秋葉原電気街口エムタワーダンジョン②
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外でDETVのダイバーが配信の準備をしている頃、歳三と鉄衛は既にダンジョンへ突入していた。
"秋葉原電気街口エムタワーダンジョン" は、大変異前は複数階層に渡ってアダルトショップが展開する地上6Fからなる大人の百貨店である。
各階は異界化前のそれと比較して10倍ほどの面積へと拡張され、上階へ進めば進むほど店内が荒れていく。
『上階に進むほど店内が荒れていく現象は、人間の欲望とその結果についての象徴的な表現だ。欲望を追求すること…それは一時的な満足感をもたらすかもしれないが、しばしば混乱や破壊も引き起こす』
そうのたまったのは、乙級探索者にして現役AV男優である所の
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ダンジョンには例によって鉄衛が先行した。
これは鉄衛に与えられた役割だ。
極めて強い悪意があるダンジョンでは、入口に致死性の気体が撒かれていることもある。待ち伏せがされている場合もある。感知と対応手に富む鉄衛ならば、あるいはトラップを回避する事が出来るかもしれない。
歳三は暫く待ち、鉄衛が入口から顔を覗かせて問題はないという合図を確認すると、悠々と歩を進めていく。
1F部分は明るく、整然と大人の玩具が並んでいた。
全体的にピンクの彩色が多く煽情的な雰囲気だ。
「余り散らかってねぇな。上の階にいけばいくほど、荒れているらしいけどよ」
歳三は言うなり、ン、と頭を傾けた。
顔の横を何かが通り過ぎ、壁にあたって破裂する音。歳三はそれが何かを確認しようとはしなかった。次から次へとソレが飛んできたからだ。
『データショウゴウ! ジョーク・モンスターデスネ。トブ、アタル ト ハジケル。イッパンジン ナラ ホネクライハ オレルカモネ』
分かりやすく言うならば飛行ディルドである。
ディルドとは男性器を模したゴム状のアダルト・グッズだ。
まるで馬鹿みたいな外見ではあるが、体当たりには注意しなければならない。時速200キロ超での突撃は、これはこれで当たれば丁級探索者なりたてくらいの者ならば怪我する程度の威力がある。
「わあ!チンポだ!チンポが飛んで来やがる!なんてひでぇダンジョンだ!だが素材が飛び込んでくるっていうなら助かるぜ。大した金にはならねえけどよ、やりがいってもんは必要だ…何事にも…。きいてくれるか鉄衛、俺はよ、昔昔、ずっと昔にチラシ配りのバイトをしたことがあるんだけどよ…」
歳三はそんな事を言うなり、驚異的なハンドスピードでたちまちピンク色のジョーク・モンスターを数本捕獲した。
「なにっ」
だが、すぐにその表情を変える。
手の中でうねうねと蠢くその動き、そして妙に温かいその温度。なんとも不快で仕方がなかった。
──むんっ
ぎゅうとジョーク・モンスターを握りしめると…先端から何か白いものが漏れ出るではないか。
『ソノエキタイ モ サイシュ! セッチャクザイ トシテ ユウヨウ デスネ』
歳三はウッと呻きながら、仕方なく床へ飛び散ったそれを採取し始めた…。
ちなみにこの白い液体は瞬間接着剤の材料として有用だ。
デナタイトという接着剤があるが、これはダンジョン由来のものではないにも関わらず、49MPaもの引張せん断強度を誇る。これは一円玉の面積に塗りたくれば車両重量が1320~1460kgのプリウスを吊り上げられるというとんでもないシロモノだ。
だがこの白い液体から作られる接着剤は、180MPaもの引張せん断強度を誇る。これは一円玉の面積に塗りたくれば、アフリカゾウの中個体くらいならば吊り下げる事が出来るだろう。
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2F。
全裸の女性が群れを成して歳三へ襲い掛かってくる。
様々なタイプの全裸女性だ、しかも単なる美人だけではなく、個性的なタイプまで網羅している。常人ならば目を奪われてしまうだろう。だが淫靡な花が乱れ咲いた後には、目だけではなく命までもが奪われた哀れな骸のみ。
常人でなくとも、未熟な探索者であるならば精を吸いつくされて骸を晒す事になるかもしれない。
だが歳三は常人ではないし、未熟でもない。
ダンジョン外ならばともかく、ダンジョン内で歳三に色の罠は通用しない。
歳三の斜め前蹴りが床を抉り飛ばした。
──
衝撃波が床を伝播し、全裸女性達の膝から下を砕き割る。
シバリングの応用で全身を振動させ、その振動を脚部に一点集中し、地面を斜め前方へ蹴り砕くこの技は、威力こそ大した事はないが攻撃範囲に優れ、相手の脚部が
床が次々にめくれ上がり、まるで陸上に発生した津波の様に全裸女性群へ殺到した。その現象を起こしているのは歳三の蹴りから発された振動波である。
結句、全裸女性群の膝から下が砕かれ、骨肉の花が咲いた。
全裸女性の群れに狼狽めいた感情の靄がかかる。
悲鳴、罵声、あるいはその両方があがるが、歳三達はそんなものにかかずらうことはなかった。
『シネィッ ヒートネット、
歳三が全裸女性・モンスターの群れの態勢を崩した所で、鉄衛がヒートネットを射出。まるで魚群を網で捕えるかの様に全裸女性・モンスター群を捕え…
『モクヒョウ センメツ! ヨウキュウブッシ ヲ カイシュウ シマショカ 』
鉄衛の言葉に歳三は頷く。
床に散らばるのは人肉…ではなく、ゴムらしき素材で出来た何かであった。全裸女性は血肉備える女性ではなく、妙な素材でできた精巧な人形だったのだ。ご丁寧に疑似体液のようなものまで備えている。
要するに等身大サイズの男性向けジョークグッズであった。
ただ見た目はともかくとして、その素材は通常つかわれているエラストマーではない。更に弾力があり、強靭で、また長い時間をかけて人体と融合同化する性質をもつ。人工皮膚、人工関節、人工骨材として非常に有用な素材といえる。他にも挙げればキリがないだろう。
ちなみにエラストマー(TPE)とは、Thermoplastic Elastomersの略で、 ゴムのように弾性をもつ柔らかい高分子の素材・材料を示す。シリコンより安く毒性がないため、余程特殊なものでなければ大抵はこれが使われている。
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「でもよう、こんなにアチアチにしていいのか?この肉…ゴム?なんか溶けちゃっているみたいだけど…」
歳三が言うと、鉄衛はモノアイを短く明滅させて言った。
『モノスゴク ネツニ ヨワイヨ タイナイデモ アットイウマニ トケテ ドウカ シマスネ 。 モンダイハナイノダ』
何がどう問題ないのか、なぜ問題ないのか。
歳三にはさっぱり分からなかった。
しかし、そこは素直な歳三。てっぺーがそういうならまあいいんだろう、と納得する。
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