えっ、俺の専用機っておっぱいの大きいロボットとしか合体できないんですか?

あおき りゅうま

第1話 俺の名前は新谷。多分……死んだね。

 転移か転生か知らないが———気が付くと俺は未来にいた。


 死ぬ直前の記憶はない。よくあるネット小説の導入の様にトラックで引かれたのか、それとも百連勤がたたって過労死したのか、それとも人生に疲れて首を吊ってしまったのか定かではない。そもそも死んだ記憶がないのだから、もしかしたら突然目の前にゲートが開いて肉体はそのままにこの未来世界に来ただけなのかもしれない。

 俺は窓に映る自分の全身像をまじまじと見つめる。


「若いなぁ……俺」


 十代の頃の顔だ。まだ自分が何をやっても上手くいくと確信していた……若いと言うか、幼いころの自分の顔が窓にはっきりと映っていた。

 そう———ただの窓なのに、鏡のように俺の姿が映し出されていた。

 それは窓の外の景色が暗いからだ。

 窓の外が真っ暗だからだ。

 何も姿形フォルムが見えない、見えるのは小さな光る点々だけ。

 その———点々が窓一面に広がっていた。


「———そして、目の前に広がる大宇宙……」


 宇宙だった。

 窓の外には広い広い星空が広がっていた。

 足元に大地や海は全く見えない。

 そこにあるのは星空だけ。


「そして、見たことのない廊下……」


 真っ白な見たこともない素材でできたつるんとした通路。こんな光景、映画でしか見たことない。それも日本の映画じゃない。海外のお金のあるSF映画の光景だ。

 その光景が目に入ったからこそ———俺は今、未来にいるのだと理解できた。

 ここは———宇宙船の中なのだ。


「大丈夫———?」


 亜麻色のロングヘア―をなびかせた———ストーン、と平らな胸の女の子が俺の隣に立つ。


「もう平気? すごく、頭が痛そうだったけど……」


 心配そうに顔を覗き込み、背中をさする。

 どうやら、俺とこの子は知り合いらしい。それもかなり親し気な間柄の様だ。

 幼馴染か何かだろうか。


「……あ、あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」


 名前何て言うんだろう……?

 彼女は———軍服を着ていた。

 そして———俺も。

 俺と彼女は深緑の軍服を着て、胸には三本足を持つカラスのエンブレムバッジをつけている。

 軍人なのだ。彼女と俺は———。


「もう、心配したんだからね———」


 この親し気な間柄を見るに、幼馴染で一緒に軍に入って、同じように切磋琢磨している同部隊の戦友といったところか。


「しっかりしてよね! 隊長!」


 隊長?

 そう言うと、彼女は俺の方に白いマントを被せる。


「え?」

「どうしたの? ローニン・シンタニ隊長」


 ローニン・シンタニ……それが俺の名前か……変な名前。

 だけど新谷……日本人か。この未来世界に来る前の俺の名字も〝新谷〟だった。ということはこいつは俺の子孫かもしれないな……まぁ、この世界に来る前はまだ結婚していなかったんだけど……。

 でも———ちょっと待って。


「俺、隊長なの?」

「そうだよ? 特別機甲隊——ローニン隊の隊長。ローニン・シンタニ少佐じゃない」


 軍服の少女はその後、自らの胸元に手を当てて、


「そして———私はあなたの一番の理解者、セレナ・チェリッシュ少尉!」


 フフン、とない胸を張る。

 少尉…………少尉かぁ……。


「え……タメ口?」

「え?」

「え?」


 セレナと顔を見合わせてしまうが、


「ンンッ! いや、なんでもない……あ~、それでセレナ少尉———」


 どうやら俺とセレナは階級を気にしない。それを超越した間柄らしい。

 この世界での俺の記憶はない。

 だから、彼女や他の人間とどのようにこのローニン・シンタニという男が接していたかは想像するしかないが、俺はそれまでのローニン・シンタニと同じように振舞わねばなるまい。

 下手に正直に俺は令和の世界で生きていた日本人で、この世界には転生してやって来たなんて言ったらおかしな奴だと思われる。そのくらいならいいじゃないかと他人事なら思うかもしれないが、おかしな奴だと思われるということは孤立を深めるということだ。孤立を深めるということはそれすなわち人間として弱くなるということ。人間は集団の生き物で感情の生き物だ。感情が自分に向かず、集団を形成できない人間は———弱い。

