富士山 オッサン ロードバイク

入江九夜鳥

0.準備編 

0-0. 思い立ってしまったのでフジイチ


 ・


 そうだ、富士山に行こう。


 そう思ったのは5月も初旬のことだった。

 それよりも少し前に、店長からこんなことを訊かれたのである。


「五月後半のシフトなんだけど……夏休み、いる?」

「……五月に夏休み!?」

 

 おりしも世間はGW真っ最中のこと。

 私はカレンダー通りに休めない接客業である。土日祝日だからといってもお店は営業するので、上手くシフトを調整して各スタッフが順ぐりに休みを取るのが当たり前なのだが、今回私は諸々の都合で、五月の半ば急遽五連休をもらえることになってしまった。

 なんてことはない夏の休暇の前倒し取得な訳だが、突如降って湧いた休暇にその予定をどうしようかと考えるには私は疲弊し過ぎていた。

 繰り返すが、世間一般はGW真っ最中。あまりの忙しさに休暇の予定を考える余裕などなかったのだ。

 GWが終わりようやく一息ついた頃には、夏の休暇は一週間後に迫っていた。

 さてこの休暇をどう過ごすべきか。

 実家に帰るか、それとも旅行に行くか。

 旅行とするならどこに行くか。

 結婚もしておらず彼女も居ない独り身のしがないオッサンである。

 行き当たりばったりの電車旅もいいな……そんなことを思いつつGoogleマップを眺めていたら、ふと、富士山が目についた。


 富士山。


 過去に二度、私は富士山周辺をオートバイで走っている。

 圧倒的な存在感。美しすぎるその威容。

 二度の富士山ツーリングはほんの半日だけの滞在だったので、勿論楽しかったのだけどなんというか、存分に富士山を楽しみつくしたとは言えないものがあった。

 そしてその時から思っていたことがあった。


 富士山をロードバイクで走ったら、絶対地獄のように楽しいに違いない……!

 

 ロードバイクで富士山を一周する。

 いわゆる「フジイチ」と言う奴である。


 これだ! 

 私の脳内に豆電球がピコンと閃く。

 こうして私の急遽降って湧いた夏休みの予定は、唐突な思いつきによって決定した。

 なお、この半年ほどロードバイクにはあまり乗っていない、完全なトレーニング不足であることをここに告白しておく。


 

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