秋葉原電気街口エムタワーダンジョン⑨

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 日本が仮想敵国と見なしている某国だが、某国も日本を仮想敵国と見なしている。とはいえ、だからといって軍隊を派遣するというのは流石にあり得ない選択だ。


 日米安保条約が今なお継続中という事情もあるが、日本が保有する探索者戦力と言うのも脅威であった。探索者戦力の脅威という話ならば某国にも言える話ではあるが…。


 ともあれ、場合によっては平気で一地方都市を単身で殲滅できるような戦力を暗殺にぽんぽん投入されたのではたまったものではない。


 よって、この時代、探索者戦力を抱えている各国は表立っての対立というのは中々どうして出来ないものではあった。


 そこで某国が、というか各国がとっている戦略は、まだ世間に知られていない手下てかの戦力を使う事である。


 それでは結局暗殺戦力の応酬となってしまうではないか、と言いたい所ではあるが、それこそ地方都市を殲滅できるような上位戦力というのは探索者として名を馳せており、知名度が高すぎる。

 また、そういった探索者はエゴイストであるケースも多く、それなりの大義名分が無ければ国の命令にも反発しかねないのだ。


 勿論そうはいっても所詮は個人であるため、国家という巨大組織には最終的に屈服せざるをえないだろう。だがそうやって鉄砲玉に仕立てた所で、相手国家に報復の"大義名分"を与えてしまう事は非常にリスクがある。


 よって、表社会に出てこない非合法組織を使って破壊工作というのが界隈の流行であった。そういった組織の構成員は自分の組織が国の鉄砲玉となっていることを知りもしないし、腕前はそれなり、そして死んだとしてもダニが消えるだけである。何も問題はない!


 という事で、その非合法組織だが既に日本にも多数潜伏しており、各所を拠点として真面目に破壊工作に励んでいる。

 破壊工作というのは例えば要人の暗殺や、日本政府と企業間の重要な契約事の妨害、治安悪化工作や、もうとにかく色々とある。


 ただ、潜伏先によって破壊工作の色も変わってくるもので、例えばこの秋葉原であるなら…


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「闇…闇ねぇ…もしかしたら、いや…うーん」


 ハマオはゴリゴリと頭を掻きながら先を進むTHE・カラテの背を見つめて言った。


『ハッキリ イイナサイ』


 モゴつくハマオを鉄衛が促す。

 ガシャコンガシャコンと左腕部のカッターが出し入れされている。本来ならばモンスター素材を適正なサイズにバラす為の得物だが、凶器というものは場合によっては会話の潤滑油にもなりえる。


「ちょっ…それしまってくださいよ!いやね、最近アキバに限った話じゃないんスけど、タチの悪いヤクが出回ってるみたいで。ハイになるヤクっていうとコカインが有名ですけど、それのもっと強烈なヤツですね。いわゆる探索者向けのブツです。全能感っていうんスかね?そういうので胸がギューン!ってなって、めっちゃ強くなるらしいですよ!短時間だけ!でね、雑魚っぱなモグラがそういうのに頼って探索をしてるんだとか…」


 "雑魚っぱ"とは、雑魚で木っ端を表すFワードであり、モグラとは最下級ダンジョンを出入りして野犬未満のしょうもないモンスターを狩って日々生活し、それに満足してしまって一切の成長が停滞した探索者擬きの事を言う。


『ソレハ タイヘンデスネ ツヅキ ヲ キカセテクダサイネ』


 鉄衛は"なんと頭の悪い説明だ"と思いながらも、先を促した。


「そのヤクがどこで作られてるかって話なんスけど、なんかどうにもダンジョンじゃねぇかって話があるんですよ。材料とかどうもダンジョン素材をつかってるらしくて…」


 鉄衛は"なにもしなくてもベラベラ話してくれて楽でいいなぁ"と思いながら、思考の強化に僅かにリソースを割いた。

 ダンジョンの性質、歳三との探索における想定外のトラブルとの遭遇率、そこから考えられるあんな事やこんな事を…

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