秋葉原電気街口エムタワーダンジョン①
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本日の標語 "明日やろうは馬鹿野郎。やるなら今!"
●依頼掲示板●
依頼ID: 26541
依頼者: サンライズ電子部品製造
依頼内容: 乙級指定ダンジョンから金属製の素材の回収
報酬: 種類問わず1gあたり170,000円
期間:240時間
依頼ID: 26542
依頼者: ヤマト防具製造
依頼内容: 丁級指定"蒲田西口商店街ダンジョン(外環)"に出現する鼠型モンスターの死骸を最低5体
報酬: 1体あたり55,000円
期間:240時間
依頼ID: 26543
依頼者: ダンジョン探索者協会
依頼内容: 丁級指定"秋葉原電気街口エムタワーダンジョン"に出現するラブドール・モンスター、ジョーク・モンスターなどから採れる体片素材
報酬:100gあたり9,000円。
期間:240時間
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朝、歳三は寝タバコをしながら何とはなしにStermの依頼掲示板を眺めていた。ちなみに"本日の標語"は協会職員が考える日替わりのものだ。
ダンジョン探索者協会が所属探索者に配る端末、Stermは様々な機能を持つ。中でもメインともいえる機能はかなり大雑把だが、以下のものになる。
①通信機能:メッセージと通話機能を有し、テレビカメラ的な機能も備える。これは電波状況に左右されない
②データベースアクセス機能:マップやダンジョンやモンスターに関する様々な情報にアクセスする。
③生命反応感知機能:所有者の生命反応を感知する
④本人確認機能:指紋、光彩、声紋、平均基礎体温、平均心拍数、血圧、脈拍など様々な手段で複合的に認証を行う
⑤探索者コンテンツの閲覧
A:依頼掲示板へアクセスする。探索者はそこから任意の依頼を受ける。
B:ミニニュースへアクセスする。広報部が作成した探索者向けの小記事を閲覧する。エンタメ寄りだが役に立つ情報も含まれる。
C:広域通知機能を利用する。協会が探索者全体へ通知する「お知らせ」を受け取る。緊急性が高いものから低いもの、単なるお知らせのようなものまで、様々な情報が共有される。
「エムタワーダンジョンか…」
歳三はちょっとした学術的興味が沸き、エムタワーダンジョンについて調べてみた。
『"秋葉原電気街口エムタワーダンジョン"は、丁級指定のダンジョンで、元々は一棟の大きなアダルトショップ・ビルだった。そのため、ダンジョン内のモンスターは性的な外見のものが多く、探索者にとっては少々困惑する場面もあるかもしれない。
このダンジョンの特徴的な素材として、ゴム状の素材が挙げられる。これは医療現場などで重宝されており、特に耐久性や弾力性に優れているため、さまざまな用途に使用されている。また、ダンジョン内のモンスターからは特殊な体液を採取することができ、これは精力剤などの製造に利用されている。
丁級指定の中でも比較的低難度。ただし、内部には特殊なフェロモンが散布されており、性的欲求が刺激される場合がある。これは強いものではなく、抗うつ剤や、あるいはホルモン抑制剤などで十分に抑制できる』
エロはともかくとして、低難度という所に歳三は目をひかれた。
というのも歳三の右腕は本調子ではないが、しかしあんまり休んでいるともう働きたくなくなってしまいそうな気がするのだ。
歳三の脳裏に過日の飲み会のワンシーンが蘇る。
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『いやあ~…連休をもらったのはいいんですけれどねぇ、どうも持て余してしまいますなあ』
居酒屋『超都会』のカウンターで権太が言った。
言葉とは裏腹に連休自体は嬉しい様子であった。
『なにせ4連休ですからね、まあちょっと私も働きすぎだってことでね。ふふふ。調整だそうです』
歳三はなんとなく周囲へ目をむける。
視線の先には365連休じゃすまさなそうな風体の男たちが、俯きながら辛気臭い酒を飲んでおり、歳三は "あれが未来の俺か" などと鬱鬱しい気持ちでビールを飲みほした。
『休みもねぇ、あんまり長く続くとね。自転車を漕ぐのと同じで、体が仕事に慣れるのに時間がかかっちゃってねぇ。もう少し休もう、その気になればいつからだって仕事ができる…なぁんておもってるうちに、"働けないカラダ" になっちゃうんですよ。心の車輪を動かそうとしてもね、動かないんです。体がおも~い、頭がおも~い…そんな事になります』
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ごくり。
歳三は息をのんだ。
もしくは恐怖と不安の混合物を。
「ここ最近随分だらだらしているし、何となくもう少し休んでいたい気持ちも…ある!これはやべえんじゃねえのか…もうしばらく休んでいると、俺は探索なんかしたくなくなっちまって、只管部屋でマラを弄るしか能がない男になり果てちまうってことか?」
