秋葉原電気街口エムタワーダンジョン⑪

 ■


『THE・カラテはなぜそこまで強いのでしょうか?物理法則をなんだと…いえ、ともかく、それ程の実力を手にする為には並々ならない努力が必要だったのでしょうねっ』


 フロアの18禁モンスターを一通り掃討し、5階への階段へ向かうTHE・カラテにティアラが尋ねた。


「ただ、鍛えてきた。それだけだ」


 そんなティアラにTHE・カラテは短く答え、背を向けて再び階段へと向かう。


 男は背で語る!

 ティアラはTHE・カラテの、いや、歳三の背にどうしようもないしょうもな中年…己の不器用さを自覚し、それでも世間とうまくやっていけない、同年代の者達は皆家庭を築き、子を為していく中、ただ自分だけが世間から取り残されている様な虚無感を感得した。要するに、しょうもなオーラを感じ取ったのである。


 ──むなしみを感じる…


 虚しさ、そしてしょうもない感じの愛おしさだ。

 ティアラは往時の客の事を思い出していた。


 ──『へ、へへ、今日は120分ではいれたんだ』


 前歯の欠けた中年男性であった。

 ティアラの客の中では細客でこそないが、太客でもなかった。

 しかしMから受け身マグロに変貌する事がない良客でもあった。

 SMとはSとMの共同作業である。

 互いに信頼を以てコトに及ばなければならない。

 しかし悲しい事に、自分は何もせずにただ快楽を得たいからと、マグロの様に受け身となるファッションMというものが往々にして存在する。信頼ゆえに身を任せるのではなく、怠惰ゆえに身を任せるのだ。そういった者達はマゾヒストではなくマグロと呼ぶ。


 ──『ち、チラシくばってよう!何千枚も、くばったんだ。それでもお金なくってよう、は、はは歯の治療代、ちょっと、つかっちまった、よッ!』


 ティアラは本当にしょうもないな、と思いながらも、不細工な犬を愛でるような心境となり、心を込めてそのおっさんを雌にしてやったものだった。


 その時感じたなんとも名状しがたい何かを、どうみても絶対強者であるTHE・カラテ…歳三の背を見て感じ取ったのである。これは何百人もの四つん這いになった男の背を見て来た女でなければ分からない感覚といえるだろう。


 だが今はダンジョン探索中、一瞬の油断が命取りとなる。

 ティアラはふるりと頭を振って、雑念を払い落した。


 ■


 5階の階段を上がりきったところでTHE・カラテは立ち止っている。視線は下方を向いていた。


『どうしたのですか、THE・カラテ…これは…』


 ティアラも異変に気付いた。

 そこには中途半端に解体された18禁モンスター達の死骸が大量に積み上げられていたのだ。


 ──整然と積み上げられている。放り捨てられているわけじゃない。誰かが積んだってことかしら。嫌な感じね


『リスナーの皆さん、なんだかちょっとまず~い雰囲気になってきましたよっ…。これは仕込みでもなんでもありません。私一人ならすぐ撤退なのですが…私には強い味方がいます。どうやらTHE・カラテも先へ進むつもりのようですし、私も追従していきたいとおもいますッ…!大丈夫、私のマグナムは新品で980万円もします!つまりそれはかの名銃、S&W M500の約62倍の強さを誇るという事ですッ。銃オタのモモカちゃんに手配してもらって仕入れた高級品なので問題ありませんッ』


 "ソウハナランヤロ" と鉄衛は思ったが、撮影中に突っ込むような野暮な真似はしなかった。とても賢いので。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る