第29話【運命の価値】
ドラマチックショップ・ミラージュ。店名は店主からもじっているようだ。
店主の名前はミラージュ。俺の眼前で長ソファーで嫌らしく横たわるセクシーな女性である。その胸は美乳であった。素晴らしい。
年齢は40を越えてそうだが女性としての賞味期限は切れていないだろう。お色気が枯れていないのだ。これならまだまだ行けるはずだ。──ってか、良かったら手解きを願いたいぐらいである。
そんなことよりもだ。
何故にこの女は俺をこの店に誘い込んだのだろうか?
そもそもこの店はなんだ?
店内を見回してみると骨董品屋のように伺えるが、並んでいる品物はすべてマジックアイテムのように鑑みれた。
その商品のひとつをオレは横目でチラリと確認した。それは木彫りの人形である。頭が大きく身体が小さい。まるでゴブリンのような人形であった。だが、その人形に添えられた値札を観て俺は仰天した。
「大金貨1000枚だと!?」
高額すぎる。こんな訳の分からない木彫りの人形が1大金貨1000枚とはボッタクリにも程があるだろう。
だが、別の品物を観た俺は更に仰天してしまう。
「な、なんだ、この店の価格は……」
壊れている。値段設定が崩壊している。どれもこれも値段が法外だ。すべての品物が大金貨1000枚を越えている。大金貨1000枚となると貴族の称号が土地付きで買える価格だ。故にあり得ない金額である。
「あのぉ~、ここはボッタクリショップですか?」
恩名は厚化粧を微笑ますと煙管の先をクルクルと回しながら言った。
「お主に当店の品物がいくらに見えているか知らぬが、お主に見えている値段がお主に取って、それはその値段だぞよ」
「人によって値段が違って見えるのか?」
「この店はドラマチックショップ。故にこの店の商品は、お客にとってドラマチックな代物。それを買い上げれば、それだけのドラマチックな運命が待っている価格だぞぃ」
俺は側に並んでいた奇っ怪な人形を手に取ると粗末に扱いながら言う。
「こんなゴミクズっぽい人形が、俺にとって大金貨1000枚をかけるほどドラマチックな品物だって言うのかよ」
「それは変わり身の人形だ。血判を刻んだ人間が死んだ場合、身代わりになってくれる人形だぞ」
俺はそっと人形を棚に戻した。
「そ、それは高価なマジックアイテムだな。確かに大金貨1000枚で買う人だって居るかも知れないね……」
本人の残機が増える。それは凄いマジックアイテムだ。しかし、大金貨1000枚は高すぎるだろう。
「ならば……」
俺は興味深く店内を見回した。ここにあるすべての品物がマジックアイテムで、買うことで俺の人生をドラマチックに輝かせてくれる可能性があるのならばひとつぐらいは購入してみたいものである。
だが、どれもこれも法外な価格だ。俺がいくらブルジョアでも簡単に買える価格ではないだろう。大金貨1000枚を貯めるのに何年何十年掛かるかも分からない。
そんな俺の視線にひとつのゴーグルが目に入った。それはプロペラ機のパイロットが風避けのために装備しているゴーグルのようなデザインだった。しかも、そのゴーグルの価格が少しだけ安い。大金貨100枚だ。
「なんで、このゴーグルだけ値段が十分の一なんだ?」
「それは、お主の魂にアイテムが引かれているからじゃ。運命ってものぞよ」
「運命?」
俺はゴーグルを手に取るとミラージュに問い掛けた。
「このマジックアイテムの能力を聞かせてくれないか?」
「それは透視のゴーグルじゃな」
「透視!?」
「そう、透視じゃ」
「透視って、あれですよね。壁の向こうが透けて見えるとかの透視ですよね!」
「ああ、その透視だぞい」
こ、これは運命だ!
このゴーグルがあれば、俺はいつでもどこでもどんなところでも女の子の裸を見放題ではないか!
ジェシカの豊満なおっぱいも、ララーさんの巨乳も、ラブリリスちゃんの健康的なおっぱいも、すべてのおっぱいを見放題ではないか!
それは、間違いなく大金貨100枚の価値はあるだろう秘宝である。
俺は力強い眼差しで透視のゴーグルを見詰めながら声を轟かせた。
「これ、我が家の家宝にしたい!」
まさにドラマチック成立案件であろう。本気でこのゴーグルを家宝にしたいぞ。
すると、俺の視線に長ソファーで横たわるセクシーな女性が目に入った。そこには麗しいボディーを無防備に寝そべらせているミラージュの美体があったのだ。しかも隙だらけ。
「女子、発見──」
俺は問答無用でゴーグルを装着するとミラージュの姿を観た。しかし、一目観た次の瞬間に膝から崩れる。
「肉まで透視して、骨しか見えていないぞ……」
透視のゴーグルを装着して俺が観たものは、骨だけ映るスケルトンな姿。それを観て俺のテンションがだだ下がりする。
「持て遊ばれた。青少年の純粋な心をババァに持て遊ばれた……」
「勝手に他人の裸体を覗き見ようとして被害者ぶるな」
「ち、畜生。グレたいわ……」
「そもそも私はアンデッドだ。肉など無いぞよ」
「えっ?」
俺はゴーグルを外してからミラージュを凝視した。だが、俺の肉眼に映るミラージュの姿はムッチムチである。このエロイ肉付きがスケルトンにはとても見えない。
俺が唖然としているとミラージュが人差し指に装着した黄金の指輪を見せながら言う。
「この姿はマジックアイテムで幻影を作り出して見せている紛い物。本当の妾はホネホネじゃぞ」
「じゃあ、骨が深紅のドレスを着ているのか?」
「その通りじゃわい」
「詐欺だ。金返せ!」
「お主、金なんて払ってないだろ……」
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