ノースキルの俺、スライムが頭から生えてきたのでダンジョン配信者になろうと思います。〜どんなスキルより珍しい最強の相棒と共に人気配信者を助けたらバズりまくり。才能ない?関係ねぇ!俺とこいつなら!〜
大城時雨
第1話 既知との遭遇。でもなんか違う
「さぁ、ついにA級ダンジョン最下層! そしてあの牛みたいのがラスボスかな!」
巨大な二足歩行の牛を前に、ゆったりと剣を構える勇ましい美少女――そんな映像が映ったスマートフォンを、俺はじっと覗き込む。
「ぶるぅ!」
「おっと!」
巨大牛『タウロス』の突進を、少女は軽い身のこなしで避ける。重そうな甲冑をものともしない少女の美しくも力強い動きに、見惚れてしまう。
「さ、これで決めるよ!」
少女は剣を手に握りしめた。その瞳は、真っ直ぐただ敵を見つめている。心の中に、熱い闘志を燃やしながら。
すると、その心を体現したような、蒼く燃え盛る炎が剣にまとわりついた。
「うぉぉぉ!S級奥義『蒼剣炎陣斬』!!!」
少女は体勢が崩れたタウロス目掛け、一直線で駆けてゆく。そして、目の前で跳躍し、脳天目掛け剣を振りかざした。
「ウォォォォォ!」
その剣は蒼炎と共にタウロスの身体を真っ二つに引き裂き、大炎上を引き起こした。それはまるで花火――炎のカーニバルのようだ。
【すげぇぇぇぇぇ!】
【これはレベチ】
【カミワザきたぁぁぁぁ!】
カーニバルを彩るように、配信に送られたコメントが大河のように流れる。皆、驚きと感動を隠さずにいられない。
「はい! ということでA級ダンジョンソロ攻略完了です! 以上、蒼炎勇者『ホムラ』でした! それじゃあ最後に! 『ヒーローは、誰にでもなれる!』それじゃあねー!」
少女は先程とは違う、愛嬌のある仕草でこちらに手を振る。そして、画面の暗転の後、『配信終了』の文字が、スマホに浮かび上がった。
「か、か、かっけぇぇぇぇ!」
俺はスマホを放り投げ、ベッドの上でのたうち回った。あんなもの見せられて、熱くならない男はいない。みんな、思うことは同じだ。
特に、俺が今推してる『蒼炎勇者 ホムラ』は特別いい。華麗なステップ。美しい蒼炎。そして、何よりもいいのが、その表情。時に勇猛で、時に清楚で、時に可憐。全てが完璧だ。
「
背後から声がした。声の主はゆっくりと優しくドアを開け、室内に入ってくる。お母さんだった。
「あ、お母さん……」
こんな時間にどうしたのだろう。あ、夜遅いのに大声出したからかな。
「この動画……やっぱりダンジョン配信ね……」
あ、まずい。見られた。
「ごめんね! ごめんね! 私が悪いばっかりに! あなたを『スキル持ち』に産んであげれなくて!」
俺が言葉を発する前に、お母さんは俺を強く抱き締めた。そして、何度も何度も謝罪の言葉を述べる。その目に、涙を浮かべながら。
お母さんがここまで謝るのには、理由がある。それは、『俺にスキルの才能が、これっぽっちもなかったから』だ。
さっきのタウロスのような、ダンジョンに巣食う危険なモンスター。そいつらに対抗するため、人々に突然発言した超能力――それが「スキル」だ。
スキルは、ダンジョン内でしか発動できない。その代わり、人智を超えた超常的な力を発揮できる。例えば、電気を出せたり、とんでもないものを持ち上げたり――ホムラの炎や身体能力も、その1つだ。
そして、スキルの内容は『産まれた時点で確定している』。努力など関係ない。完全に『才』の世界だ。大抵のスキルはモンスターに対抗しうるだけの強さだが。
しかし、全人口のわずか1%のみ『
「大丈夫だよ、お母さん。そんな悩むことじゃないし。ほら、明日も早いんだし、早く寝なきゃ」
