恵んでもらった酔い止めですっかり眠ってしまった情けない事実に怒るという事はあり得ない話だった。
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京都入りを果たす少し前から、彼らは不穏な空気を感じ取っていた。街外れへ向かう車の数が異常に多い。一方で報道陣や警察、消防、機動隊の車両は街の中心へと向かっている。探索者の集団も車道を急ぐ。空を見ればカラスたちが不吉な鳴き声をあげて、屋根の上に群れを成しているのが見える。路傍では、僧侶たちが何やら重大な相談をしているようだ。バスに似た大型車両が市民を街外へ運び出している。
異変は明らかだった。
そして、それはきっとよからぬ種類のものに違いない。
探索者たちは常人には想像もつかないような異界のダンジョンを経験している。そのため彼らは一般人よりも遥かに強靭なメンタルを持っていた。だが、"それ"を目の当たりにした陽キャこと剣 雄馬は『ゲェッ!』などというお下品でありふれた反応をしてしまう。
なぜなら旭ドウムがあるはずの場所には、別の異形の存在がその座を占めていたからだ。
灰白色の外観、表面の蠢動、内部に赤く流れる何か。それは誰もが知るある形をしていた。
「……脳?」
スポーツ女、音斑 響が呟いた。その言葉に陰キャが返す。
「ダンジョンが形を変えたのかもしれないね。断定はできないけど、協会の職員らしき人たちが取り囲んでいる」
「でもな、こんなリアルでグロテスクなダンジョンは初めてだ。普通のダンジョンは外から見て何なのかわかりゃしないんだからな…これだけ変わっちまってるってことはよ、つまり……」
陽キャの言葉を継ぐものは誰もいない。
外から見て明らかに異常だと分かってしまうというその一点だけで、探索者にとっては怖気づくに値するだろう。
旭ドウム裏手のF9駐車場に車を停めた一行はその面々に不安の影を揺らめかせつつ、車内から"それ"を見上げていた。
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某日
ダンジョン探索者協会外部調査部
報告書番号: 213-ΔΞ
報告者: 久我善弥
提出日: 2XXX年XX月XX日
本報告書はダンジョン探索者協会の最新の調査結果に基づき、探索者の身体的特徴とダンジョンの外観の関係性についての仮説と考察をまとめたものである。探索者の超人的な能力は外見上の変化として表れず、ダンジョンの異界性も外観からは判別不可能であるが、これらの間には何らかの関係があると推測される。
通常、探索者は外見からはその超人的な能力を推察することはできない。しかし、高位探索者の一部には通常とは異なる身体的特徴が見受けられるケースもある。これには複眼、皮膚の金属化、身体部位の増減などが例として挙げられる。このような特異な特徴は彼らの内在する強大な力の表れであると推測される。
一方でダンジョンの外観も同様に、その内部の性質を外からは容易には読み取れない。ただし、高難易度のダンジョンでも上澄みに近づけば近づく程に外から見てもその特異性が明確になる傾向があり、これは探索者の身体的特徴と相似する。例えば原型を残さない変形作用、異常な色彩、あるいは空間の歪みなどがそれにあたる。
これらの事実は、内包する"力"の許容量が一定以上となった場合、人であろうとダンジョンであろうと何らかの変異を遂げるのではないかという仮説に一定の信憑性を与える。ただし、勿論これには例外も含まれる。
確実に言えることは、外観から明らかに異常な特徴を持つダンジョンは危険度が高いと見なされるべきである。
そのため、経験と実力に自信のない探索者はこれらのダンジョンに足を踏み入れるべきではない。本報告書をもって、全ての探索者に対して十分な注意と警戒を促す。
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月末月初めちょっと私用で色々やってたのと、なんだか具合悪かったので少し遅れましたが更新します。あんま文字数少ないですけどリハビリがてらです。
あと、サバサバ冒険者のコミカライズ連載がはじまったのでニコニコ静画とかコミックウォーカーとか、そのあたりでぜひ読んでみてください。原作より面白かったです。漫画家さんは終の人の清水 俊先生です。お金かからないですよう。よろしくお願いいたします
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