このまま社会不適合者になってたまるか、そんな思いで歳三はリハビリがてら秋葉原へ足を運ぶ事をきめた。丁級指定、更に難易度は低いという事なら、全力をふり絞らねばならないケースというのは考えづらいだろう。
それに歳三は全く腕を使えないわけでもなかった。
歳三はメモ帳を取り出し、ページを一枚破りとった。
それを左手の人差し指と親指でつまみ…
「ヴぁいッ!!」
ひらひら揺れる紙ぺらに右手刀を振る。
ぱらり、とまるでカッターで切ったかのように紙が両断された。
──手の切れ、良し
「少しは戻ったか。このコンディションなら丁級なら一人でもやってやれなくはねぇだろうが…」
だがこれでいてラビラビうさぎちゃんメンタルである所の歳三は、一人というのは少し寂しかったりもする。だから桜花征機に連絡をして鉄騎と鉄衛を連れていけないかと頼んでみたが…
『ああ、すみません。鉄騎ですがメンテナンス中でして。鉄衛のみならば大丈夫ですよ。それと鉄騎については先日の戦闘データを鑑みまして、再々度のバージョンアップを検討しています。鉄衛のほうまでいっぺんにやってしまうのは少々リソースが…』
結句、歳三は鉄衛と品川で待ち合わせし、そのまま山手戦で秋葉原へ。そこから二人で"秋葉原電気街口エムタワーダンジョン"、通称エロタワーへ挑む事になった。
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品川の桜花征機本社ビル前で待ち合わせする事になった歳三。
『ヒサシブリ マッタ?』
「今来たところだ…別に久しぶりじゃねえよな」
そんな事を言いながら、歳三と鉄衛は駅へ向かっていく。
歩きながら歳三は鼻をくんくん蠢かせる。
『ドウシタ ニオウカ?』
鉄衛が歳三に問う。
「ああ、夏の匂いがするぜ」
ふと見上げれば、空は晴れ渡り。
季節は初夏から本格的な夏本番へ移り変わろうとしていた。
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『ハロー、ダイブワールド!今日は秋葉原にきてまーす!』
JR秋葉原駅前、DETV所属のダイバー、ティアラがカメラに向かって手を振った。カメラマンも同じくダイバーだが、こちらはレベル60(丙級相当)の屈強な男性ダイバーだ。
ダンジョン内での万が一に備えてのボディガードを勤めている。
『今日は秋葉原の…大人のダンジョン!
輝く様な金髪が風に揺られ、乱れ、青いボディスーツにふりかかる。撮影に気付いた一般人、もしくは探索者が端末で写真や動画を撮っている。
──あ、ティアラじゃん!これから撮影なのかな?
──ボディスーツがエッロいなあ
──というかカメラマンがゴツすぎる。2mくらいあるんじゃないの?
──DETVか
『それはともかく!今日は新兵器にも注目してください!じゃじゃーん!』
ティアラが殺意の塊の様な銃を腰から抜いた。
米国のマグナムリサーチ社が製造した Desert Eagle .50 AE…の、ダンジョン時代に適応した後継モデルである。
黒くてデカくて強い、そんな印象を与える銃だった。
『すごいでしょう?この前やっと届いたんです!かっこいいよね~っ!これでちょっと頑張っちゃいますよッ!』
バレルを撫でる手付きがどこか淫靡であった。
このティアラというダイバーはこういったどこか媚びているというか、狙っているというか、細かい所作が蠱惑的だとして人気を集めている。
それでいて露骨にエロ路線へ行くのではなく、あくまでも快活爽やかガールめいた態度を取るのだ。それが一種にテクニックなのかどうかは定かではない。
だがティアラの様な異性から人気のダイバーは、同性からは逆に嫌悪される事も少なくない。しかしティアラの場合は、比較的同性からも人気であった。というのも、男に媚びているように見えなくもないが、探索自体はかなり骨太であるからだ。
彼女のアップロードしている動画の中で一番人気なのは、銃撃とキックボクシングを融合させたような格闘技で、犬の頭の二足歩行の怪物を殴り斃した動画である。
その動画内でティアラは白い頬を深く斬り裂かれ、というよりも全身を創傷塗れにしながら辛うじて勝利していた。ティアラはヤる時は徹底的にヤるダイバーなのだ。従って、そこまで配信頻度は多くはない。負傷により暫く配信できない事もよくある。
強い女というのは女性からは好かれ、男性からは引かれる事がままある。エロティックな女というのは男性からは好かれ、女性からは引かれる事がままある。ティアラは双方を兼ね備えている。ティアラが人気というのはそれなりに理屈が通る話でもあった。
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本更新部分に於いて、秋葉原電気街口エムタワーダンジョンは『大人のデパート エムズ 秋葉原店』とは何の関係もありません。すべてフィクションです。
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