「うん……ごめんね……」
俺のなだめが功を奏したか。お母さんはゆっくりと扉を閉め、階下へと戻って行った。
「……大丈夫なわけ、あるか」
お母さんが降りたことを確認した後、俺は1人で静かに吐いた。俺はこの『
小中高、その全てで俺は哀れみの視線を受けた。いじめを受けたこともあった。
それだけじゃない。学校以外のどんな場所でも、スキルのことについて話す時はバカにされる。「え、ノンスキルなんですか? 可哀想に」と。
だが、それらは何とか我慢出来る。いい仲間もそれなりにいるし、今はいじめを受けてない。でも、俺が1番辛いのは、『夢を追いかけられない』ことなんだ。
俺のゆめ――『ダンジョン配信者になって、みんなを笑顔にしたい』は、一生叶えられないだろう。小さい時に抱いた、あの夢は。
この悲しみを、怒りを、苦しみを、どこにぶつければいいのだろうか。母になんて、ぶつけられない。どうすれば、この心は落ち着くのだろうか。
俺はそんな心を抑えるため、配信を見ている。もしかしたら、燃え上がる怒りを配信で消化しているのかもしれない。
「おーい、ここにノンスキルの龍二がいるぞー!」
「やーい、ノンスキル! 無能!」
「くそっ……」
そんな事思ってたら、嫌な記憶を思い出してしまったじゃねぇか。
俺はこのまま、やりたいことも出来ず、ただバカにされて死んでくのかな。
やり切れない思いを感じながら、俺は静かに目を閉じた。枕は、涙で濡れていた。
――
「んん……」
それは、眠りについた後のことだった。なんか、妙に腹の辺りがムズムズする。なんだ? 何か布団の中に入れちまったか?
何がある? 俺は面倒くさがりながら、布団を退かす。そこには――
「ぷるぷるー!」
青いぷにぷにとした、まん丸の身体に、ぱっちり開いた目を付けた、最弱モンスター『スライム』がいた。
「うわぁぁぁ!」
俺は咄嗟に仰け反る。モンスターは、ダンジョンの外に出れないはず。そして、俺は無能力。いくら最弱といえど……怖い。怖いよ。何をしてくるんだ! こいつは!
「ぷるー!」
スライムは謎の鳴き声を発しながら、身体を地面に擦らせ、ジリジリと近づいてくる。
「く、く、来るなぁぁぁ!」
――
「……はっ!」
額に滴る冷や汗を感じながら、俺は目を覚ました。辺りを見回す。何もいない。それどころか、俺が暴れた形跡もない。ほっとした。
「なんだ、夢か……」
「夢じゃないぞ」
「!!!???」
子供のような高い声が俺1人しかいない部屋に響いた。スマホは……ついてない。だとすると、あの声は一体……誰?
「お、まだ気づかないか。こいつ、間抜けか?」
どこだ? どこから声がする。
「おーい、ここだよ」
ん……待てよ……? もしや、天井? でも、上には何もいなかった。もしや……俺の頭の上か?
俺は枕元に置いてあった携帯を取り、恐る恐る内カメを起動しようとする。
その時、ぽたり、何か液体のようなものが額に垂れた。汗ではない。俺はそれを手に取った。青い。そう、まるで夢に出てきたスライムのように。
……まさか。俺はようやく開いたカメラを、ゆっくりと顔の前へ持ってくる。
「な、な、なんじゃこりゃぁぁぁ!」
俺の悪い予感は当たってしまった。なんとあのスライムが、俺の頭頂部から、植物のように生えてきていたのだ!
「そんな驚くことかい?」
「いや、驚くよ! 1000トンハンマーレベルのやべー衝撃だよ!」
頭の上で元気そうにびょーんと伸びるスライム。悪夢、早く覚めて。
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