第43話【超大型異次元宝物庫】

両手足をロープで縛られた痩せ男が我が家の玄関前で正座をさせられていた。それを囲むは厳つい男たち。デズモンド公爵にシソンヌ隊長。それに俺と親父だ。


アビゲイルや他の騎士たちは門前の掃除をしている。何せ無数のスケルトンたちが倒されたのだ、門前は白骨化死体で山となっている。こんなところを町の人々に観られたら大騒ぎになってしまうだろう。だから朝になる前までにすべてを隠さなければならないのだ。


そしてアビゲイルや騎士たちによって回収された白骨死体はコープスモールが持っていた異次元宝物庫内に放り込まれていた。まあ、元あった場所に戻しているだけである。


そして、デズモンド公爵が短い顎髭を撫でながらシソンヌ隊長に問う。


「この貧弱な男が殺し屋のコープスモールなのか?」


「おそらくは」


返答しながらシソンヌ隊長が乱暴にコープスモールの前髪を掴んで顔を上げさせる。すると泣き出しそうな男が情けない面を見せた。


「痩せてるな。これで殺し屋が勤まるのか?」


「殺しに体型は関係無いでしょうな。何せこいつはネクロマンサーです。むしろ細身のほうがイメージ的にしっくりきますよ」


「ところでアトラス先生は何をしているのかな?」


無言のままコープスモールの懐を漁る俺にデズモンド公爵が訊いてきた。俺はコープスモールの身体から複数の異次元宝物庫を取りながら答える。


「こいつ、凄いや~。こんなに異次元宝物庫を持っていやがるぞ!」


最初にガイルがコープスモールから何個かの異次元宝物庫を剥ぎ取っていたが、その他にも懐を漁ると異次元宝物庫の装飾品が複数出てくるのである。


最初に没収した異次元宝物庫は腕輪が六つだったが、その他にネックレスや足輪までもが異次元宝物庫らしい。それらがワラワラと発見される。その数は10を越えていた。


「んん~、可笑しいな~」


首を捻りながら唸る俺にシソンヌ隊長が何事かと問う。


「如何なされましたか、アトラス殿?」


俺はコープスモールの身体をまさぐりながら答える。


「こいつね、絶対に超大型異次元宝物庫を持っているはずなのに、懐からは見付からないんだ」


「ああ~、なるほど」


すると突然ながらシソンヌ隊長が裏拳でコープスモールの顔面をしばいた。鈍い音が鳴る。


「ひぃぃいい!!!」


それはまるで豚の悲鳴のようだった。殴られたコープスモールが泣きじゃくる。


「助けてくれ、叩かないで、痛いのは止めてくれぇええ」


「情けない奴だな。殴られたぐらいで喚くとは……」


デズモンド公爵は呆れていたが、シソンヌ隊長が強面をコープスモールの腫れた顔に近付けながら問う。


「超大型異次元宝物庫はどこにある。どこに隠した?」


するとあっさりとコープスモールがゲロった。


「ネックレス型の異次元宝物庫の中です……」


「なるほど」


その言葉を聴いた俺は先程奪ったネックレスを握り締めながら念ずる。すると大型異次元宝物庫の扉が現れた。その扉が自動で開く。


「これが、超大型異次元宝物庫なのか?」


「違うようだな。これは大型だぞ、超大型ではないな」


大型異次元宝物庫の中には三枚の石板が収納されていた。それは電話帳サイズで手に取るとズッシリと重たかった。これだけの重量だと持ち運ぶのも大変だ。しかし、確かに異次元宝物庫で異次元宝物庫を運べば持ち歩くのも可能になるだろう。


「さてさて、超大型異次元宝物庫ってどんな感じなのかな~」


俺は石板に手を添えると開けと念ずる。すると眼前に超大型異次元宝物庫の扉が現れる。それは屋敷の門と同じぐらいの扉だった。そして自動で宝物庫の扉が開く。中を覗けば広かった。四畳半はありそうである。これならば空気さえあれば人が住めるだけのスペースだろう。しかし、異次元宝物庫の中は空である。