 個人が企業に勝てないように、集団を形成するということは人間として生きていく上で非常に重要なことなのだ。

無双ゲームは大好きだが、実際に喧嘩してみると戦いは数だと痛いほど思い知らされる。どんな雑魚でも集団で襲い掛かって来られると勝てない。それが現実だった。


 友達を作ると人間強度が下がる———、と俺の学生時代に愛読していたラノベの主人公は言っていたが逆だ。友達を作ると人間としての強さが増すのだ。


「セレナ、改めての確認なんだが……俺は何をするところだったんだっけ?」


 なので俺は、セレナという少女に嫌われないように、さも記憶があるかのように振舞っていた。


「も~、しっかりしてよォ!」


 バンッと背中を叩くセレナ。

 気安きやすぅ……いいけど。


「これから船団が地上に降下するから、私たちパイロットはドッグにあるマシンのコックピットで待機、でしょう?」

「船団?」

「うん」


 セレナが窓の外を指さす。


「わぁお……!」


 セレナの指さす先には巨大なドーム型の宇宙戦艦があった。

 大きさはわからない。宇宙空間というのは空気がないおかげで遠近感が狂うらしく大陸の様に大きくも見えるし東京ドームぐらいの小ささにも見える。だが、輝く天井盤を少し開き、透明な半球状のガラスの下にビル群と森が映えた大地があった。


「マジで未来やん……」


 まるで亀の様だ。透明な亀の中に世界があるような、そんな宇宙船……そういえば、古代のインドでは亀の上に地上があると考えられていたんだっけ……。


「都市船が地上に降りるから、私たち地球軍は何があってもいいようにコックピットで待機。OK?」


 手で輪っかを作ってニヤッと笑って覗き込んでくるセレナ。

 マジで気安いな……こいつ……。

 絶対こいつ幼馴染だ。

 階級は俺が少佐でこいつが少尉。遥かに俺の方が高いのに、こんなに気安く話しかけてくる。お互いの顔立ちを見るに俺とセレナはそんなに年代に違いはなさそうだし、多分、軍に同じ時に入隊したが、俺の方が優秀で階級がドンドン上がって差がついてしまった。だけど、このローニンもセレナもそんなこと全く関係なく昔通りの間柄で接している。そんな関係性だろう。


「OKだ」


 なるほど、わかった全てを理解した。


 俺はこれからとりあえず自分の機体のコックピットに入ればいいんだな?

 そして———これからあのドーム型の船を含めたこの船団は、〝地球〟に降下する。

 何が何だかまだ正確には把握できていないが……まぁ、長旅からの帰還。そういうことだろう。


 〝何があってもいいように———〟


 セレナはそう言った。

 飛行機と同じだ。

 毎回こなして当たり前のようにやっている離着陸も何が起きるはわからない。万が一にでも不測の事態が起きる可能性は十二分にある。

 よし、わかった。

 まだ見たこともないし、一体どういうモノなのかわからないが、その機体とやらに乗って万が一の事態に備えよう。

 そう、心に決めた瞬間だった。


 —————————————————————————————ィィィィッッッ‼


 通路のライトが一瞬だけ落ちたかと思えば、赤い回転灯が天井から落ち、けたたましいサイレンの音が響く。


「な、何だ⁉」

「エマージェンシーコールです! やっぱり・・・・、来たね。隊長」


 セレナが冷や汗をかきながらも、ニヤリと口角を上げる。


「来たって何が⁉」


 いきなり空間が緊張感に満ちたせいで、軽くパニックを起こす。まだ、俺はこの世界が、この船がどういったものなのかもわかっていないのだ。


「敵」

「敵⁉」

ドラゴン

「ドラゴンなの⁉」


 えぇ……突然のファンタジー……。

 ここ宇宙空間でこの世界はSFじゃないの……?


「何をのんびりしているんだ!」


 と、第三者の声が俺を刺すように通路に響き渡る。


 少女だ。


 ウェーブがかったボサボサ頭に丸眼鏡をした、中学生ぐらいの小さな少女。だが、目の下のクマと羽織っている薄汚れた白衣がどこか普通のロリではない雰囲気を感じさせる。


「とっととハンガーへ行って、君たちの機体に乗りたまえ! ロニ! セレナ!」

「はい!」


 ロリに一喝されたと言うのに、セレナは反論することもなくびしりと敬礼をしてロリの脇を走って通っていく。


「あ、待ってくれ……!」


 俺もついて行かねばとロリの脇を横切った———その瞬間だった。

 ロリが呟いた。


「———魔法人ファンタジーを駆逐して、我々の手で地球を奪還だっかんするんだろう?」


 ————ん?


 何を言っとるんだ? あのロリは……。

 何はともあれ、俺は格納庫ハンガーに急いだ。

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