第50話【ミラージュの依頼】

怪しく微笑むミラージュが煙管の煙を天井に向かって吹き捨てる。赤い口紅。赤いドレス。そのドレスのスリットから覗くムチムチの太腿が色っぽい。胸の谷間も誘惑的だった。大人の女性が醸し出すお色気が満ち溢れている。無断で頬擦りしたいほどである。


これですべてが幻惑の魔法が作り出した幻影だと言うのだから勿体無い。ミラージュの正体はホネホネのアンデッドらしい。


そんなお色気満点の美女を眺めながら俺は真剣な表情で問う。


「それで、あんたから依頼ってなんだよ?」


俺に問われてミラージュが長い煙管の先で商品棚を指した。


「そこに大きな真珠があるじゃろう」


確かに商品棚の上にいくつかのマジックアイテムが並んでおり、その中に大きな真珠が三つあった。その真珠はピンポン玉より少し小さなサイズで真珠にしては有り得ない大きさだった。だが、その質感は確かに真珠のそれである。


「この大きな真珠がなんだよ?」


俺は棚の上から大きな真珠をひとつ摘み上げると顔に近づける。匂いを嗅いだが無臭だった。真珠だから生臭いのかなって思ったけれど、その辺の処理はちゃんとしているようだ。それで臭いからア◯ルに押し込んで使うタイプでないことも分かる。少し安心できた。


「それはスキルパールって言うアイテムじゃよ。お主は知っておるか?」


「スキルパールってスキルが封印されているマジックアイテムじゃあねえか。これを武器や防具に仕込むと、封印されているスキルが使えるって代物だろ」


「そう、それじゃ」


今簡単に述べたが、スキルパールはレアアイテムだ。ダンジョンでもなかなか発掘されない代物である。


この世界には【魔法石】【魔石】【技術真珠】などの数種類の魔法の石や宝石が存在している。それらは効力や使い方によって呼び方が異なる。


魔法石はそれらを装備しているだけで持ち主のステータスを永続的に上昇させる。アビゲイルが装備している強度強化魔法石や筋力強化魔法石がそれらだ。


魔石はポーションの材料に成ったり、魔石の中に封印された魔法を使うと砕けてしまう一度っきりのアイテムだ。


技術真珠はユニークスキルが封印されている宝石である。ユニークスキルとは人間ならば100人に1人程度で授かるランダムスキルなのだ。モンスターの場合は稀に現れるボスモンスターが有している。故に効果は様々。永続的だったり、1日に1回などの回数制限があったりといろいろだ。


更にスキルの能力も様々な強スキルから弱小スキルと様々である。空が飛べる、ビームが出せる、怪力無双に成れるもあれば、風がどちらから吹いているか正確に分かる、金塊の重さが正確に分かる、遠くが見える、声が人より大きい、足が異常に臭い、などと微妙なユニークスキルも少なくない。


このスキルパールとは、そんなユニークスキルが封印されているのだ。


「でもね、そのスキルパールは空なのよ」


「から?」


空のスキルパールなんて聞いたことがない。スキルパールとは何らかのスキルが封印されているからこそスキルパールなのだ。もしも本当にこのスキルパールが空ならば、製作途中のスキルパールと言うことになる。そもそもスキルパールの制作法は古代の技術のために失われている。なのでこれが空ならば空でレアアイテムかも知れない。


ミラージュが煙管の煙を吐いてから述べた。


「空のスキルパールは、それを持った者がユニークスキルの持ち主を討伐したのならば、空のスキルパールにそやつのユニークスキルが封印されて使えるようになる。そう言う仕組みじゃ」


「へぇ〜……」


俺は空のスキルパールをひとつ摘むと眼前に近づけ手覗き込む。それは、自分の眼球と同じサイズではないかと思えた。


「それで、このスキルパールがどうしたって言うんだ?」


「お主に空のスキルパールをひとつ預けるから何かユニークスキルをゲットしてきてもらいたいのじゃ」


「ほほう?」


ユニークスキルのゲットだと。これは面白そうな展開になって来たじゃあねえか。


俺はミラージュの豊満な胸の谷間をガン見しながら自信有りげな表情で述べた。


「それで、その依頼を俺が受けてなんの特がある?」


駆け引きスタート。


そうなのだ。これはミラージュから俺に向けられた依頼なのだ。依頼ならば報酬があって当然だ。


「もちろん依頼料は支払うぞ」


「本当か?」


「そこに3つのスキルパールがあるだろう。その内の1つを持っていってユニークスキルをゲットしてまえれ。もしもユニークスキルをゲットしてきたのならば、残りふたつの空真珠をくれてやろうぞ」