「これでトロールスケルトンを運搬してきたんだな」


俺の言葉にションポリしたコープスモールがコクりとひとつ頷いた。


「で、このコープスモールって男をどうするんだい、公爵閣下?」


俺の問いにデズモンド公爵が当然のように答える。


「そりゃあ、王都に連れ帰って裁判に掛けるつもりだ。まあ、十中八九死刑だろうがな」


「だよね~」


当然だろう。何せ命を狙った相手が王族の一人で王国の将軍様なのだ。死刑になるのが一番幸せな処分なのかも知れない。下手に生き延びられる処分のほうが地獄を味わうだろう。


そして、あっけらかんとデズモンド公爵が言った。


「よし、シソンヌ。すべての異次元宝物庫をひとつに纏めろ。すべて証拠品として王都に持ち帰るぞ」


「ええっ!」


驚いたのは俺であった。折角倒した獲物の戦利品をデズモンド公爵に一人占めされると慌てたのだ。


「ちょっと待ってください、閣下。すべての異次元宝物庫を持ち帰るのですか!?」


「ああ、当然だろ。これらはすべて証拠品だ。裁判で提出しなければならない」


「そ、そんな。せめて異次元宝物庫をひとつぐらい私にもくださいよ!」


「なぜ?」


デズモンド公爵は首を傾げた。


わざとだ。このおっさんは分かっててボケているのだ。


「俺だってスケルトン退治に協力したじゃあないですか!」


「そのような事は頼んでおらん。そもそも私ひとりでスケルトン風情の1000や2000は撃破できたわい」


「で、ですが……」


確かにそうだ。俺の助太刀は無用だっただろう。それどころか戦闘狂の楽しみを奪ったに近い。


しかし、デズモンド公爵が目を細目ながら言う。


「しかしながらだ。確かにアトラス先生にも褒美を与えなければ失礼かも知れないな」


「でしょー、でしょー、でしょー」


俺は揉み手で媚を売った。とにかく超大型異次元宝物庫がひとつは欲しい。超レアなマジックアイテムが眼前に三枚もあるのだ。これを逃したら再び御目に掛かれないかも知れない。


そして、デズモンド公爵がネックレスをひとつ手に取って俺に差し出した。


「これが褒美だ。受け取るが良いぞ、アトラス先生」


俺は遠慮無く返した。石板を指差しながら言う。


「こっちが欲しいです!」


「んん~、それは困ったな。今回のアトラス先生の働き程度では釣り合わん褒美だぞ、それは──」


このおっさんはねだっているのた。釣り合わないなら、俺が更に別の物を差し出すべきだと言っているのだ。


「ならば、次に完成した彫刻を優先的に公爵閣下にお譲りします……」


デズモンド公爵がニヤリと嫌らしく微笑んだ。


「それでは、まだまだ釣り合わぬ」


クソっ。足元を完全に見られていた。更に高い条件を提示しろと述べている。


「ならば、製作に時間が掛かりますが美少女型ゴーレムの5号機を作ったら公爵閣下にお譲りします……。くっく……」


「約束ですぞ、アトラス先生」


「は、はい……」


奥歯を噛み締める俺が返答するとデズモンド公爵が石板をひとつ取って俺に手渡した。俺はそれを受け取ると胸で抱えた。重い。


「ですが、デズモンド公爵。ゴーレムの製造費はしっかり頂きますからね!」


「ああ、当然だ。お金ならしっかり払おうぞ。そこまで私は強欲ではないからな」


そして、俺たちが話し合っている間に門前の清掃は済んでいた。骸骨の破片はひとつも残っていない。


するとシソンヌ隊長が手を叩いて騎士たちに告げる。


「よし、それでは全員出発の準備に取り掛かれ。日が完全に昇ったら出発するぞ。何せ今日中に発たなければ王都での会議に閣下が間に合わなくなってしまう」


「「「はっ!」」」


声を揃える騎士たちが今度は旅立ちの準備を始めた。どうやら寝ないで旅立つらしい。本当に元気な人たちである。本物の騎士って凄いね。


まあ、とにかくだ。俺も超大型異次元宝物庫を手に入れられてホクホクである。マジでラッキーだぜ。


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