*⋆꒰ঌ┈ Epilogue ┈໒꒱⋆*
「私とクロの物語は、これで終わりだ。」
私は、鴉と鳶の顔を交互に見て物語を終えた。
ふたりは、物語の余韻に浸っているのか、まったく声を発しない。
「あるんだな……。」
鴉は沈黙を破り、私に頭を下げた。
「運命ってあるんだな。疑って悪かったよ。」
「気にするな。謝ることじゃないさ。」
「いや、違うんだ。オレは本当に疑っていたんだ。そんなもの、あるはずがないってな。」
鴉の眼差しは、今までとはまったく違っていた。私の物語が、彼にどんな変化をもたらしたのか、私はそれをしっかり受け止めようと考え、鴉の目を見つめた。鳶も鴉を見ている。鴉は、思いがけない仲間たちからの注目に驚き、照れくさそうに笑った。
「鳶ほどいい台詞が言えるかどうか分からないけどな。まあ、聞いてくれ。恥ずかしい話だが、『運命』は木や水のように目の前に現れる『モノ』だと思っていたんだ。だから、あんたから誘われたときは『どんなモノか見てやろう』と思っていたんだ。それが、『思い出話』だろ? あのときは驚いたよ。」
鴉は空を仰いだ。その目には、力がみなぎっていた。
「だけどな、最後まで聞いてわかったんだ。あんたとクロが出会ったのは、偶然じゃなかった。生まれも育ちも違うが、あんたたちはふたりでひとりなんだと思う。そして、それ自体が『運命』なんだなって、やっと分かったんだ。知らなかった世界を、たくさん見せてもらったよ。ありがとうな。」
「ボクも分かったよ。」
鴉が言い終わると同時に、鳶が口を開いた。
「健太さん、ボクたちが出会ったのも運命なんだって言いたいんだよね。」
私は無邪気な鳶にうなずいて肯定を見せた。
「君は、時々ドキッとする言葉を言うね。とてもいい感性をしている。その感性を大事にするんだよ。」
私の言葉に、鳶は身をよじっている。
「鳶の言う通りだ。確かに、『運命』はモノではない。だから、見たり触れたりできない。でも私たちには、それをしっかり感じ取れる力を持っている。『運命』の正体は、心で感じ取った『それ』なのだ。」
私は、ふたりの心に届くように願いを込めて語り続けた。
「クロと出会い、私が猫であるという事実を知り、それが現実で真実と受け入れたから、ユズ、キング、レディたちに出会った。そして出会ったからこそ、今こうして君たちとこのときを過ごしている。」
私は、ふたりの顔を、ふたりの瞳を私のすべてに刻み込むように見つめた。
「私は、とても幸せな猫生を歩んでいると思う。たくさんの友と、大切な家族に出会えた自分の猫生に満足している。すべては『運命』という名の列車で起こったできごとなのだ。列車がレールによって導かれるように、私たちも『運命のレール』によって導かれているのだろう。しかし大切なのは、自分に与えられた『命』を、喜びも悲しみもつらさも、与えられたすべてを精一杯『生きる』ことなのだ。それを決して忘れてはいけない。」
鴉と鳶は、私の言葉が理解できないのか、首を傾げて考えている。
「精一杯『生きる』?」
「『命』が大事なのは知ってるぜ。」
私は、まだ若い彼らの、真剣に考える顔を愛しく思った。
「私は、『命』と『生きること』の間には、とても深い繋がりがあると考えている。もちろん、命がなければ何もできないのだが、命があるだけでは足りない。命は、心の充足感があって初めて輝くのだ。自分が自分らしく生きることのできる場所を見つけることも、その一つだ。
私の場合家族とともに『生きること』が私の『命』そのものであるように。クロも、自分にとってのそれを見つけたのだろう。
私たちは、自分の生きる場所を見つけるために、自分の命を見つけるために走り続けるのだ。泣いて、怒って、遠回りかもしれないけれど、私はそれでいいと思っている。
ただ、決して妥協はしないことだ。どこかで自分の道に妥協をしてしまったり諦めてしまったら、いつでも『列車』は目的地を変更してしまう。すべてを受け入れることができれば、必ず、光あふれる場所へ行けるのだ。そして旅の途中で出会った仲間は、たった一つの駅だけであっても、大切にしなさい。そうすれば、次の出会いが必ずやってくる。そのためにも、『命』を一生懸命『生き』なさい。」
話し終えてもなお、大空を舞う私のふたりの友は、私を見つめていた。
「おう。」
鴉は私と鳶から目を離し、つぶやいた。
「なってもいいぞ。」
おそらく、鳶に言っているのだろう。私は、口を挟まず見守った。
「なってもいいが、メシはやらん。」
鳶の顔が喜びに満ちた。
「本当? なってくれるの? 友だちになってくれるの?」
鴉はそっぽを向いたまま、鳶の質問には答えなかった。
じゃれ合っているふたりに、私は、かつての私とクロを重ねた。
「数年前の今日、私はここでクロと出逢ったのだ。」
つぶやきは、夕暮れの風にかき消された。
私は、あの夏の日々を懐かしく思いながら、クロとの『思い出の日記』を静かに閉じた。
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