第3話 レッツゴーダンジョン(ノンスキル)


 ダンジョン――俺が産まれるずっと前に、突然現れた謎の地。その中には、科学では説明できない数々の物品や、人を襲う怪物『モンスター』が生息している。


 当初は未知の存在の登場に、恐怖や混乱が巻き起こったものの、先人たちの調査や、各国が一丸となって行った調査によって、様々なことが発覚した。スキルもその1つだ。


 その他様々な発見から、いつしかダンジョンは『未知』から『既知』へ。『恐怖』から『憧れ』へと変わっていった。


 我が国日本はダンジョンに眠る特殊な物品に目をつけ、教育にダンジョンを取り入れたり、SNS――動画配信などの娯楽化を進めた。その結果、ダンジョンは日本の主要産業として成長し、生活に身近なものとなった。





「でもよぉ、腹が減ったなら普通に飯食えばいいじゃねぇか。わざわざダンジョンにあるもの食う必要は……」


「そう言う訳にもいかないらしい。私の中の本能がそう言ってる。『ダンジョン内の獲物を食わなければ、エネルギー補給はできない』とね」


 なんだ、本能本能って。本当に自分のこと何も知らねぇんだな。


「そうは言ってもなぁ……俺、ノンスキルだし。それにお前だって『モンスター界最弱』のスライムじゃねぇか。危ないったらありゃしねぇ」


「それに関しては保証しよう。私は絶対、龍二を守る。我が身に変えてもな」


 うーん、イマイチ信用出来ねぇ。これがもし、ドラゴンやタウロスなら信用出来んのになぁ……まあ、低級のダンジョンなら死ぬことは無いし……いいか。


「しゃあねぇな。いくぞ!」


 俺は大急ぎで駐輪場へと向かった。


――


「っとー、到着!」


 学校からチャリで10分、俺たちは最低ランク・E級ダンジョンである『始まりの草原』の入口へと辿り着いた。目の前には、始まりの草原へと繋がる、高さ10m超のゲートがある。


「君、ダンジョン探索許可証を」


「ああ、はい。どうぞ」


 俺は財布から、人生で数度しか使ったことのない許可証を取り出し、ダンジョンの入口の係員に渡した。ダンジョンに入れるのは、特殊な場合を除いて義務教育を修了している者のみ。それ以外の侵入を防ぐため、我が日本ではこのような許可証制を取っている。


「じゃ、頑張ってこいよ」


 係員に促され、俺はゲートをくぐる。すると、辺りの住宅地の景色が、一瞬にして広大な草原へと変わった。これで、ダンジョン潜入完了だ。このふしぎ技術の原理に関しては、まだ分かっていない。ただ、このゲートはダンジョンが生まれた時から存在している、ということは判明している。


「すごいな、ここは……熱気で満ち溢れている」


 スライムは感嘆したような声で言った。『始まりの草原』は最もランクの低いダンジョンなので、その分人も多い(ほぼ誰でも入れるからね)。スライムが感じた熱気も、それによるものだろう。


「さて、それでお目当てのものはあったのかい?」


「ふむ……この場のどこかにあるのは分かっているのだが……私の本能は、もっともっと奥にあると言っているな」


「そうか」


 基本、ダンジョンというのは奥に行くほどモンスターが手強くなる。本来、ノンスキルの俺には推奨されない行為だが……行ってみるか。スライムの能力についても把握したいし……何より、せっかくダンジョンに来れたからには、色々見てみたい。


――


「おいおい、お前のメシってのは一体全体どこにあるんだ? もうダンジョンも残りわずかしかないぜ」


 あれから、20分くらい歩いた。ダンジョンももうそろそろ佳境だろう。だが、ダンジョン特有の物質どころか、モンスター1匹すら見えない。これは、異常事態だ。何が、起こっている?


「……! 隠れろリュージ! 何か、やばいものが来るぞ!」


 突然、スライムが語気を荒げて叫んだ。基本的に冷静なこいつがここまで声を張るなんて、飛んだ異常事態だ。それに、モンスターにしか分からない『何か』があるかもしれない。俺は咄嗟に、近くにあった岩陰へと身を潜めた。


「ボラォォォォォォ!」


 隠れてすぐ、強大なモンスターの咆哮が、草原いっぱいに響いた。これは、ただものでは無い。俺はバレないよう、こっそり外の様子をうかがった。


 俺の視線の先にいたのは、漆黒の鱗に覆われた身体に金色の角と爪を携え、その翼と黒炎で全てを焼き尽くすA+級モンスター『冥界龍ファブニール』だった。


「どうして、E級ダンジョンにA+級がいんだよ……」


 A+級のモンスターは、凄腕探検者が5人集まっても、倒せるかどうか分からないほど強い。まして、俺が勝てるような相手では無い。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!」


 周囲にいた冒険者たちは、ファブニールの姿に気づくと一目散に逃げ出した。当然だ。俺も、どこかのタイミングで逃げないと。


「おいリュージ! もう1つ、やばいパワー

を持った奴が近づいてくるぞ!」


「なんだって!」


 ファブニールから逃げれる隙は作れても、もう1体を掻い潜る余裕なんて、俺にはないぞ! くそ、ダンジョンなんて来なきゃよかったんだ!


「いや、これはモンスターじゃない。……まさか、人間か!」


「!?」


 人間だと!? こいつに立ち向かう奴が、いるってのか!? ここ、E級ダンジョンだぞ!?


「いたわねファブニール! ここで私が、あなたを倒すわ! 覚悟しなさい!」


 ファブニールの前に立ち塞がったのは、1人の少女だった。そして、俺はそいつの姿を、鮮明に記憶している。


「あ、あれは……」


 青い鎧に、巨大な赤刀。端正な顔立ちと、人を魅了するキラリと光る髪。そう、あの少女は、俺がずっとずっと画面で見てきた憧れの存在、『ホムラ』だった。

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