*⋆꒰ঌ┈ 7月26日:決心 ┈໒꒱⋆*

 いつの間にか、クロと話す朝の時間が、僕の一番のお気に入りの時間となっていた。

 窓の前を横切るスズメたちなんて、もうどうでもよかった。スズメをながめるより、すぐにでもクロと話したい。


「今日は、特別な話をするんだ。」


 僕は、決めていた。



 ガサガサと、葉っぱのすり合う音がした。


「クロ、おはよう。」


 クロが草むらから顔を出したところで、僕は声をかけた。


「おっ。」


 クロは少し驚いたように短い返事をしただけだった。

 いつも通り窓の下までやって来て腰をおろし、くっと首を持ち上げて僕の目を見る。

 クロの目は、心を射抜く目……。


「何か言いたそうだな。」


 やはり、僕の心は見抜かれていた。


「うん、そうなんだけど……。」


 決心はしたものの、僕はまだためらっていた。


「どうした。」


 クロの声は優しかった。初めて会ったときと、全く違っていた。


 この数日の間に、僕とクロは友だちになった。クロは、僕を友と認めてくれた。


 それなのにこんなことを言ったら、クロは傷ついてしまうのではないだろうか。裏切ることになるのではないだろうか。


「おい、どうした? なにかあったのか?」


 ドキリとした。クロがボクを心配している……。


 僕は、クロの言葉を聞いてためらいを捨てた。


「あのね、クロ。」


 僕は、クロの目をじっと見て話し始めた。


「僕、やっぱり気になるし、諦められない。僕にとってクロはとても大切な存在だし、クロが傷ついているなら、何とか助けたいと思う。だから、改めて君にたずねるよ。」


 クロの金色の目が、動揺の色を見せた。


「どうして、そんなに人間が憎いの? 僕はどうしても、その理由が知りたい。」


 僕はまっすぐな気持ちで、クロにはっきりと言った。

 クロの目は、動揺から悲しみへと変わった。


「どうしても、知りたいのか?」


 僕は、クロの問いかけには答えず、ただクロをまっすぐに見つめていた。


「そうか、わかった。」


 短い返事の後、クロはゆっくり立ち上がり、肩を落として帰って行った。



*⋆꒰ঌ┈┈┈┈┈┈┈┈┈໒꒱⋆*



「覚悟の上だった。」


 私は、あのときの気持ちを思い出し、二人に語った。


「クロの話を聞けば、おそらく私は、胸を痛めるだろう。クロの話を嘘だと疑いたくなるだろう。それでも、クロの話を聞きたかったんだ。理解し、分かち合いたかった。」


 ふたりは、私をじっと見つめていた。


「健太さんは、人間を信じ、愛しているんですね。」


「オレには分からん。人間は、オレたちカラスのことを、『邪魔だ、気持ち悪い、縁起が悪い、汚らわしい』とか言って追い払う。オレたちだって必死で生きてるんだ。それなのに、畑を荒らすとか言って、オレたちに石を投げるヤツまでいる。オレたちが人間の世界を荒らしたんじゃない。人間が、オレたちの世界に勝手に入って荒らしているんじゃないか。」


 鴉が吐き捨てるように言った。


「まさに、」


 私は、うつむいて足元を見た。


「鴉くん。クロの心も、今の君のように傷ついていたんだよ。私は、それまでまったく知らなかった人間の世界を、たくさん知ることになったんだ。」


 私は、遠くに見える海を眺めながら、ふたりに続きを語った。

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