*⋆꒰ঌ┈ Prologue ┈໒꒱⋆*

 はたして運命というものは、本当にこの世に存在するのだろうか……。


 私はときおり、自分に問いかけるのだ。


 中年と呼ばれるこの歳になっても、その答えは見つかっていないのだけど、心のどこかで運命の存在というものを信じている。


 今日、私は、最近知り合った若い友をここに呼んでいる。彼は運命など存在しないと言っているのだが、そんな彼に聞いてもらいたい物語があるのだ。


 それは、運命を証明する『物』ではないが、きっと彼の心に小さな種をまいてくれるだろうと、私は思っている。



 家族が出かけ、この家にいるのは私ひとりとなった。


 そろそろ、彼が来る。


 私は、心の準備をして彼の到着を待った。



「よく来たね。」


 約束通りの時間に、その男はやって来た。


「話って、なんだい?」


 私は、いつもの場所に腰かけると、彼にも楽にするようにうながした。


「運命を見せてくれるんだろう?」


 やはり、彼は私が『運命という物』を見せ、その存在を証明するものだと考えていたようだ。


「今日は、思い出話をしようと思ってね。」


「思い出話?」


「ああ。」


 私は、じらすように視線を遠くへ移し、彼の好奇心をくすぐった。思った通り、彼はじれったそうに身体をもぞもぞと動かしている。


「君は、運命に疑いを持っているだろう? 私の話は、運命の証明にはならないかもしれないが、きっと、君の心に小さな種をまいてくれると信じているよ。」


 私は、友の目を見つめた。


「どうだい? 聞いてみないか?」


 彼は、首をかしげながら少し考え、まいったな……、とつぶやいた。どうやら、私のじらし作戦が成功したらしい。


「分かった。あんたを信じるよ。」


 私を信じてくれたことが本当に嬉しくなり、私は彼に喜びと安心の笑顔を向けた。


「私にも、若かりし頃があってね、あのころは井の中のかわずなんとやら、世間知らずの『おぼっちゃん』だった。これから話すのは、そんな私が経験した、『真夏の奇妙な一か月間の物語』だ。」

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