第48話【説明会・後編】

ドリトルが巨大ザリガニの絵が貼られたボードの前で姿勢を正しながら述べる。


「冗談はこの辺にして真面目に話すぞ、若造ども~。ちゃんと聴いてないと全裸にひん剥いて市中引き回しの刑だからなぁ〜」


「態度が大きいな……」


これで時期冒険者ギルドのマスターを狙っているのだから太い根性である。絶対人に慕われるような職務には着けない人種だろう。


「とりあえず、今日話す内容は、ジャイアントレイクロブスター祭りの流れと、ジャイアントレイクロブスターの討伐法についての話だ。耳をかっぽじって聴けよ~」


「うぜぇ~」


俺は本音を呟きながら鼻の穴をほじって見せる。そんな俺の態度を無視してドリトルが説明を続けた。


「まず、今回ギルドメンバー総出で出向くクリスタルレイクとは町の南側にある大きな湖だ。そのぐらいは知ってるよな」


何人かが頷いていた。俺もクリスタルレイクは知っている。この辺でも美しい水辺で魚も取れる場所だ。だが、巨大ザリガニのモンスターが生息している地でも有名な場所でもある。


「今回の参加者は80人程度。うち50人ぐらいが戦闘可能な冒険者で30人が調理師や人足の非戦闘員だ。おそらく人数はもう少し増えて100人ぐらいになると思われる」


結構な人数で行われる討伐作戦なんだな。流石は年に一度の祭りではある。


そして角刈りを整えながらドリトルが説明を続ける。


「毎年クリスタルレイクにはジャイアントレイクロブスターが大量発生するんだが、我々はこの祭りでジャイアントレイクロブスターの8割を狩りたいのだ。そのぐらい狩らないと、漁師の安全や漁で取られる魚の数が減ってしまうらしいのだよ。それに、そのぐらい狩らないと次の年に更に溢れて大量繁殖してしまう」


すると虎柄娘がニャーっと手を上げた。


「何かね、タイガーキャットちゃん?」


「ジャイアントレイクロブスターは何体ぐらい狩るのだニャー?」


「3日間で200体ぐらい狩りたい」


「200体も狩るのかよ!」


「まあ、そのぐらいウジャウジャ居るからな」


「それは殺しがいがあるニャー」


「この猫娘は呑気な戦闘狂か……」


俺が独り言を呟きながらミゼラちゃんのほうをチラ観したら彼女も熱い視線でワクワクしていた。


「こっちにも戦闘狂が居たわ……」


そんな血気盛んな女の子たちを無視してドリトルの話が続く。


「ジャイアントレイクロブスターは夜行性だ。昼間は湖の中で静かに潜んでおり、夜になると上陸してきて闊歩するんだ」


あー、知ってる。うちの田舎でも夜になると池や田んぼからザリガニが上がってきて路上を徘徊していたもんな。初めて見たときは、夜のザリガニが路上に沢山闊歩していて目茶苦茶驚いたものである。田舎あるあるだ。


更にドリトルの説明が続く。


「討伐時間帯は深夜。人員は半分に別けて湖を右と左から挟み込むように回り込む。そこで目についたジャイアントレイクロブスターを一匹一匹大勢でタコ殴りにしていくっていう安全な作戦を取る。それで3日間で3回ほど湖を回るわけだ」


ラインハルトが手を上げて問うた。


「その3周だけでジャイアントレイクロブスターを8割も狩れるんですか?」


「毎年の経験からして、狩れるはずだ。だいたい3日目の3周目にはほとんど戦闘は少なくなっているからな。だから戦闘が激しいのは初日の一周目だけだ」


なるほど。要するに初日を乗り越えれば危険が少なくなるって訳だな。


「それでだ。夜は討伐で、昼間はジャイアントレイクロブスターの死体回収作業に変わる。何せジャイアントレイクロブスターは貴重な食材に成るからな。茹でれば海老のような味がするし、干せば乾物として保存食にも成る。しかも一匹一匹が巨大だから取れる肉の量も多いんだ。難点は全身海老臭くなるのが欠点なだけだ」


それでコックや人足の非戦闘員が何人も付いてくるわけだ。確かに戦闘と解体作業の両方を冒険者だけでやるのは億劫である。


ここまで話してドリトルの表情が緊張感で引き締まる。


「それでだ、この祭りにはひとつ問題があるんだ」


「「「問題?」」」


「この祭には、数年に一度だけボスモンスターが湧くのだよ」


「「「ボスモンスター!?」」」


良い響きの言葉である。ボスモンスターとは戦闘狂でなくてもロマンを感じる言葉なのだ。冒険者には堪らない。


そして、ドリトルが人差し指を立てながら意味ありげに言う。


「ジャイアントレイクロブスターのボスと言ったらジャイアントレイクロブスタークィーンだ」


ジャイアントレイクロブスタークィーン。その名もモンスター図鑑に載っていた。ジャイアントレイクロブスターを更に巨大化させた超大型ザリガニだ。体長7から8メートルあるらしい。普通のジャイアントレイクロブスターの3倍から4倍の体長である。


しかもジャイアントレイクロブスタークィーンの厄介なところは体長を生かしたパワーだけでなく、ボスモンスターらしくユニークスキルを有しているところだ。しかも、そのユニークスキルがランダムだ。個体によって持っているユニークスキルがぜんぜん異なるのだ。


最近では、3年前にジャイアントレイクロブスタークィーンが出現したらしいのだが、その時のジャイアントレイクロブスタークィーンはハサミからレーザービームを放ったとか。更に6年前にジャイアントレイクロブスタークィーンが出現した時には、そのジャイアントレイクロブスタークィーンはユニークスキルでビュンビュント空を飛行したらしい。


とにかくユニークスキル持ちのモンスターは、それだけで厄介なのだ。



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