日常22(飯島比呂、四宮真衣、鶴見翔子、四宮由衣)
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4人の男女がいた。
飯島比呂、四宮真衣、四宮由衣、鶴見翔子だ。
四人は比呂の家のだだっ広いリビングの、何処からどう見ても高級品でございという風情のソファに腰かけている。
時刻は午後を少し過ぎた頃だった。
馬鹿畳程の広大なリビングにも見劣りしない、馬鹿インチものテレビジョンに映像が映されていた。
4人は一本のアニメを観ているのだ。
──うーん、酷い!
四宮真衣に誘われて、彼女の姉の四宮由衣、鶴見翔子らと共に"お勧めのアニメ"を観た飯島比呂の。忌憚のない感想がそれであった。
舞台設定は現代日本、ダンジョンが世界中に出現。
主人公はそんな世界に生きる探索者…ついでに言えば前世が美少女のおじさん。
──そこまではいいんだけど
「荷物持ち以外できないから追放されるって滅茶苦茶じゃない?だって荷物持ちとして仲間に入れたわけでしょ?後からやっぱり役立たずだからってダンジョンの最下層に追放ってどういうことなんだよ。戦力外通告なら普通にすればいいのに。可哀そうすぎるよ。あとなんで前世美少女のおじさんなの?前世おじさんの美少女じゃないの?普通は」
比呂は不満そうに真衣に言った。
「可哀そうだけど…でも強奪スキル?…で、憑依とかするのかな。復讐していくみたいだよ。それにしても他人の体で復讐して満足出来るものなんだね。おめでたいなぁ。私はパパとママをどうにかした…かもしれない富士樹海ダンジョンには自分の体で挑みたいけれどね。もし甲級探索者の人と体を交換できるって言われても断るけどなぁ」
鶴見翔子が無感情な目でテレビを見ながら言った。
無感情な目というか、役立たずを見る目というか。
外面は真面目系眼鏡娘である所の翔子だが、念動というPSI能力の発現者は非常にどろりとしたものを根っこに抱えている場合が多い。
にわかにドロッとした翔子だが、その辺はもう慣れている比呂、真衣、由衣である。それにそのどろっとした感じはすぐに消え失せたというのもある。
翔子は宙に人差し指でくるくると円をいくつも描いた。すると林檎とナイフと皿が台所から飛んできて、一同の前でナイフが踊り、林檎の皮を剥く。探索を繰り返す事で翔子の念動力が磨かれているのだ。
「しょうもないでしょ?この作品はね、そういう無茶苦茶でしょうもない設定を小馬鹿にするみたいなコンセプトで作られたんだって。酷いけど私は好きだな!この酷さが良いと思わない?」
真衣が林檎を齧りながら言う。
そんな真衣を見て、そういえば、と比呂は思い出した。
「真衣はB級が好きだもんな。お勧めはなんだっけ、えっとほら、あの酷い映画…鮫の…」
「ああ、シャーイコ?連続殺人犯が遺伝子組み換えで小型化した鮫を女性に解き放って殺していく奴ね。うん、あれはお勧めだよ。酷い映画だけど面白かったでしょ?ね、お姉ちゃん?」
真衣の言葉に、姉である四宮由衣が苦笑を浮かべて頷く。真衣から頼まれて一緒に視聴した事を思い出したのだ。
これでいて真っ当な感性を持つ由衣には、真衣のお気に入りであるシャーイコは率直に言って俗に言う〇〇映画以外のなにものでもないのだが、妹の趣味に合わせてそんな映画を何本も観てきた。探索者としては暫くは丁級から抜け出せそうにない由衣だが、真衣はそんな姉を見下したりする事はない。
良いお姉ちゃんであるので。
そういえばさ、と真衣が語を継いだ。
「このアニメだとダンジョンって急に出来る感じじゃん?」
真衣の言葉に比呂達は頷いた。
「じゃあ実際はどうなの?」
実際って?と聞くまでもなかった。
──確かに、そうだ。実際はどうなんだろう。モンスターはどこから来たんだろう
場に暫時の沈黙が流れる。
誰も答えを返す事が出来なかった。
アニメではダンジョン顕現に巻き込まれたマンションの住人が、その心の奥底に秘めた願望を刺激され、その姿を異形へと変えていくシーンが流れていた。
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「うーん!色々突っ込みどころが多すぎたけど、ま、悪くないんじゃない?おじさんのセリフの時、副音声で女の子の声が聞こえてくるのはしょーもなくて笑った。こだわるとこそこなの?気に入っちゃった!絶対打ち切りだろうけどね。だっておっさんが主人公なのはいいよ。こういうものを観るのはおじさんが多そうだからね。でも前世が美少女じゃそのおじさんも感情移入できなさそうだしね。それでもおじさん主人公が男らしくてかっこいい人ならいいけどさ、寄生虫みたいな能力で復讐していくわけでしょ?そんな陰湿なの、絶対にウケないって!終了だね!おわです!オワオワだよ!」
真衣がやけに元気良さそうに言い放った。
四宮真衣という女はB級映画が大好きだ。だが、名作映画を観ないわけではない。毎年珠玉の恋愛映画を公開する"ラブリスタジオ"の映画などは大好きだったりする。それはそれとして、B級からしか摂取できない成分もあると彼女は考えている。
男らしくてかっこいいおじさんか、と比呂は思った。
彼には1人心当たりがあった。
しかし比呂は、"佐古さんみたいなおじさんは?" と聞く事は出来なかった。いや、聞きたくなかった。
あの日あの時、あの場所で輝いた月の美しさ。
それは自分一人だけが知っていればいい…と思ったからだ。
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