第9話 晴れ舞台に向けて


「おい、起きろ。リュージ。もう、朝だぞ」


「んんん……スライム……」


 朝日が目に沁みる、そんな日。俺はスライムに起こされた。おもむろに時計を見る。まだ7時。くそ、もうちょい寝てたかったぜ。今日は日曜日だってのに……


「お前、大丈夫なのか? 今日は記念すべき初配信の日だろ? それに、あの女との約束……」


「い、いっけね! そうだった!」


 そう、今日は初配信に向けて、機材確認などの準備が8時からあるのだ。それも、ホムラの小屋で! ここから自転車で15分もかかる。


「しっかりしろよ、リュージ。私だって、それ相応のリスクはある上で、マナを供給できるからと、お前の配信を容認してるんだ。それをすっぽかして貰っちゃあ……」


「大丈夫だって! すぐ行くよ!」


 俺はベッドから飛び起き、目にも止まらぬ速さで動き出す。遅れるわけにはいかない!


――


「おっ、来たねー! 7時59分47秒!」


「はぁ……はぁ……な、なんとか間に合いました……」


 自転車をこいでいた足を止め、ゆっくりと地を踏む。息は絶え絶えだ。よく見てみれば、ホムラもだった。スポーティな服を来て息を切らすその姿は、まさにアクティブガール。太陽のように、輝いて見えた。


「私も今来たところだから! ほら、早く入ろ!」


 そんな俺を気にせず、ホムラはその小さな手で小屋へと招く。華奢な身体のどこにそんな体力・気力があるのだろうか。やはり、配信業で食ってる人は、違うな。俺もこう、なれるのかな。


「今日の配信は、私がまず君のことを紹介する。そして、君は私を助けてくれた時のように、力を奮ってもらえればいいよ。おっけ?」


「お、押忍!」


「そんな力入れなくていいからさ。楽しくいこうよ」


 ホムラはそう言って、俺の背中を優しくさすってくれた。暖かい。ホムラの優しさや思いやりが、布と皮膚を通して伝わってくるみたいだった。


 てか、何!? 俺、今、ホムラに優しくして貰ってんの!? それも直で! 意識してなきゃなんともないんだけどな。急に、恥ずかしくなってきちまったよ。


「あ、顔赤くなってるー。適度な緊張はいいけど、ガチガチになりすぎないでねー」


「そ、それはホムラさんが……」


 俺は口をもごもごしながら悶える。あーもう、じれったい。こんな気持ちをすぐに吐き出せる、そんな関係になれたらいいのに。


「ホムラさん、入りますよ」


 ガチャリ。鍵が開く音が聞こえた。俺が振り向くと、そこにはスーツを着た長身の男が立っていた。


「申し遅れました。私、ホムラ……九条さんのマネージャーをしております黛慎也まゆずみしんやと申す者です。以後お見知り置きを」


「ど、どうも……」


 俺が言葉を発する前に、黛さんは深深とお辞儀をした。まさに、できる大人、と言ったところであろうか。そして威圧感をビシビシと感じる。この人も、凄いスキルを持っているのだろうか。


「しんちゃん! もう準備出来たってこと?」


「左様で。さぁ、行きましょう」


 黛さんは扉を開け俺たちを呼ぶ。外には黒い高そうな車が止まっていた。


「カメラ、よし。マイク、よし」


 指差し確認、1つずつ。忘れ物はシャレにならんからな。


「よっしゃ! 行くか!」

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