「マジか!?」


「ただし、今回持っていける空真珠は1つだけじゃ。それにユニークスキルを封印してきたら、残りの2つをくれてやる」


「なるほど……」


空真珠を3つ持っていって、それから3つにユニークスキルを封印してから、一番使えないスキルを封印したスキルパールだけを返却しようと思ったが、そんな姑息な作戦は通用しないのね。


糞、やっぱりこの魔女はガメついな。ずる賢さだけは備えてやがる。


俺は空真珠を1つ取る。


「それで、この空真珠にユニークスキルを封印するには、どうやればいいのだ。討伐するって言っても勝利条件がいろいろありすぎるだろ」


「簡単じゃ。空真珠を持っている者がユニークスキルを有している者を殺せばいいのじゃよ」


「殺害が獲得条件か。物騒な獲得方法だな」


「お主が人殺しが出来ないのなら、ボスモンスターを討伐すれば良い」


見透かされた。俺が人殺し未経験者なことを……。


「ならば、宛がある」


ジャイアントレイクロブスタークイーンだ。


今回参加するクエストでボスモンスターのジャイアントレイクロブスタークイーンが出てきてくれればユニークスキルを封印出来るチャンスが出来る。それが人殺しに走らなくてもユニークスキルをゲットできるチャンスだろう。


しかもこれで今回ジャイアントレイクロブスタークイーンが出現するだけのフラグが完璧に立っただろうさ。間違い無くジャイアントレイクロブスタークイーンが出現するぞ。


更にミラージュがアドバイスをくれた。


「お主の場合はゴーレムマスターだから、アビゲイルがユニークスキル持ちを討伐しても空真珠にスキルを封印出来るはずじゃ」


「え、そうなの」


「ゴーレムとはゴーレムマスターから見て武器なんじゃろ。ならば当然のことじゃわい」


「スピリットリンクの法則だな」


スピリットリンクとはゴーレムマスターやネクロマンサーなど、召喚師系のマジックユーザーが召喚しているモンスターで敵を倒すと獲得できる経験値である。召喚モンスターが倒した経験値の数パーセントをマスターが獲得できるのだ。


更にミラージュのアドバイスが続く。


「それとスキルパールはゴーレムマスターにとって有効的なマジックアイテムじゃぞ」


「なんでだよ?」


「ゴーレムは武器。武器にスキルパールを装着させてスキルを発動させれば、ゴーレムだけでなく、武器を使っているマスターにも効力が発動する場合もあるらしい。特にステータス強化系のスキルがそれらにあたいするらしいぞ」


「マジか!」


「マジじゃ」


「なんでお前がそんなことを知っているんだよ?」


「長生きだけが取柄だからのぉ」


「長生き侮れんな……」


「まあ、昔の話だが、お前さんの師であるセダンから聞いたのじゃ」


「ミラージュ、テメー、あいつと知り合いなのか!?」


「セダンもこの店の常連客じゃわい」


「な、なるほど、納得……」


確かに師セダンはゴーレムマスターとしは超一流だ。天童の俺ですら遠く及ばないゴーレムマスターなのだ。だからこの店の常連客だとしても不思議ではないだろう。納得できる。


すると周りの景色が歪み始めた。商品棚が歪み、眼前のミラージュも歪み始める。


「とにかく空真珠にユニークスキルを封印してまえれ。その能力しだいで空真珠を1つが2つくれてやる」


「2つくれるんじゃあないんかい!」


「それはお主の努力次第じゃのお〜」


刹那、視界が眩しく濁る。そして、俺の周囲に商店街の雑踏が復活した。するとミゼラちゃんが慌てた感じで話しかけて来る。


「アトラス先生、どこに行ってたんですか、探しましたよ!」


「ああ、済まん。ちょっと知人と会っていた」


周りを見回せば俺は人混みの中に立っていた。俺の後ろには済まし顔のアビゲイルが立っている。その頭の上で酔っぱらった妖精が大の字で酔い潰れていた。小さなメイド服が乱れてスカートの裾からパンツがチラ見している。


「よし、アンジュも回収できたから今日は帰るぞ。俺たちも祭りの準備だ」


「はい、アトラス先生!」


こうして俺たちは屋敷に一旦帰宅したのである。



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