第26話
アリウスの執務室にて、テーブルを挟んで顔を突き合わせるのは三人。
部屋の主たるアリウスと、ロイ、そしてティニアだ。
「ロイ、先の討伐には
「はい。と言っても、オレが現場に到着した時には既にリョーマが始末した後でしたがね」
「で、君の目にはどう映った?
「耐久性については持ち帰ったモノを直接ご確認頂いたと思うので割愛して、
「そうか。リョーマの思い付きから作ってみたが思わぬ収穫だったな」
「オレもそう思います。ホント、リョーマが異世界人って話も信憑性が高まりましたね。あの発想力、というか着眼点はオレたちとは全く違う。
「ああ、らしいな。で、どうだったのだ? その時の様子を訊かせてくれ」
その話題にはアリウスも一層興味があるのか、身を乗り出している。
「ちょっとよろしいでしょうか。先にご報告したい件がございます」
そこに話の腰を折るように、急に話に割り込んできたのはティニアだ。
少し機嫌が傾いているのは何故だろう。その雰囲気に只ならぬものを感じたアリウスは、先に済ませた方が懸命と考えたのだろう、促す。
「う、うむ。わかった。ティニアの話から訊こう」
「はい、ではご報告させて頂きます。リョーマが魔法無しでウィスタを動かす原理について、
「ああ、覚えている。何故そんなことが可能なのかはさておき、それで自分の肉体の如く手足を操っているのだろう?」
「はい。で、今回の続報ですが、どうやらリョーマはその張り巡らせた
「筋肉化だと?」
「はい。それを今から説明させて頂きます。ロイ、手伝って貰えるかしら?」
アリウスの疑問にティニアは席を立ち、次いでロイに協力を求めた。
一瞬、ロイはキョトンとしていたが、ティニアの有無を言わさぬ眼力の圧に負け、指名された意味が分からぬままソファの裏に回った彼女と向かい合わせで立たされる。
何をしようというのか。そんなアリウスとロイの疑問の眼差しを受けながら小さく深呼吸をすると、彼女は突然右掌をロイの左頬を張り飛ばした。
渾身の一撃だったのだろう。「パンッ!」と小気味良い音色が執務室に響き、アリウスは予期せぬ出来事に言葉を失う。
「痛ってぇ! 何すんだっ!」
痛む頬を押さえ、抗議の声を上げるロイ。しかしティニアは怯むことなく、逆に食って掛かる始末だった。
「あんた、アリウス様や私抜きで勝手に空飛ばしてんじゃないわよ!」
「リョーマがやるって言い出したんだよ! それにちゃんと報告してんだから問題ないだろ!」
「問題なかったのは結果論でしょう! もしファーニバルが壊れてたらどうすんの! あんた責任とれるの!?」
「危ないと思ったらすぐ止めるようには伝えてた。壊れるまではやらせなかったさ!」
「ああ、もう! 私だって立ち合いたかったのにぃ!」
鼻先がくっ付きそうな距離で睨み合う二人に気圧され、口を挟めずにいたアリウスが咳払いを一つ挟み、ここで漸く口を開く。
「……お、お前たち、場所を弁えよ」
誰の前で騒いでいるのか思い出したのだろう。我を取り戻した二人は、すぐに向き直り頭を下げる。
「お見苦しいところをお見せしました、すみません……」
「で、報告の続きはどうなっている?」
ティニアは「は」と姿勢を正すと、先程ロイの頬を叩いた右掌を掲げた。
「かなりの力を込めましたが、私の右手は無事です。同様にロイの首も勢いよく捩れましたが、怪我はしていません。これは手首周りの筋肉、首周りの筋肉で衝撃を吸収したためです」
「ほう、
「報告にあった、先の
「そうか、ファーニバルが規格外の怪力を発揮しているのも、
アリウスとロイは、ティニアの解析結果になるほどと頷き、感心する。被検体が協力的とはいえ、前例のない現象を解明したのだ。
アリウスの顔が自然と綻ぶ。
手詰まりになりかけていたウィスタ技術に、新たな道が開けるかも知れないのだ。このロザリアムを取り纏める者として、そしてウィスタの開発者として、これほど喜ばしいことはない。
「恐らくこれはリョーマ固有の能力、あるいは異世界人特有の力だろう。だが、このまま研究を続ければ、我々にも使える技術として落とし込めるかも知れん。そのためにも今後リョーマがこのロザリアムから離れぬよう、扱いだけは注意せねばなるまい」
「では待遇を改めますか?」
ロイの提案に、アリウスは「否」と即答する。
「急に扱いを変えれば今の関係性が崩れ兼ねん。リョーマもウィスタに乗れることを望んでいるしな。二人共、出来る限り今まで通り接するよう心掛けよ。良いな」
と、念を押すことを忘れず付け加える。
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