第29話
この世界は常に不条理と背中合わせ。
今日も唐突に理不尽接近の報が届く。
しかし、天災級の襲撃は話が違う。
言わば不治の病。余命宣告を受けたようなものだ。
前回の襲撃から凡そ三か月。ファーニバルから受けた傷が癒えたのか。
「リョーマ! 出動命令だ!」
「わかったっす!」
「クソッ! あの野郎、尻尾巻いて逃げたクセに、学習能力はないのかよ」
と、悪態を吐くロイに続き、竜馬は格納施設へと足早に向かう。
「ロイさん、場所はどこっすか?」
「メザン渓谷だ。前回同様、迎え撃つ形になると思うが、詳しい作戦はヴァルカンドに訊いてくれ。今回はオレも一緒にいく。アリウス様に戦況を伝える伝令を連れてな」
「了解っす! あれっ?
「ああ、奥で整備してたの。今、運ばせるわ」
と、答えたのは各ウィスタの出撃準備を整えていたティニアだ。
「お、今日は目を回してないんだな」
ニヤリと、ロイが意地の悪そうな笑みを浮かべる。
ティニアは反射的にムッとするが、すぐに平静を取り戻す。そのまま無視を決め込みなんでもない振りを装うが、一瞬の隙を逃さず無言でローキックを見舞うのだった。
「この非常事態時に下んないこと言ってんじゃないわよ」
至極尤もな台詞を耳に、竜馬や魔導師たちが慌ただしく出撃準備を整えていると、現在休養中だった筈のミスカが現れる。
「ミスカ!」
「ごめん、心配掛けたみたいだね」
「もう大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫」
そう答える彼女の血色はすっかり良くなっている。疲労によって倒れただけとはいえ、やはり言葉だけでなく元気な姿を見せてくれるのは安心する。
「仮に大丈夫じゃなくても、寝てるわけにはいかないからね。この日のために新しい魔法を覚えたんだし」
彼女はウィスタに乗り込もうとするヴァルカンドに向き直ると、彼を呼び止めた。
「ヴァルカンドさん!」
「ミスカか、体調はもういいのか?」
「はい、大丈夫です。というか、おちおち寝てられないですよね」
「確かにな。寝床がなくなるかどうかの瀬戸際だしな」
「少し、お話があります」
「その口振りだと、この戦いのことでか?」
「はい、新しく覚えた魔法の件です」
と、切り出した彼女の話はこうだ。
新魔法の威力は絶大だが、準備に少々時間が掛かる。
また
確かに炎弾は着弾時、煙が発生し対象を見失いがち。それで一発こっきりの必殺魔法を外すのは目も当てられない、というわけだ。
「わかった。元より炎弾の効果は薄いからな。今回はミスカの魔法に賭けてみようではないか」
大枠の作戦が決まり、各自ウィスタに乗り込む。
竜馬も新しい武器を手に、皆と共に決戦の地へ移動した。
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